メルセデスが発表した『ビジョン・ワンイレブン』、その大胆なフォルムに込めた意図とは?

メルセデスベンツ ビジョン・ワンイレブン(ONE-ELEVEN)
メルセデスベンツ ビジョン・ワンイレブン(ONE-ELEVEN)全 11 枚

メルセデスベンツが米国デザイン拠点でコンセプトカーを披露した。『ビジョン・ワンイレブン(ONE-ELEVEN)』はその名の通り伝説的な実験車『C111』へのオマージュであると同時に、次世代のメルセデスが目指す「アイコニック・ラグジャリー」という方向性を示すものでもある。

ビジョン・ワンイレブンとC111

◆全高1170mmの過激なプロポーション

南カリフォルニアのカールスバッドにあるメルセデスのデザインスタジオ。先行デザイン開発を主な任務とするここを舞台に、次世代のデザインと技術を紹介するイベントが開催された。そのメインのトピックとして、我々の前に現れたのがビジョン・ワンイレブンである。

まず驚いたのは、そのプロポーションだ。電動セダンの『EQS』や『EQE』に採用した「ワンボー・デザイン」、すなわちひとつの弓なりのカーブでシルエットを作るというテーマを揺るぎなく受け継ぎながら、それを超低全高の2座パッケージで表現した。全高はたったの1170mm。22インチを収めて大きく盛り上った前後のフェンダーがスポーツカーらしいダイナミズムを醸し出すと同時に、背の低さを強調する。

全高1170mm。床下にバッテリーを搭載しながらこの低さは驚異的だ。全高1170mm。床下にバッテリーを搭載しながらこの低さは驚異的だ。

「過激なプロポーションでしょう? なにしろホイールよりボディのほうが低いのだからね」と語るのは、メルセデス・デザインを総指揮するゴードン・ワグナー。ここで言う「ボディ」にはキャビンを含まない。ベルトラインから下のロワーボディのことを指しているわけだが、ビジョン・ワンイレブンにはベルトラインがないので少しややこしい。

サイドウインドウにボディカラーと同色のドットパターンを施し、ウインドウをボディに融合させている。当然、ベルトラインは存在しないし、キャラクターラインもない。フォルム全体が連続面で包まれ、ひとつのカタマリとして強烈な存在感を放つ。まさにアイコニックなデザインだ。

◆伝説を受け継ぐガルウイング

発表セレモニーではまずC111が現れ、続いてビジョン・ワンイレブンが披露された。ビジョン・ワンイレブンの前にいるのが、メルセデス・デザインを率いるゴードン・ワグナー。発表セレモニーではまずC111が現れ、続いてビジョン・ワンイレブンが披露された。ビジョン・ワンイレブンの前にいるのが、メルセデス・デザインを率いるゴードン・ワグナー。

「我々のゴールはスタイリングではなく、アイコンを創造することだ」とワグナーは語る。「我々のDNAには『300SL』や『C111』といったデザインアイコンがあり、そこから今回のアイコニックなデザインのインスピレーションを得た。『ビジョン・ワンイレブン』は『C111』を今日的に解釈したものだ」

C111は1969年にデビューしたミッドエンジンの実験車。12台が製作され、そのうち11台がロータリーエンジンを搭載。1975年の最後の1台はディーゼルターボを積み、さらにその後、2台がロータリーからV8ガソリンに換装された。

パワートレインのテストベッドだったわけだが、C111はブルーノ・サッコの手になるデザインでも歴史に残る。サッコは75年にデザインディレクターに昇格したので、彼の出世作のひとつと言ってもよいだろう。

ビジョン・ワンイレブンのドアはC111と同様にガルウイング。その理由をワグナーは「地球上でガルウイング車を生産したのはメルセデスだけだから」と告げる。もちろん50年代の名車『300SL』を指しての言葉だ。

50年前のこのC111が、ビジョン・ワンイレブンの発想の原点になった。50年前のこのC111が、ビジョン・ワンイレブンの発想の原点になった。

ランボルギーニ『カウンタック』のように前上方に回転しながら開くドアもガルウイングと呼ぶことがあるが、メルセデスは違う。まさにカモメの翼のように左右に開く正統派ガルウイングは300SLで生まれ、C111に受け継がれた。このメルセデス独自なドア形式が、ビジョン・ワンイレブンのアイコニックさを裏書きすることは言うまでもない。

両端に丸いランプを配したフロントとリヤの横長グリルにもC111のイメージを踏襲。しかしもちろんレトロな匂いは一切ない。ランプ部分はいくつものLEDで構成され、その点灯パターンを状況に応じて変えることで周囲にメッセージを伝える機能を持つ。

デザイナーが「カッパーオレンジ」と呼ぶボディカラーも、C111のオレンジをリスペクトしながら進化させたもの。メタリック層の上にカラー層を塗り重ねることで、鮮やかさと深み感を両立させている。

◆F1のようなドラポジ

F1並みに低いドラポジが1170mmの低全高を可能にした。F1並みに低いドラポジが1170mmの低全高を可能にした。

床下にバッテリーを積みながら1170mmの低全高を実現するため、ヒップポイントが非常に低い。ワグナーによれば、「足先がお尻より高くなる。ルイス・ハミルトンと同じような姿勢で座るわけだ」。メルセデスのハイパーカー『AMGプロジェクト・ワン』の着座姿勢に「非常に近い」とのことなので、けっしてロードカーとしての機能を無視した低さではない。

室内幅一杯に水平に広がるインパネには、これまた幅一杯にドット表示のディスプレイをビルトイン。EQEやEQSではインパネ全体をディスプレイにした「ハイパースクリーン」がオプション設定されているが、ワグナーは「今後はすべてのメルセデスで『ハイパースクリーン』を選べるようになるだろう」と明かした。

あえてドット表示にしたのは「ピクセル数を減らし、80年代スタイルにしたかったから」だというが、1台限りのコンセプトカーのために液晶や有機ELのディスプレイを新開発するわけにもいかなかった事情も垣間見える。それでもダミーではなく、きちんと機能するディスプレイにこだわったのは、メルセデスらしいところだ。

◆YASAモーターという新技術

同じ出力なら、YASAモーターは軸方向の厚さが1/3というコンパクトさだ。同じ出力なら、YASAモーターは軸方向の厚さが1/3というコンパクトさだ。

C111がパワートレインのテストベッドだったように、ビジョン・ワンイレブンも新技術のパワートレインを採用している。英国YASA社が開発した軸方向磁束モーターだ。

YASA社はオックスフォード大学からスピンアウトしたモーターのスタートアップ企業。メルセデスはその技術を高く評価し、2021年に買収して完全子会社化した。

同じ出力で比較すると、YASAのモーターは従来のモーターに対して軸方向の長さが1/3とコンパクト。つまり薄型にできる。それを活かしてビジョン・ワンイレブンではリヤに2基のYASAモーターを搭載し、それぞれ左右の後輪を駆動することとした。左右後輪の駆動力を個別に制御できるから、ハイパワーでもスタビリティを確保できるというわけだ。

実はメルセデスは1年前に発表したコンセプトカーの『ビジョンAMG』でも「YASAモーターを採用」としながら、その詳細は明らかにしていなかった。今回の取材で得た最新情報については、続報をお待ちいただきたい。

メルセデスベンツ ビジョン・ワンイレブン(ONE-ELEVEN)メルセデスベンツ ビジョン・ワンイレブン(ONE-ELEVEN)

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは審査委員長を務めた。

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