【ボルボ EX30 新型試乗】「つまらないクルマ」と呼ばれたかつてのボルボの面影はない…中村孝仁

ボルボ EX30
ボルボ EX30全 29 枚

◆自動車産業の未来が凝縮されたクルマ

ボルボというブランドで働く人の話を聞いたり、話をしたりするのはとても楽しい。理由は常に彼らがとても真摯だからである。

【画像全29枚】

その昔、ボルボの本社があるスウェーデンによく行った。試乗会への参加が主である。そして試乗した後開発の人と話をする機会が多々あったが、常に彼らは真摯であった。遠い極東の島国からやってきたジャーナリストの意見をとてもよく聞いてくれた。“I agree with you”(同意します)という言葉を頻繁に使い、私の意見を聞いてくれた。日本でもやはり試乗会でボルボのメンバーと話をしても本国と同じような雰囲気である。

今回の『EX30』ではプレゼンテーションをしたH氏の説明が素晴らしかった。そしてほとんどの他メーカーは自社のクルマがどれだけ素晴らしいかを得々と語るのだが、ボルボの場合はそうではなくて、ここは改善の余地があるなど、積極的に次を見据えた意見を織り交ぜながら話をしてくれる。だから、聞いているこちらもリアリティーを持って受け止められるのだ。賛辞ばかりが並ぶと、どうせそうなんでしょという拒否反応が時々こちらの気持ちに沸いたりするものだ。

で、新しいEX30というクルマは話を聞いていると、まさに自動車産業の未来が凝縮された印象で、自動車単体というよりもこういう環境で作られた自動車だから、持続可能な未来が作れるのですという一つの未来図を見せてもらった印象なのである。だから、如何に性能が良いかとか、如何に乗り心地が優れているかとかという、個体の持つ自動車としての性能に関する言及はほとんどない。どんな素材を使い、どのように作られているかという説明に終始し、後の評価はお任せ…といったそんな雰囲気だった。

残念ながら試乗時間は決して潤沢ではなく(と言っても1時間45分)、今回は言わば味見の試乗である。で、結論的にお話をすると、実に新鮮なクルマであったというのが第一印象である。

◆チープな素材なはずなのにチープ感を感じさせない

どう新鮮かというと、触るものや見るものがとても新鮮であった。いくつかの例を挙げると、まずサイドミラー。とりわけ新しいものではないけれどフレームレスのミラーを採用している。見た目にとても奇麗だ。次にシートアジャスター。通常は座面を動かすスイッチと背もたれを動かすスイッチが別についているが、このクルマの場合一つの四角いスイッチですべてをこなす。スライドさせると前後に動き、回転させることで背もたれを調節できる。結構眼から鱗だった。後から聞いたら四角いスイッチの真ん中を押すことで、上下方向の調節も可能だったとのこと。いずれ試してみよう思う。

ドライバーの眼前にメーターはない。ダッシュセンターにつく大型のディスプレイがすべてをこなす。まあ、この辺りはテスラも同じなので、少し新鮮味は削がれるが、それでもダッシュパネル全体が引っ込んでいて、コンパクトな外観に似合わず広々としたインテリアを構築する一助になっているという。新鮮だった最後はスライド式のカップホルダー。センターコンソールに引き出しのように仕舞い込んであり、必要のない時は片づけることができて、これも空間確保の一助になっていた。残念ながら後席を試す時間的な余裕はなかった。

説明によればシートはバイオ素材やリサイクル素材で出来ていて、一見本革のような部分はボルボが新たに開発したノルディコという、ペットボトルのリサイクルとワインで廃棄されるコルク、それに持続可能な森林から採取された松の油で作られているという。同様にダッシュボードも試乗車のパーティクルデコレーションというものは、廃棄された塩ビ製の窓枠やローラーシャッターから出る廃プラスチックを粉砕して作られているそうで、星空をイメージしたその表面は一つとして同じものが存在しない。などなど、聞いていても「ほう~」という言葉がつい出てしまうほどサスティナビリティーを考慮している。

そんなわけだから、チープな素材なはずなのにチープ感を感じさせない。この辺りは同じスウェーデンのIKEAみたいな感覚である。

◆“boring car”と呼ばれたボルボの面影はない

今回の試乗車はオプションの20インチタイヤを装着していて、確かに走りのしっかり感は演出していたと思うが、全長4235×全幅1835×全高1550mm、ホイールベース2650mmというサイズはピッチング方向の挙動が少しラフで、個人的には19インチの方が良いと思えた。

運動性能は素晴らしい。BEVとしては予想外に軽い1790kgに272ps/343Nmのモーター、それに69kwhのバッテリーを搭載し、0-100km/hを5.3秒で加速するというもの。その俊敏さもさることながら、ステアフィールにとても好印象が持てた。かつて“boring car”(つまらないクルマ)と呼ばれたボルボの面影はこれっぽっちもない。まさに都会をみずすましの様に走り回ることが可能である。

航続距離はWLTCモードで560kmと言われるが果たして現実はどのくらいか、次にゆっくりと乗せてもらう時に体感してみようと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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