やはり進行していた! ホンダのハイブリッド戦略の要とは?…新開発プラットフォームと次世代e:HEVシステム[前編]

ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会
ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会全 40 枚

本田技研工業が「ホンダ e:HEV(イーエイチイーブイ)事業・技術 取材会」と題したワークショップを、栃木プルービンググラウンドで12月16日に開催した。


◆後世に語り継がれるハイブリッド商品を

これまでホンダといえば、2040年に四輪車の販売割合をBEVとFCEVで100%とする電動化目標が先行して取り上げられ、ICEへの取組みが事業戦略の中で見えづらかった。

ところが今回のワークショップでは、会頭のプレゼンテーションに同社執行役で四輪事業本部長の林克人氏が立ち、「本日は、ホンダのこれからのICE事業を支えるコア技術として新しいe:HEVを、ホンダのパワーユニットの進化を是非、ご体感いただければ幸いです。我々はEVの本格普及期までは、ハイブリッドが架け橋になると考えています。ハイブリッドへの期待感が高まる時代に突入している今、ホンダらしいエポックメイキングな技術と商品を生み出し、願わくは伝説となり、現在だけでなく後世でも語り継がれるようなハイブリッド商品を残したいと思っています」と、力強く述べた。

さらに林氏は1963年から60年以上も続くホンダの4輪事業をふり返り、ハイブリッドモデルは約4割の期間にあたる直近25年間も販売されているが、これまで誰もが思い浮かべる代表的なホンダのヒット作といえば、2代目と3代目『プレリュード』や初代『オデッセイ』、『フィット』に『N-BOX』、『CR-V』など、いまだ純ガソリンエンジン車が中心であると指摘。だからこそあらためて新しいハイブリッドモデルに注力し、この時代に名を残す商品を世に送りたい、送り出さねばならないと、強く説く。トランプ米大統領の再選によって市場動向の大きな不確定要素が減じられつつある今、「0(ゼロ)シリーズ」のようなEVそしてSDVのアーキテクチャを進行させる一方で、次世代ハイブリッドを中長期的な主軸のひとつに据え、ホンダブランドを底上げするための「ハイブリッド全力投球宣言」といえる。

本田技研工業 四輪事業本部長の林 克人氏本田技研工業 四輪事業本部長の林 克人氏

具体的には、中国市場を除く連結でハイブリッド車の販売台数を、2030年までに年間130万台とするターゲットを掲げた。これは2018年の約25万台から5倍、2023年の約65万台から2倍にあたる数字だ。2023年の時点でグローバル販売台数約411万台に対するハイブリッドの割合は16%弱に過ぎない。ポートフォリオ内でのハイブリッドの比重を増やすのみならず、2018年比でハイブリッド1台あたりの収益率は2023年には1.5倍に改善されており、2026年以降に順次投入される次世代ハイブリッドでは2倍に達するという。つまりハイブリッドでの収益規模を2023年からざっと4倍に拡大させるとはいえ、まだまだ控えめな見込みといえる。

ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会

切り札となるのは、ホンダ独自の2モーター構造のハイブリッドパワートレインの技術、e:HEVのさらなる進化だ。車体側の軽量化技術も含め、次世代では「五感に響く」をキーワードに、圧倒的な環境性能と、軽快な加速とレスポンスによる上質かつ爽快な走りを実現するという。その上でEV商品群と、E&Eアーキテクチャやセンシングユニット、インフォテイメントを共通化することで、運転支援機能や自動運転を見据えた先進的なドライビングエクスペリエンスをもたらすというのだ。

◆中型車種に対応する次世代プラットフォーム

この日、展示の形で用意されたアイテムは3点。いわゆるC/DセグメントのSUVもしくはセダン等を担う次世代中型プラットフォームと、それに搭載される中型用パワーユニットであるe:HEVシステム、さらに次世代の小型e:HEVシステムが披露された。とくに3つ目については、外観はほぼ現行のままだがこの次世代パワートレインを積み電動AWD仕様とした『ヴェゼル』と、やがて市販バージョンが発表予定のプレリュードのプロトタイプによるFF方式という2台が、試乗車として用意された。同時に現行ヴェゼル e:HEV AWDと現行シビック e:HEVが、それぞれの比較試乗に供された。

ヴェゼルAWDにもプレリュードにも、従来のリニアシフトコントロールあらため、この日が初公開となった「ホンダS+シフト」という、より上質かつスポーティなシフト制御を可能とする機構が搭載されていた。これは単なる変速制御の変更にとどまらない。後述するがボア×ストロークも排気量も既存パワーユニットと同じながら、エネルギーマネージメント制御からシリンダーブロックやヘッドにオイルパン、チェーンケースやクランクシャフトまで全面的に見直された、まったく別物といえるエンジンを前提とする。プレリュードの方はシフトコンソールに“S+”と記された専用ボタンが設けられていたが、AWD制御となるヴェゼルの方はドライブモードのスイッチ内、スポーツモードが充てられていた。

まずは2026年以降の市販車に用いられるという次世代の中型プラットフォーム、C/Dセグメントで具体的には『アコード』やCR-V、北米では『パスポート』や『パイロット』といったミドル&ミドルアッパーサイズのSUVにオデッセイのようなミニバンをもカバーするであろう、基本的にはハイブリッド専用の車台だ。バッテリーパックは従来より20%も低背化を実現したことでセダンかSUVかを問わず後席下位置に収めることができる。前車軸とエンジンルーム隔壁間、後車軸とバッテリーパック間そして後席乗員のヒップポイント間という、パワーユニットとの3つの固定寸法は基幹モジュールを共用しやすくする一方で、ホイールベースや室内長などは自由度が高く設定できるという。さらにフロントのパワーユニットや後席下位置のバッテリーパックも剛性に貢献することで軽量化を実現。前面衝突時にシート前端をもちあげて乗員の身体のトラベル量を増大させ、エアバッグの効果を最大化できるシステムも実用化されたことで、フロントメンバーが省けたことも軽量化・構造の簡素化に貢献している。かくしてミッドサイズ商品群は、概して10%の環境性能向上を見込む。

ホンダの次世代中型プラットフォームホンダの次世代中型プラットフォーム

剛性マネージメントについては、ただ固いだけでなくしなりを多用し、パワートレインとのダイナミクス統合制御を可能にすることで操安性の向上が図られているという。フロントサスペンションはストラット式、リアはマルチリンク式またはトレーリングアームを前提に、振れや共振を抑える構造とすることでNVH低減を図っている。さらに商品性のみならず、車体工場での工程偏差が生まれにくい構造で、物流輸送時の荷姿もコンパクト化され、従来同様の輸送能力でもより多くの台数分を運べるよう高効率化を遂げたとか。

ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会

◆e:HEVの走り味、付加価値を実現した「ホンダS+シフト」

もうひとつ注目は、次世代ミドルサイズ用のe:HEVシステムことパワートレインだが、今回の展示では新開発の2.0リットルエンジンが組み合わされ、トランスミッションとモーター、パワーコントロールユニットが一体となったフロントドライブユニット、ラジエーターなど冷却システムまでもが新開発された。

ホンダの次世代中型e:HEVシステムホンダの次世代中型e:HEVシステム

具体的には、小型e:HEVシステムとパワーコントロールユニットのアーキテクチャを共有化し、従来比で25%もコンパクト化を果たしている。リア駆動インバーターも内蔵することで、電動AWDであってもリア側のモジュールがインバーターレス化され、後車軸を駆動する電動AWDユニット自体、小型e:HEV やEVとケーシングを共用化。もうひとつフロントドライブに含まれる、前車軸側を駆動するモーターは従来から重希土類フリーだったが、ネオジム磁石の形状を変えて磁期回路を一新することでトルク密度を向上させながら磁石使用量をさらに減らし、厚みサイズを10%薄くした。また冷却システムはラジエーターやエアコンのコンデンサなど従来の3層構造から、通過風速を向上させることで2層化し、フロントオーバーハングを短縮させることにも成功した。

ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会

ただし中型ドライブユニットと小型ドライブユニットの大きな違いとしては、後者ではホンダ独自の発電用・駆動用の2モーターが同軸配置され、エンジン直結のギアは高速巡航用のハイ側のみとなること。対して前者では2モーターは平行軸構造で、さらにレジャーなどの牽引用途が求められるため、極低速の高負荷領域用にエンジン直結のローギアも備わっている。牽引のような状況でこそ電気モーターのトルクが活きる気もするが、目的地でバッテリー残量に拠らないロバスト性こそが重要という判断だろう。

どうやら次世代の中型プラットフォームに、同e:HEVシステムを組み込んで、すでに走らせられるプロトタイプは存在するそうだが、今回の試乗は小型e:HEVシステムに集中するという指針で行われた。無論、これもエンジンの腰下からヘッド、フロントドライブユニットにバッテリーパックや制御マネージメントまで、完全に一新された新世代e:HEVだ。

ホンダの次世代小型e:HEVシステムホンダの次世代小型e:HEVシステム

そのカギとなるのは先述した「ホンダS+シフト(以下S+)」だが、それを可能にした下支えとなるものがパワートレイン全体の進化だ。シビックやヴェゼルといったホンダのグローバル基幹車種に搭載される直噴1.5リットルエンジンは、グローバル環境規制に対応すべく下から上までの全回転域で、いわゆるラムダワンとよばれる理想的な空燃比による高効率領域を拡大することで、従来のリニアシフトコントロールをさらに押し進めたスポーティな走りを可能にしているのだ。従来の1.5リットルエンジンより新開発のこのパワーユニットは、高効率量領域を中~高回転にかけて40%も拡大しているという。つまり高回転まで引っ張り上げても環境性能が落ちないからこそ、ステップシフトによる制御で軽快なレスポンスと加速の伸びという出力特性のメリハリを表現できるようになった。それがe:HEVというハイブリッドの走り味、ひいては付加価値とする方向性だ。

ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会ホンダ e : HEV 事業・技術 取材会
後編では、次世代小型e:HEVシステムを搭載した、ヴェゼルとプレリュード(プロトタイプ)の試乗インプレッションをお届けする。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  2. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  3. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  4. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る