【BYD シール 新型試乗】俄然「RWD」をオススメする理由…中村孝仁

BYD シール AWD
BYD シール AWD全 30 枚

試乗会でRWD(後輪駆動)の『シール』にチョイ乗りした。その時の印象はとても良いものだったのだが。数日間共に過ごすと別な側面が見えてきた。

◆AWDに乗って付きまとった疑問符

最初に借りたのは初乗りとなるAWD(全輪駆動)モデル。2モーターで、リアのモーターはRWDのシールと同じ312psだが、加えてフロントにも217psのモーターが付く。というわけでシステム総出力は512psに達するから、穏やかなクルマじゃない。0-100km/h加速も3.8秒と、RWDの加速性能を2秒近く引き離すのだ。

ただ、普通に街に乗り出してみると、至って普通に走る。「能ある鷹は爪を隠す」とはよく言ったもんで、静かさがその印象を倍加させる。広報車のある横浜の中心地から、我が家のある同じ横浜の片田舎までは、距離にしておよそ20kmちょっと。途中昼食をして帰ったのだが、終始頭の中には疑問符が付きまとっていた。

BYD シール AWDBYD シール AWD

何の疑問符かと言うと、乗り心地に関してである。RWDで体験したちょい乗りで、こんな印象は持たなかった。とにかく不正路面に対して車体に返ってくるカウンターパンチが尋常ではなく、硬いというよりも往(い)なせていない印象が強く残った。

高速を走ってみると、少なくとも加速感に文句をつける人はいないと思う。とにかく異様なほど速い。とりわけ瞬発力は抜群で、ICEのクルマでこれに追いつけるクルマはそうはいない。

ただ、2210kgも車重があるにしては、直進安定性が低い。矢のようにビシッと直進するというわけにはいかないのである。そんなわけだから、アクセルの調整には結構気を使い、同時にステアリングの微調整もこなさなくてはならないから、普通に高速を走るには結構気を遣う。だから、ACC任せの方がはるかに気を遣わずに、快適に走れることが分かった。

一般道の常用スピードで感じた不正路面での往なしの稚拙さは、ここでも顔を出す。

◆400km走って感じたこと

BYD シール AWDBYD シール AWD

例によって素人インプレを隣に乗せた女房にお願いしたところ、「硬いわね、でもカッコイイから…」とのこと。流石に、ヴォルフガング・エッガーの指揮したスタイリングは良い。彼は、VWグループの中でもアウディ系を歴任した実績がある。中国に限らず、近年アジア系メーカーに、ドイツ系のメーカーからデザイナーが移籍するケースが多く、おかげでアジア系の車両デザインが、目覚しく進化してスタイリッシュになっている。だから、パッと見はまさにヨーロッパ車を彷彿させるが、シールも例外ではない。

だが、ああ、中国製だな…と思わせるところがあった。それは巨大な15.6インチと言うセンターディスプレイの左上に、PM2.5の数値が常駐していること。やはり空気の悪い中国ではこうした表示が不可欠なのかな?とも思った。

運動性能に関しても、チョイ乗りだったRWDでは感じられなかった側面を見せた。右、左と続くコーナリングをこなしてみると、RWDで感じたスムーズで軽快、且つ運転が楽しいという雰囲気を感じない。

BYD シール AWDBYD シール AWD

特段どこがどう…と、あるいはここが良くないというところがあるわけではないのだが、ステアリングの動きとスロットルの開きに対して、クルマの動きが上手く調律されていないというか、どうもバラバラの印象が強く、飛ばす気になれない。抜群の加速性能を持っている割には、こうしたセクションに入ると、ドライバーの方が萎えてしまう。

400kmほど走った。このうち200kmは連続走行。WLTCモードで575km走行可能ということで、出発時は充電100%、可能走行距離575kmとしっかり出ていたが、帰宅時のバッテリー残量は60%を切り、可能走行距離も250kmほど。ここから類推するに、満充電ではMax500kmを目安にするのが良いかと思えた。

◆俄然「RWD」をオススメする理由

BYD シール RWDBYD シール RWD

そんなAWDモデルの印象を叩きこんで、そのままRWDモデルに乗り換えた。同じ道を広報窓口から自宅まで辿ってみたが、正直まるで違う。RWD車の方がはるかに快適で、往なし感が強い。

人によってはそれをソフト過ぎるサスペンションチューニングと言うかもしれないが、車両としてのバランスや、性能とのバランスが俄然こちらの方が良い。だから、どんなセクションでも安心してスロットルを開けていく気になることがわかり、ちょい乗りで感じた「いつの間にやら飛ばそうとしている自分に気付く」感覚は、数日乗っても変わらないことが確認できた。

というわけで、お勧めは躊躇せずRWDである。因みに車両価格は、メーカー希望小売価格でAWDが605万円、RWDは528万円である。補助金など使えば、RWDは400万円台のクルマとなり、その品質や走りを含めた費用対効果では俄然RWDが良い。

BYD シール RWDBYD シール RWD

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★(RWD車)

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来47年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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