【ホンダ N-VAN e: 新型試乗】実際に2メートルの書架を運んでみたら…井元康一郎

ホンダ「N-VAN e:」に2メートルの書架を積んでみた。サイドドアが大きく開くのは積み込みにとても便利だった。
ホンダ「N-VAN e:」に2メートルの書架を積んでみた。サイドドアが大きく開くのは積み込みにとても便利だった。全 15 枚

ホンダが2024年10月に発売した電動軽商用バン『N-VAN e:』を荷運びを兼ねて短距離ロードテストする機会を得たのでレビューをお届けする。

N-VAN e:の原型は2018年デビューのガソリン軽商用バン『N-VAN』。この手のハイルーフボディの1ボックス軽商用車はRWD(後輪駆動)方式のダイハツ工業『ハイゼットカーゴ』、スズキ『エブリィ』の二強だが、N-VANはエンジン横置きFWD(前輪駆動)のボンネットバン。フルロード時のトラクションや最小回転半径などでは不利な半面、助手席を折り畳むと荷室後端からダッシュボードまで全通フラットフロアになる、左ドアがBピラーレスで同時に開けると広大な開口部になるといった特徴を持たせ、法人営業に弱いホンダとしてはそこそこの販売実績を上げた。

ホンダ「N-VAN e: L4」のフロントビュー。ガソリンモデルとの外観上の識別天は少ない。ホンダ「N-VAN e: L4」のフロントビュー。ガソリンモデルとの外観上の識別天は少ない。

そんなN-VANのバッテリー式電気自動車(BEV)への改変は車体の設計変更を最小限にとどめる形で行われた。ユーティリティ上の特徴はガソリン車からほぼそのまま継承された一方、電気モーターやバッテリーパック、空調・熱交換機構などの電動システムはBEV専用プラットフォームのように効率を追求したものではなく、とりあえず電気で走れればOKというもの。動力用主電池の総容量は29.6kWhと、軽自動車史上最大。

グレード展開は月間走行距離3000kmまでのリース専用モデルとして乗車定員1名の「G」、2名の「L2」、小売りモデルとして4名乗車の「L4」、デコレーション性重視の「FUN」の4つ。今回テストを行ったのはL4。試乗エリアは東京および埼玉南部。総走行距離は174.9km。

◆実際に2メートルの書架を運んでみたら

クルマに対して思ったより大きかったスライド書架。本当に載るのかと一瞬心配になる。クルマに対して思ったより大きかったスライド書架。本当に載るのかと一瞬心配になる。

ではインプレッションに入ろう。今回のメインタスクは長辺が200cmのスライド書架を2名乗車で運ぶというもの。そのままだと2名で運ぶには重量過大なうえスライド部が動いてしまうのでまずそれを外す。さらにガラス戸、中の仕切り板も全部外す。こうして身軽になった本体部分をN-VAN e:の荷室近くに置いてみたところ、高々と跳ね上がったN-VAN e:のバックドアとほとんど同じ高さまでそびえ立つという状況。

N-VAN e:は最大2.6mの長尺物を収容できるという。それは助手席の足元空間を含むものでダッシュボードまでの距離はもっと短いが、こういうかさばる長尺物も楽に積めるようダッシュボードは可能なかぎり前方に詰められた形状となっている。2mは余裕なはず…とスペック的には大丈夫であってもなお「本当にこれが全長3.4mの車体に収まるのか!?」と不安になるような、なかなかの威容である。

いよいよ積み込み。2m級の長尺物を積載する場合は助手席を折り畳むので、2名乗車は運転席とその後方の後席のタンデムである。いざ助手席を折り畳んでみると、エンジンモデルのN-VANと同様、完全フラットな全通荷室が出現した。助手席のシートバックを前に折り畳む機構自体は軽商用バンや一部の軽スーパーハイトワゴンに実装されているメジャーな機能だが、ダイブダウンはN-VAN特有だ。

車内に積み込んでみたところ、ピッタリ収容。車内に積み込んでみたところ、ピッタリ収容。

そこに書架の本体を滑り込ませると、前後それぞれ10cmくらいずつスペースを余してすっぽり収まった。フラットフロアのため安定性はシートバックの上に前端を乗せる通常のバンとは比較にならないくらい高い。家具の輸送に向いているのではないかという読みピッタリである。続いて書架の可動部を積み込み、荷崩れしないよう紐で固定。ガラスや中仕切りは後方の荷室に。

N-VAN e:は昨年ディスコンになった『Honda e』に続くホンダの量販BEV第2弾だが、味付けはだいぶ異なる。初期加速は非常にマイルドで、チョイ踏みだと通常のクルマのクリープ現象+αの加速度。しっかり踏めばそれなりにびゅんびゅん走るので、おそらく貨物を搭載しているときのふんわり加速がやりやすいようなチューニングにしているのだろう。おかげで荷物にかかる加減速Gを大して心配する必要もないまま無事、大荷物の運搬終了。あまりの簡単さに思わず鼻歌が出そうな気分だった。

◆冬場の電費および航続力はかなり厳しい

「BluEarth-VAN RY55」はエンジンモデルから1インチアップの145/80R13。最大積載量300kgを支えるため後輪の内圧は3.5kg/cm2と高圧。「BluEarth-VAN RY55」はエンジンモデルから1インチアップの145/80R13。最大積載量300kgを支えるため後輪の内圧は3.5kg/cm2と高圧。

と、ここまではユーティリティの話。せっかく電動化されたN-VAN e:を借りたのだからと、電費、航続力、充電性能などを限られた条件の中でテストしてみた。

まずは電費と航続力だが、これは率直に言って良くなかった。充電率100%でスタート後、最初の充電は124.7km走行地点。充電率0%、航続残0km、平均電費5.5km/kWh。走行距離を平均電費で割った充電率100→0%の値は22.7kWh。貨物を運んだ距離は長くはなく、走行の過半が1名乗車だったことを考えると寒冷期とはいえ、航続力は低水準にとどまった。

電費が悪かった原因と思われるのは空調と車体の断熱。消費電力がとくに大きくなるスタート直後にエアコンのON、OFFで予想航続距離がどう変わるか見てみたところ、OFFが148kmであったのに対してONは85km。車内が温まるにつれてその差は縮小したものの、それでも乖離率は高水準だった。これは効率の良いヒートポンプを搭載せず、暖房の熱源をPTCヒーターのみに頼っているためだろう。また軽商用バンということで車体の断熱性にはさほど力が入れられておらず、寒冷環境ではヒーターの稼働率が高いことがそれに拍車をかけたきらいもあった。

後席シートバックは商用バンらしく切り立っているため長時間乗車には向いていない。最上級グレードには後席ヘッドレストが付く。後席シートバックは商用バンらしく切り立っているため長時間乗車には向いていない。最上級グレードには後席ヘッドレストが付く。

このように冬場の電費および航続力は大変厳しいものとなったが、急速充電の受け入れ性については結構良いスコアだった。気温7度の中、充電率0%でスタート。電流値を見ると1分30秒ほどではあるが最大105A、その後も開始後14分台まで90A以上、21分台まで80A以上が流れ続けた。これはバッテリー総容量30kWhクラスの小型BEVのアベレージを十分に上回る値である。投入電力量は充電時間15分で8.2kWh、30分で15.3kWhと、バッテリーパック総容量35.5kWhのHonda eの冬季30分充電と互角の数値だった。

充電率の変化は0→75%。100%に換算すると投入電力量20.4kWh、充電時の損失を8%と見積もると蓄電量は18.8kWhだ。これは先に述べた走行距離を平均電費で割った値の22.7kWhとかなりの差がある。蓄電池は内部の化学変化を利用して電気を蓄えるため、ガソリンや軽油のように何リットルといった物理量を測定できるわけではない。

充電率はあくまで電圧や使用電力量といった複数のパラメーターから推算した値である。その推算値が過大に見積もられているか、さもなくば平均電費計の値が実際より悪く表示されているかのどちらかだ。今回は走行距離が短かったため検証のしようがなかったが、何発か充電すれば真相を明らかにできるだろう。

N-VANのロゴの下にEVであることを示すe:のマークが。N-VANのロゴの下にEVであることを示すe:のマークが。

◆「次」の軽乗用車BEVはどうなるのか

いずれにせよバッテリーの使用可能容量は物理容量の7割ほどとかなり小さい。Honda eも同様に使用可能容量がかなり小さかったことから、このセッティングが今のホンダ開発陣のポリシーなのだろう。これでもルート配送など1日の走行距離が80km以下の短距離ユースであれば1日1回の充電で十分に足りるので、軽商用車としては十分にありだ。

が、ホンダが現在準備中の軽乗用車BEVとなると話は別で、この性能ではお話にならない。もっともホンダ開発陣はHonda eの大敗北でそんなことは言われなくとも骨身に染みているはず。電気モーターやパワー制御装置などは共通でもバッテリー、充電制御、空調などはN-VAN e:とはまったく別物となることが予想される。

ともあれ再び前に動きはじめたホンダの電動化戦略の今後が興味深いところである。

ホンダ N-VAN e: L4のリアビュー。室内容積重視のハイルーフボディ。ホンダ N-VAN e: L4のリアビュー。室内容積重視のハイルーフボディ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★
パワーソース:★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

《レスポンス編集部》

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