【ヒョンデ インスター 新型試乗】5ナンバーサイズに圧倒的コスパ、「本気の日本仕様」を出してきた…中村孝仁

ヒョンデ インスター ラウンジ
ヒョンデ インスター ラウンジ全 35 枚

ヒョンデが日本の乗用車市場に再参入を果たしてから3年が過ぎた。“慎重な”という言葉を使えば聞こえはいいが、はじめは何となく斜に構えたのような印象の再参入であった。

そもそも2001年に初参入した時は、社名もヒュンダイ。しかし、再参入ではそれをヒョンデに変えた。「Hyundai」という英語表記から、どうしてもヒョンデは頭の中で一致しなかったので、率直にグローバル市場では何と呼ばれているのか聞いてみたところ、今ではグローバルでもヒョンデと呼ばれているとのこと。コロナ禍での船出だったから当初は大変だったと思う。それが何となく斜に構えた印象に映ったのかもしれないが、この3年でじっくりと市場を分析し、今回の『インスター』は、導入モデルとして初めて、「日本仕様車」として登場した。

具体的にどこが日本仕様となっているかと言うと、大きな点としては3つ。一つはステアフィール。二つ目はサスペンションの仕様。三つ目は加速特性である。一つずつ説明しよう。

◆日本独自の味付けで「受け入れ易さ」特徴に

ヒョンデ インスター ラウンジヒョンデ インスター ラウンジ

まずステアフィールと言うのは、パワーアシスト量をグローバルや韓国仕様よりも軽く設定されていること。それによって狭い日本の路地などでの取り回しや、駐車時の取り回しを良くしている。二つ目のサスペンションに関しては、バネ、ブッシュ、スタビの特性を変え、ダンパーの特性も変えて、特に首都高などの路面の繋目でのバタつき感を軽減しているそうだ。

グローバルや韓国仕様ではどうしてもより硬いチューニングが施され、それ自体は運動性能をあげる仕様となるのだが、日本市場では敢えてそこに目をつぶって、NVHの性能向上を求めたそうだ。そして三つ目の加速特性は、エコ、ノーマル、スポーツの走行モードを、日本独自の特性に変更しているという。この辺りも速度域を考慮してのことだと思う。

プレスリリースには、「親しみ易さ」とか「扱い易さ」という言葉が乱舞している印象を受けたが、個人的にひと言で言うと、このクルマの特徴は「受け入れ易さ」ではないかと思う。とにかく3サイズが全長3830×全幅1610×全高1615mmの5ナンバーサイズである。日本の代表的なリッターカーのスズキ『ソリオ』が3810×1645×1745mm、トヨタ『ライズ』が3995×1695×1620mmである。全高はともかく、全長は両車の中間にあるが、全幅はどちらと比べてもコンパクトに仕上がっている。

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特にトヨタとの比較では85mmも小さい。まあ、小さきゃいいか、という話になると、そういうわけでもないが、どんどん肥大化する自動車サイズにあって、このコンパクトさは清涼感すら覚える。車幅が大きくなるのは、サイドインパクトの安全性を確保したいからなので、ユーロNCAPでどのくらいの成績か聞いたところ、まだその結果が出ていないという。まあこれが良ければ文句なしであるが、少なくとも1480mm以下に抑え込まれている軽自動車よりは、確実にサイドインパクトの安全性は高いはずである。

親しみ易さが強調されたスタイルは、あちこちにピクセルグラフィックを配したのが特徴で、フェンダーの張り出し感を強調した安定感のあるデザインに思えた。それに1610mmしかない室内幅でも、敢えてその部分がネガ要素にならないような配慮なのか、フロントシートはベンチシート“風”とされ(完全には繋がっていない)、無理な5人乗りとはせず、4人乗車にとどめているところも潔い。

◆絶妙な乗り心地のサスペンション

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では日本仕様となったその走りはどうか。ステアフィールの落とし込みは実に良いところを突いていると思う。決して軽すぎず、かといってどっしりと重いわけでもない。高速走行中にレーンチェンジをしても、その軽さで切り過ぎてしまうこともない。軽自動車ユーザーからはもっと軽く…という意見も出るかもしれないが、グローバルな市場ではtoo muchな要求である。実際に走行してワインディングも少し攻めてみたが、中々正確で、意図したラインに乗せることができるステアフィールであった。

サスペンションに関して言えば、これはもう絶妙である。まず乗り心地はすこぶる良い。元々電気自動車で重いバッテリーが床下にあるから、安定感はあるのだが、それを支えるために硬くなりがちの足を、しっかりとソフトにしかもこれも行き過ぎずにうまいポイントを見つけ出していると感じた。前述したワインディングでも不安要素は一切なかった。

最後の加速特性についてだが、一応3つのモードは試してみたものの、元となるグローバル市場のフィールがわからないため、差を知ることはできない。もちろん、前述した二つもグローバル向けがどうであるかを知る由もないのだが、前2か所の変更点は日本市場にきっちりマッチしている。加速に関しては、例えばスポーツはもう少し加速感が欲しいとか、あるいはエコがトロ過ぎるということを変更前と後での違いが判らないので、何とも言い難い。ゆえにこれはそれなりとしか言いようがないのだが、不満を呈する印象はなかった。

◆ようやく本気の日本仕様を作り始めた

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最後に、このクルマのさらなる美点としては、費用対効果の高い点が挙げられる。価格は284万9000円から357万5000円の間にある。今回の試乗車は最上級の「ラウンジ」と名付けられたグレードで、357万5000円のモデルである。ベースグレードの284万9000円のモデルを選ぶと、まずバッテリーが小さな42kwhとなって、航続距離が短くなる。上級2モデルは49kwhで性能的には同じだ。それに装備的にもベースグレードはかなり貧弱で、冒頭述べた費用対効果を感じないので、あまりお勧めできない。

ラウンジにはフロントシートのシートヒーターのみならず、ベンチレーション機構も備わるし、ステアリングヒーターも標準装備だ。そしてスマホのワイヤレスチャージから電動スライディングルーフまでも標準。さらに要らないという人もいるだろうが、このクラスでは珍しいアンビエントライトまで標準装備されるから、費用対効果の高さを感じるのである。

充電も150kwチャージャーを許容する受電能力があるという。MAXが150kwと言うわけではないが、それでも150kwを使用するメリットはあるのだそう。コンパクトなBEVでここまで装備、走りともに良く、しかも費用対効果が高いとなると、文句の付けようがない。ヒョンデもようやく本気を出した日本仕様を作り始めた印象が強い。

ヒョンデ インスター ラウンジヒョンデ インスター ラウンジ

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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