トヨタの米国研究所が「画像生成AI」の活用法を公開 カーデザインのAI化が進む?

今回発表のAI活用テクニックを使ってデザインされたスポーツカーのスケッチ。
今回発表のAI活用テクニックを使ってデザインされたスポーツカーのスケッチ。全 3 枚

米国シリコンバレーを本拠とするToyota Research Institute=TRIが6月20日、画像生成AIをカーデザインに活用するテクニックを公開した。TRIはトヨタのAI技術の研究中枢。これまで自動運転車などを手掛けてきた研究所が、はたしてどんなデザインテクニックを披露したのか?

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◆画像生成AIにエンジニアリング要件を織り込む

プロンプトという文字列を打ち込めば、1分たらずで美しい絵を描いてくれる画像生成AI。基本的には「自動イラスト描画アプリ」なのだが、デザインへの応用もすでに始まっている。

「画像生成AIはしばしばデザイナーのインスピレーションのために使われるが、実際のカーデザインで考慮されるエンジニアリングや安全性の複雑な問題を扱うことはできない」と語るのは、TRIのHuman Interactive Driving=HIDという部署でディレクターを務めるアビナシュ・バラチャンドラン。HIDの活動のひとつにAIツールで人の能力を高める研究があり、そのノウハウを今回は画像生成AIに活かした。

空力性能、地上高などのシャシー寸法、キャビンの広さはデザインを具体化するのに必要なエンジニアリング要件だが、現状の画像生成AIにこうした物理的な要件をインプットすることはできない。要件に合致しそうな画像が出てくるまで何度もトライするしかなかったわけだが、TRIはそうした要件を画像生成AIに「暗黙的」に織り込めるようにした。

◆デザインの意図を保って空力最適化

CAE=コンピューター支援設計で広く使われている「数学的最適化」の理論を画像生成AIに応用。画像生成AIのアルゴリズムに物理的なガイドラインを組み込むことにより、デザイナーが打ち込んだプロンプトを変えることなく、エンジニアリング要件に対して最適化された答えが出るようにしたという。

例としてTRIが披露したのが、空力最適化だ。ベースとなるスケッチから、デザイナーがプロンプトに「スリークに」、「SUVっぽく」、「モダンに」と打ち込んで3案のバリエーションを展開。これを繰り返すうちに、各案の答えがだんだん空力的に洗練され、予想CD値が下がっていく。

「繰り返す」といっても、画像生成AIは非常に短時間で答えを出す。従来はデザイン案を空力エンジニアが解析して修正要求を出し、それを受けて修正したデザインをまたエンジニアが…とやっていたわけだから、時短効果は明らか。修正したけれど結果が伴わないという無駄も省ける。

「AIの創造的なパワーを活かして、デザイナーやエンジニアの能力を拡大したい」とシャーリーン・ウー。彼女はTRIのヒューマンセンタードAI=HCAI部門のシニアディレクターで、画像生成AIのアルゴリズムに物理的なガイドラインを組み込むことを発案した一人だ。今回の画像生成AIの新たな活用法はHIDとHCAIの共同研究で実現した。

◆画像生成AIがカーデザイナーを触発する時代

画像生成AIでクルマをデザインできるのか? もしできたら、カーデザイナーは要らなくなるのか? その答えは上述のウーの言葉にある。

筆者は5月の大型連休から、趣味と実益を兼ねて画像生成AIを使ってきた。まだビギナーだが、デザイナーの発想支援ツールとしては、あるいは開発の途中段階でディテールのバリエーションを展開する場面では、現状のアプリでも充分に有効だと確信している。しかし寸法要件ひとつ入れられないのでは「デザインツール」にはならない。

そこにTRIが突破口を開いた。これを契機に自動車メーカー各社が「AIのデザイン活用」にしのぎを削り、デザイナーの創造性をより拡大するデザインプロセスの確立に進んでいってほしいと思う。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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