【和田智のカーデザインは楽しい】第13回…「次期型993をやりたい」宣言、愛する3台のポルシェと911の未来

和田智氏の直筆によるポルシェ911(993型)のスケッチ
和田智氏の直筆によるポルシェ911(993型)のスケッチ全 14 枚

『和田智のカーデザインは楽しい』第13回目は、和田が愛する3台のポルシェと『911』の今後を語る。長寿を誇る911の魅力と和田が期待すること。そこにはポルシェに対する愛が溢れていた。


◆「私が愛する3つのポルシェデザイン」

----:今回は和田さんが愛するポルシェのデザインと、今後の911についてをテーマにお話頂ければと思います。

和田:デザイナーによるポルシェ論というのは、なかなかないんじゃないでしょうか。ちょうど60周年というタイミングもありますが、今回は911を基本にしながら「私が愛する3つのポルシェデザイン」をテーマに話したいと思います。

----:では早速、和田さんが愛するポルシェの1台目とは。

和田:『356』です。僕はこれまでドイツやイギリス、アメリカの西海岸にも住みました。そういったところですごく“いいところ”にポツンと置いてあるのがこの356だったんです。古いクルマなんですが、すごく愛している人たちがいっぱいいる。それはカーデザイナーにとっての理想形です。

356のリアフェンダーの曲面は「魔法の鏡」なんですよ。リフレクション(光や景色の映り込み)が起こった時に、ポルシェというひとつのサーフェイスにリアルとは別の世界が生まれ、その世界観が、ものすごく芸術的で、356は僕にとっては素晴らしいアートピースでもあるんです。また、そんな風にドラマチックな部分があるかと思えば、図面を見てみると、まるでおもちゃみたいなところもあります。ものすごくシンプルにできていて、誰にでもわかる形状なのに、それがまるでマジックのように美しく輝いて見える。本当に不思議なクルマなんです。

創業者のフェルディナント・ポルシェも、356を開発した息子のフェリー・ポルシェもエンジニアです。356の時代やそれ以前にデザイン造形をやっていた人間というのは、エンジン工学や機械工学を熟知したうえで「どういう形であるべきか」をある程度わかっていた人達ということなんです。だから今のスタイリング思考のクルマとこの時代のクルマとを比べてみると、持っている魂のようなものが全然違うと感じます。356を見ていると愛おしくて触れたくなるし、自分のものにしたくなる。

----:今のクルマとは魂が違うと。

和田:「ものに魂」というと日本的な表現かもしれませんが。何かが宿っているということです。1948年にデビューしたクルマにも関わらず、未だに愛されているというのは、内側から湧いてくるエンジニアのパッションみたいなものが、ものすごく関係していると思います。僕はデザイナーですが、そういう感覚にとても憧れますし、デザイナー教育もこれからどんどん変わっていくべきかなとも感じています。

これからのクルマのあり方や人との関係論、つまりモノを大切にすることを教育していくことが、次の時代のエコロジーやモノに対する考え方を変化させていくんじゃないか。まさに356こそ、ドイツの宝であるポルシェの原点であり、クルマという存在の見本だと思うんです。

◆敬意を払う「993」とヒーローカーの「928」

----:1台目が原点とも言える356、それでは2台目は?

和田:「タイプ993」です。僕が最も敬意を払う911の1台です。コンパクトでありながら力強く、かつ優しさを秘めたボディデザインは近代スポーツカーの代表といえるでしょう。スポーツカーにありがちな傲慢さがなく、どこか謙虚な美しさが素晴らしい。デザインはすべてつくり手の思いが表れるものです。僕がこのクルマに敬意を払う理由はここにあるんです。911でありながら別の911でもある。

993は紛れもなくクラシックでありながら、時空を超えた最上級の魅力と奥深さを持っています。

そして今回取り上げる最後のもう1台は同じ時代の『928(S4)』です。僕がカーデザイナーとしてキャリアをスタートさせた頃のヒーローカー。1977年発表、その後、マイナーチェンジをした928 S4は1987年にデビューしています。この40年で最も僕が衝撃を受けたデザインのクルマは、この『928』と初代アウディ『TT』です。

----:早速3台目も紹介して頂きましたが、928と初代TTのデザインに共通性はあるのでしょうか?

和田:デザイナーこそ違いますが、感覚的にはちょっと似たようなところがあるんですよ。それはポルシェデザインでありながら、ポルシェに対してアンチテーゼを持っているデザインであることだと僕は感じています。例えばTTをデザインしたフリーマン・トーマスは、元々ポルシェのデザイナーだったんですね。356のDNAを受け継いだ“モダン版”であり、ポルシェに対してアンチテーゼを持っている。それができたのはポルシェ出身のデザイナーだったからでしょう。

そして、928はポルシェデザイン史上最も美しく、エレガントなデザインかもしれません。僕にとっては“more than 911”です。この宇宙的なデザイン、その概念がTTにちょっと似ているんですよ。僕が今回チョイスしている3台のポルシェは、究極のクラシックと、ポルシェがこれまでつくった最もモダンで未来的なクルマと、その同時代にできた911(993)というわけです。

928は、特にマイナーチェンジ以降は993と面の質で共通点が多くあるんです。928はシンプルでモノフォルムのデザイン。993は911特有の強いショルダーをもつデザインですが、993のフロントフェンダー面の扱いを見ると、面の膨らみ度合とインバースのバランスが928と極めて近いんです。ポルシェのデザインスタジオで、ほぼ同じ時期に928のマイナーチェンジと993がつくられていたのではないかと推測します。ソリッドで、スポーツカーとしてのランゲージが明確だったのかなと感じるんです。

----:その「スポーツカーとしてのランゲージ」とは何でしょうか。

和田:それはスポーツカーとしてのデザインを構成するフォルム言語とそのかたちが醸し出す印象のことです。現代のスポーツカーで例に挙げるなら、ポルシェ 911、アストンマーティン『DB11』/『DB12』、フェラーリ『ローマ』といったところでしょうか。

僕的には、ローマにはあまり従来のフェラーリを感じなくて、むしろブリティッシュ。なんとなく往年のジャガー『Eタイプ』などを回帰させます。フェラーリが久々に良いクルマをつくったなと思いました。実に美しいです。一方、今の911つまり「タイプ992」は、ボディサイズもタイヤも大きくなって性格が変わってきた。

993と992のリアスリークォーターを比較すると、シルエットが全く違うんです。同じようにリアフェンダーが強く張り出したプロポーションですが、992の方はより強い“パワーサーフェイス”をつくっています。これはちょっと力が入りすぎかなとも思いますが、彼らもビジネスですから、競合車に対してどんなニーズで、どういうユーザーがこういうクルマを買うかを捉えているのでしょう。スポーツカーのユーザーもインテリジェンスよりも強さを求める人たちが増えて来ている。トレンドの中でポルシェも試行錯誤しているなと感じます。

でも、カーデザインの“継承”について考えると、もうポルシェ911しかない。デザインをいかに継承するか、「変えないために変えるデザイン」という不屈の概念にまで入っているのは911だけです。継承という意味や概念そのものが、クラシックデザインの意味合いであると僕は捉えていますから、シルエットの純粋性、機能主義、プロポーション、デザインの重要な特徴という意味では、やっぱりこのクルマのパフォーマンスは世界トップレベルだと思います。

◆和田智「次期型993をやりたい」宣言


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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