2WDのEVで日本の冬を乗り切れるのか? 前輪駆動の「日産サクラ」と後輪駆動の「ボルボEX30」で豪雪に挑んだ

日産 サクラ。新潟の神立高原付近にて。
日産 サクラ。新潟の神立高原付近にて。全 12 枚

100%電気モーターで駆動するバッテリー式電気自動車(BEV)はオフロードや雪道など路面摩擦の低いコンディションに強い。内燃機関に比べて圧倒的な高精度で出力を制御できるため、グリップを失う要因となるホイールスピンを最小限に抑えることができるからだ。

が、BEVにも難点はいろいろある。そのひとつがAWD(4輪駆動)の選択肢が少ないということだ。グローバルではBEVに限らずAWDは元々マイノリティで、軽自動車からプレミアムモデルまで、ほとんどのモデルでAWDを選択可能というのは日本メーカーくらいのもの。豪雪地帯を幅広く抱えるという世界の中でも特異な気候に適応した結果である。

その日本メーカーがBEVに積極的でない以上、AWDのBEVを気軽に選べないのは致し方ないこと。実はBEVのAWDモデル自体は多数あるのだが、大半は高性能を追求するためのもの。価格も2WD(2輪駆動)に比べてかなり高価で、生活四駆と呼べるモデルは皆無に近い。

ユーザーとして気になるのは、いくら電動パワートレインが低ミュー路に強いとはいえ本当に2WDで日本の冬を乗り切れるのかということだろう。とりわけ今年はペルー沖の海面温度が低くなるラニーニャ現象の影響で各地で記録的な大雪となった。そんな事も起こる気候のもとで生活するユーザーが2WDの雪道の踏破性に不安を抱くのは当然と言える。

そこで筆者は日産自動車の軽BEV『サクラ』、ボルボの小型クロスオーバーBEV『EX30』の2台の2WDモデルを駆って積雪路ロードテストを行った。BEVであっても雪上走行性能は2WDよりAWDのほうが高いに決まっている。焦点は2WDでどのくらい積雪路を乗り切れるかということだ。

もちろん普通の圧雪路程度であれば2WDで何ら支障がないことはわかりきっている。ユーザーが最も危惧するのはニュースをにぎわせたように、短時間に大量の雪が降って道がディープスノー状態になってもきちんと走れるかどうか、次にアイスバーンでのトラクションや車両安定装置のパフォーマンスであろう。どのくらい大丈夫かを試すべく、路面を雪がすっぽり覆っていることが期待できるルートを意図的に選んだ。

◆「前輪駆動」の日産 サクラ

BEVとしては軽量なサクラにとってアイスバーンはお手の物。BEVとしては軽量なサクラにとってアイスバーンはお手の物。

まずはサクラ。複雑な機構を搭載する余力のない軽自動車ということもあってAWDの設定はなく、FWD(前輪駆動)のみである。コースは横浜を起点に北陸、信濃を巡るというもので、総走行距離は963km。スタッドレスタイヤはブリヂストン「ブリザックVRX3」。

行程の中で最も性能が試されたのは新潟の糸魚川から国道148号線経由で長野の白馬、信濃大町、そこから通称オリンピック道路と呼ばれる県道31号線を通って長野市、飯山市に至る160km区間だった。天候は雪で所により吹雪、気温はマイナス2度からマイナス7度。

新潟西部の糸魚川で充電の後、内陸へと向かう国道148号線に入る。気温は氷点下だったが、市街地は消雪装置が作動しており、大量の雪と水が入り混じった深さ5cm以上のシャーベット路だった。タイヤハウスに大量のシャーベットを巻き込みながらの走行はかなりの抵抗で、電費はみるみる落ちていった。

もっとも消雪装置の水が大量に混じったシャーベットはウェット路面よりは滑るにしても、気温が高めで積雪が自然溶解したシャーベットと異なり、ズルズルに滑るという感じではない。サクラはそこを簡単に乗り越え、いよいよ積雪路に差しかかった。

サクラは前輪駆動だが、積雪踏破能力はかなりのものだった。サクラは前輪駆動だが、積雪踏破能力はかなりのものだった。

ドライブ当日は国道8号線、国道17号線、北陸自動車道が揃って通行止めになるなどかなりの悪天候。国道148号線は沿岸部に比べると雪の降りが弱めで通行止にはならなかったが、豪雪通行止の路線にリソースを食われたのか、除雪車が通る頻度は低かった。結果、路面はふかふかの雪で覆われ、バージンスノーよりはマシという程度の悪コンディション。しかも登り勾配である。

交通量はゼロではなく、こんな悪天候でもたまに物流トラックとすれ違う。もっとも最低地上高に余裕のあるトラックが通ったからといって、気温が低いため、時折通る物流トラックに踏みしだかれた粉雪の下はアイスバーンという低ミュー状態である。車体底面への着氷で普段よりロードクリアランスが狭まっていることも手伝って、とりわけ積雪量が多かった北小谷までの登り区間はスノーシェッドやトンネルを出るたびにフロアと雪面が接触しながらの走行を余儀なくされた。

◆意外にも!? ホイールスピンなしに走れる

雪をバンパーで押しながら充電器に接近。雪がフロアと接触してもトラクションが失われないのは驚きだった。雪をバンパーで押しながら充電器に接近。雪がフロアと接触してもトラクションが失われないのは驚きだった。

そんな道でのサクラのパフォーマンスだが、ホイールスピンがほぼ皆無。滑りはじめるギリギリの線を守って駆動力を発揮し続けた。変速機を挟まないダイレクトドライブの電動プラットフォームの特徴が生きた格好である。基本システムを共有する兄弟モデルの三菱自動車『eKクロスEV』と異なりグリップコントロールはつかないものの、圧雪路とはもはや呼べないような積雪路も十分走行可能ではあった。

バンパーが雪を軽くかき分けるという有様だった新潟-長野県境付近ではさすがに駆動力が失われがちになったが、ステアリングを左右に振ってやることで、わずかな摩擦を手掛かりに進むことができた。普通なら一発でスタックしかねない状況で走れたこと自体驚きである。

長野県に入ってからはしばらく綺麗に除雪された圧雪路を快走した。その状況が変わったのは前述の県道31号線オリンピック道路。夜間の交通量の少なさからある程度の荒れは予想していたが、これまた耕された畑を走るようなコンディションだった。

路面の様子が面白いので停止して写真を撮り、再発進する時にびっくり。そこまで普通に走ってきたのに、いざ発進となると本当にじわじわとしか加速できないのである。それだけミューが低いということを示しているが、そんな路面をホイールスピンなしに走れるのは大したものだとあらためて思った次第だった。

◆「後輪駆動」のボルボ EX30

ボルボ EX30。中央自動車道八ヶ岳パーキングエリアにて。ボルボ EX30。中央自動車道八ヶ岳パーキングエリアにて。

次はボルボの小型クロスオーバーBEV、EX30。本国では0-100km/h加速3.6秒という驚異の加速力を持つAWDモデルもあるが、日本に入ってきているのは2WDのみ。しかも低ミュー路では前輪駆動に比べて不利とされるRWDである。スタッドレスタイヤはミシュラン「X-ICE SNOW」。

そのEX30ではサクラとは別の意味で厳しいルートを走ってみた。ハードコンディションだったのは長野北部の信濃大町から白馬を経て秘境国道406号線に入り、信濃屈指の隠れ里といわれる鬼無里、さらに戸隠、飯綱と進み妙高に至る126km区間。

東京から信濃大町まではドライ路面が主体で、途中まではすっきりとした青空だったが、信濃大町を越えて特別豪雪地帯に入るや風景が一変。路面は信濃大町のウェットからシャーベット、圧雪と、数kmごとに変化していくという圧巻の雪国体験である。

白馬から国道406号線に入るともはや完全に冬山ロード。一応除雪は行われているが、スノープラウで平坦になった箇所は氷が削り出されて圧雪というよりモロにアイスバーン、中腹から上はバージンスノーを含む積雪路が頻繁に出現した。しかも標高差300m以上を駆け上がるため急勾配が各所にあり、さらにタイトコーナーが連続するというなかなかの悪(好?)条件だ。

ボルボ EX30で雪が降り積もった国道406号を走行する。走行安定性、トラクション性能とも非常に高かった。ボルボ EX30で雪が降り積もった国道406号を走行する。走行安定性、トラクション性能とも非常に高かった。

後輪駆動のEX30でそこを走破できるという確信は皆無で、ダメなら撤退すればいいというくらいの心づもりで急登区間に踏み入った。実際に走ってみると国道406号線のコンディションはサクラで走った国道148号線と比較しても一段と厳しいものだった。新雪に覆われた急勾配とタイトコーナーの複合箇所など、スピードを落としすぎると再加速にもたつきまくり、速すぎるとアンダーステア。ちょうどいいスピードで走るようコントロールすることが要求される。

が、それは雪道走行の基本中の基本であって、それを守れば走れることは走れる。というか、2WDとしては望外の走りである。前からも後ろからもクルマがほとんど来ないため途中でクルマを降りて写真を撮ったりしたが、車外に出たとたんドアのサッシュを掴まないと転倒しそうになるくらい路面がツルツル。そんな道をまがりなりにも安定して走ることができていたのかと、テクノロジーの進化に驚嘆した次第だった。

◆低温時の消費電力量の少なさに驚き、スウェーデンならではの味付けも

国道406号白沢洞門にて。国道406号白沢洞門にて。

白沢洞門という短いトンネルを過ぎると凍結した路盤の上に新雪が厚く降り積もった積雪路。ミシュランXアイススノーは氷結路における横方向のグリップがやや弱い傾向があるという印象を抱いたが、コーナリングの入り口でしっかりインを突いてやりさえすれば、アンダーステアにびびることなく結構機敏に走ることができた。Xアイススノーは高速走行時の排雪性に優れているという印象で、凍結、積雪というコンディションの上信越自動車道のクルーズは大船に乗ったような気分だった。

興味深かったのはサクラとの車両安定装置のプログラムの違い。サクラはアンダーステアが出そうになったときに後輪にブレーキ制御がかかって鼻先がインを向くという感じであったのに対し、EX30はステアリングの舵角に正比例するようにドリフトアングルが作られるというイメージ。その特性がつかめてくるとクルマのコントロールの自在感が飛躍的に高まる。冬季に道路凍結が頻発するスウェーデンならではの味付けというべきであろう。

EX30でもうひとつ印象的だったのは低温時の消費電力量の少なさ。東京を出発後、長野自動車道梓川サービスエリアの充電スポットで雪道走行に備えて15分、電力量20.2kWhを投入し、充電率を31%から61%に回復させた。そこから目的地の妙高まで159kmを走りきった時の充電率は21%、平均電費は6.4km/kWh。起点と終点の標高差600m、クルマの質量1790kgから算出される位置エネルギー2.9kWhぶんを加味しても5.8km/kWh。低温に加えて行程の8割が雪道であったことを考えると驚くべき高効率といえよう。

国道406号線。鬼無里への急登区間の入り口。国道406号線。鬼無里への急登区間の入り口。

◆まとめ

サクラとEX30、2台の2WDモデルでわざと過酷なルートを選んでスノードライブをしてみたところ、両モデルとも十分以上に高い信頼性を示した。南国鹿児島出身で雪国ビギナーの筆者ですら走れたのだから、雪国ユーザーならもっと上手く走れることだろう。

サクラの国道148号線、EX30の国道406号線はちょうど平地で雪が強めに降ったときに相当するコンディションだった。毎日のように山のように雪が降る山間部のユーザーはともかく、一般的な雪国のユーザーであれば気分の問題は別として、実用上は2WDで案外事足りるのではないかと思われた。

冒頭で述べたようにBEVのAWDと2WDの価格差はエンジン車に比べて大きめ。BEV専用設計でなくエンジン車と共通のプラットフォームで作られるモデルの場合、2WDしかないというケースも多々あり、これらが北国ユーザーがBEVに手を出しづらい一因にもなっている。が、電動パワートレインの2WDは制御が高精度であるためエンジン車の2WDよりははるかに雪国耐性は高い。

これはBEVに限らず100%モーター駆動が可能なシリーズ式ハイブリッドないしそれをベースにしたシリーズ・パラレルハイブリッドにも言えること。クルマ選びの一助となれば幸いである。

鬼無里の入り口にて記念撮影。ボルボ EX30は深雪に乗り上げるのも朝飯前であった。鬼無里の入り口にて記念撮影。ボルボ EX30は深雪に乗り上げるのも朝飯前であった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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