トライアンフの『スピードトリプル』が、2025年に誕生30年を迎えた。最初のスピードトリプルとなる『スピードトリプル900』は1995年に登場。当時のスーパースポーツであった『デイトナ』からフルカウルを外し、丸目一灯としたネイキッドだった。
エンジンは900ccの並列3気筒で、足回りはデイトナとほぼ共通のスポーツ仕様。今、流行りのストリートファイターの先駆けとして、人気を博した。

その後、丸目2灯となり、数々の映画などに登場しながら存在感をアピール。現在は異形2灯ヘッドライトの『スピードトリプル1200RS』をロードスターシリーズのフラッグシップとしてラインナップする。
2025年モデルの新型スピードトリプル1200RSは、前モデルと比較してもそれほど大きく変更された感じはない。しかし、ポルトガルで開催されたグローバル・テスト・ライドで、サーキットと一般道を1日ずつ走り込むと驚くほど乗り味の進化を実感。それは、最先端のネイキッドと呼ぶにふさわしいモノだった。

エンジンのクランク周りを見直すことで前モデルより3ps、3Nm向上させている。そこに最新の電子制御を搭載。出力モードやライダーエイドであるトラクションコントロールやABS、さらにその全てに連動するサスペンションの動きが見直されている。
今回は、幸か不幸か様々なシチュエーションを走ることができたが、常に新型スピードトリプル1200RSはボタンひとつで理想のバイクに瞬時に変身。1200ccらしい怒涛のパフォーマンスを披露したかと思えば、極寒のウエット路面ではどこまでも従順なバイクとしてライダーに寄り添ってくれた。
◆成熟した1160cc並列3気筒エンジンに最新制御が完璧に融合

そのキャラクターを決定づけているのは、トライアンフの名機である1160ccの3気筒エンジンだ。「ヴュヴァーーッ」と独特のアイドリング音からは野太さを感じさせ、スロットルを開けると「ヴュッ、ヴュッ」と歯切れの良いサウンドを放つ。走り出しても気遣いは無用で、混沌とする市街地でもグズらず、サーキットではどこまでも速さを発揮。走っていると美しい曲線を描くトルクカーブやパワーカーブが自然と頭の中に浮かぶほどだ。
初日はサーキット。今にも雨が降り出しそうな空に気分が落ちる。標準タイヤはピレリ製のディアブロスーパーコルサSP V3だが、よりサーキット向けのディアブロスーパーコルサSC1に交換済み。タイヤウォーマーの巻かれたスピードトリプル1200RSがピットに並ぶ。
先導ライダーをトレースするようにコースイン。久しぶりのポルティマオはほとんどのコーナーがブラインド。アップ&ダウンが激しく空に向かってスロットルを開け続けたり、ブレーキングを開始するシーンがたくさんある。

そんな慣れないシーンでもレコードラインをトレースしやすい。よく動くサスペンション、そして中速域から粘る3気筒エンジンがシビアな操作を求めてこないのだ。同排気量の4気筒エンジンより明らかに幅の狭いエンジンは、旋回初期でよく向きが変わるハンドリングに貢献しており、立ち上がりが楽。どんどんスロットル開度が大きくなる。最高速は275km/hほど。メーターだけをみているとネイキッドであることが信じられないほどだ。
3速でもスロットル操作だけで軽々とフロントが浮き上がる。技術説明によるとこのままスロットルを開け続けていれば一定角度(設定により4段階から選べる)をキープできるらしいが、僕には無理。ただ、減速も加速方向も制御の介入がわかりやすく、それでいて違和感はまるでない。電子制御サスペンションは常に曲がりやすい姿勢を導き出してくれているような感覚だ。
走行後、すぐに雨が降り出し、ドライは1本しか走ることができなかった。
◆ライダーに寄り添う、頼れるビッグネイキッド

翌日の一般道の試乗もたまに晴れ間は出るものの、ずっとウエット路面。モードは基本的に「レイン」。「ロード」も試したがサスペンションがハードで、エンジンレスポンスも鋭いため、すぐに「レイン」に戻した。しかし、「レイン」でもエンジンは、アイドリングの少し上から力がみなぎり3000~5000回転も回っていれば十分トラクションがある。そのため発進してすぐにギヤは5速や6速に入る。
タイヤがかなりスポーツ寄りのため温まるまでは滑りそうな感覚があったものの、制御の理解が深まると恐怖心はなくなり、悪条件を楽しむ余裕が出てくるほど。1160ccの車格や手応えはあるものの、動きそのものはとても軽く、幅の狭い3気筒エンジンのメリットは一般道でも健在。ヒラヒラと思い通りのラインを自由に駆け抜ける喜びは、昨日のサーキットにはない、スピードトリプル1200RSもう一つの顔。とても頼りになる。

一般道でも電子制御サスペンションの動きはわかりやすく、濡れた路面を追従し、ギャップをいなし、全ての制御と完璧なマッチングを見せてくれた。
また、ありがたかったのがキーレスシステムとオプションのグリップヒーター。雨の試乗ではこういった装備がとても重宝するし、ストレスや疲労を大幅に軽減。また、クルーズコントロールも標準装備され、パフォーマンス方向だけでない実用面の電脳化も積極的に行なっているのもスピードトリプル1200RSの特徴だ。
見た目は威圧感のあるストリートファイターだが、その中身はとても繊細かつ緻密に制御され、ネイキッドにおいては性能も快適性もトップエンド。自分の技量や楽しみ方をバイクと相談しながら合わせ込んでいく新しいバイクライフを、多くの方に体験していただきたい。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★
小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。