【スズキ Vストローム250 試乗】機能美と絶対的な信頼感は、まさに「軽トラ」だ…伊丹孝裕

スズキ Vストローム250
スズキ Vストローム250全 26 枚

◆「Vストローム250」に宿る確固たる信念

「よそはよそ。うちはうち」というのは、昭和のおかんが子どもに放った常套句である。ほとんどの場合は、しょーもないもののためにびた一文出したくない、おかんのケチさゆえの言葉だが、まれに確固たる信念がそこにあったりする。『Vストローム』さん家の「250」には、その意味で後者が宿っている。

なにせ、他に比肩するモデルがない。エンジンは2気筒で、軽さよりもどっしり系で、ホイール径は前後とも17インチ。よその子のほとんどは、軽く、細身な単気筒で、フロントホイール径は走破性重視の19インチや21インチだ。

スズキ Vストローム250スズキ Vストローム250

そもそも250ccクラスのアドベンチャーという存在が珍しく、少し前までカワサキに『ヴェルシスX』シリーズがあったが、現在は生産中止。ホンダ『CRF250ラリー』は、そのネーミングが示す通り、明確に立ち位置が違う。

「Vストローム250」は、スズキが先日打ち出した企業理念「小・少・軽・短・美」にも当てはまらない。どちらかといえば、「大・多・重・長」な存在であり、最後の「美」は人による。ただし、「機能美」は確実に備わっていて、そこにこそ、このモデルの価値がある。

◆すべてに手が届く、慣れ親しんだ自分の部屋のような感覚

スズキ Vストローム250スズキ Vストローム250

なにせ、走ることが苦にならない。エンジンは取り立ててどうということもない、248ccの水冷並列2気筒で動弁系はSOHCの2バルブ。最高出力24ps/8000rpm、最大トルク2.2kgf・m/6500rpmというのが主なスペックだが、これがなかなかちょうどよい。低中回転域の扱いやすさと、意外にきっちり回る高回転域の滑らかがバランスしていて、どんな回転数でも、どんなギヤでも、なんとなく走れてしまう。スロットルレスポンスにシャープさはないものの、開ければ開けただけ、閉じれば閉じただけ追従し、あらゆる挙動が管理しやすい。

ハンドリングも同じだ。車体姿勢がどうのとか、荷重がどうとか、そんなことをさして考える必要もなく、車体をなんとなくヒラヒラさせていれば、路面が荒れていようが、コーナーがタイトだろうが曲がれてしまう。サスペンションはよく動き、タイヤの接地感も終始安定。厚みのあるシートのおかげもあって、乗り心地も良好だ。

スズキ Vストローム250スズキ Vストローム250

24psの最高出力に対し、車重は191kgあるため、右手を大きく捻ってもさしたるパンチはないが、だからといってエンジンに苦しそうな気配はないまま、速度が上昇していく。常識的な、つまり法定速度の中で足し引きできるパワーがあり、高速道路を巡航しても振動は抑えられている。

なんというか、必要十分なのだ。小さくはないが低く、バイク単体としてパーツ点数が少ないわけではないがコンポーネントの共有化で無駄が省かれ、軽くも短くもないが(企業理念の「短」は意思決定までの期間を指す言葉だが)、それが安定性に活かされている。すべてに手が届く、慣れ親しんだ自分の部屋のような感覚が心地いい。

◆移動の手段として誠実さは、まさに「軽トラ」

スズキ Vストローム250スズキ Vストローム250

ところで僕(伊丹孝裕)は、日常的に軽トラに乗っている。コンビニの買い物から往復1000kmの仕事まで、なんにでも使っていて、行き先が県をいくつか越えるような場所だと「え、これっすか?」と言われることがしばしばある。むしろ、遠方になるほど、軽トラで出掛けたくなる特殊癖の持ち主であることは差し引いた方がいいかもしれないが、軽トラに対する絶大な信頼感が長距離ドライブへ駆り立てる。

決して壊れず、音を上げず、荷物がたっぷり積めて、そのコンパクトさでどこにでも分け入ることができて、なにもかもが経済的で、確実に目的地へ辿り着ける。スピードは出ない分、早めに出発すればいいだけの話である。

お分かりだろうか? その様が、どことなくVストローム250のそれにも似ていて、シンパシーを感じずにはいられない。豪華な装備もハイテクの類も目を奪われるような流麗さもないが、移動の手段として誠実に作られているところが実に好ましい。Vストロームさん家のおかんは、よその子と比べることなく、ただただ子どもの健康を願い、まっすぐ育てたのだと思う。

スズキ Vストローム250と伊丹孝裕氏スズキ Vストローム250と伊丹孝裕氏

■5つ星評価
パワーソース:★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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