素材サプライヤーの巨人、3Mが上海モーターショー2025で見せた電動化対応への自信と幅広いポートフォリオ

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3Mブース(上海モーターショー2025)
3Mブース(上海モーターショー2025)全 41 枚

4月23日から5月2日まで中国で開催された「上海モーターショー2025」(オート上海2025)にてブース出展した3M。注目すべき製品や今後の展望について、キーマンに話を聞いた。

“顧客の近くで寄り添う”現在のグローバルモデル

3Mをひと言で、何の会社であるか言い表すことは容易ではない。オフィスで仕事中に世話になる「ポスト・イット(R) ノート」のような付箋メモや、家庭のキッチンで用いる「スコッチ・ブライト(TM)」の食器洗い用のスポンジといった、コンシューマー向けブランドやアイテムすら、その一部でしかない。そして、3Mの自動車関連部門は、100年以上の歴史をもつのだ。

「3Mが今年も上海モーターショーに出展していることを、とても誇りに思います。ご存知のように中国はすでに生産台数で世界1位であり、先進テクノロジーやバッテリー、デザインでも力をつけてきた地元OEMがここ数年で勢いを増しているため、私たちにとっても莫大な機会があると捉えています」と、3Mで接着・接合、フィルム&アコースティック、自動車・航空宇宙ソリューション関連のR&Dを統括するマーク・ギールセン(Mark Gehlsen)ヴァイスプレジデントは述べる。中国市場を重視して現地法人により多くの裁量を移管する動きは、欧州あるいは日本のOEMやサプライヤーに共通する傾向で、3Mも2020年前後から現地のR&Dチームが独自に投資開発を主導し、責任をもつ体制を促してきたという。

「ただ私たちが中国、ここ上海にR&Dを置いたのは40年前に遡りますし、現在の社員数は5000人を数えます。中国OEMとの現地でのビジネスを円滑にチームが行えるようにする動きはコロナ禍以前から始まっていて、ここ数年で加速したのは、それまで蓄積した経験によるところが大きい。中国のチームが現地で、中国OEM向けに新たな機会を捉えては新しいプロダクトを開発すること、それができるようになっています」

3Mのマーク・ギールセン(Mark Gehlsen)ヴァイスプレジデント3Mのマーク・ギールセン(Mark Gehlsen)ヴァイスプレジデント

中国市場はその突出したボリュームから、最重要に見られがちだが、無論3Mは日本には日本のR&D体制があり、そこで日本OEM向けの対応を、ドイツは欧州OEM向け、本国USはアメリカOEMに対応している。

「顧客の近くで寄り添うこと、それが私たちの現在のグローバルモデルです。以前のように、マザーモデルがあって世界各地のローカルがそれを生産販売するという垂直統合型ではないのです」

BEV向けにセラミックを応用した「3M(TM) Thermal Runaway Barrier」

3Mブース(上海モーターショー2025)3Mブース(上海モーターショー2025)

3Mにはカーラップフィルムや対紫外線・赤外線のオートウィンドウフィルム、エアコン洗浄剤やボディの補修剤など、一般コンシューマー向けのアフターマーケット・プロダクトも多々ある。だが技術仕様を決める要件はOEM側から出てくることが多い以上、自動車関連ビジネスのメインボリュームはBtoBで、BtoCはその派生プロダクトであることが多いという。

「アフターマーケット部門の役割は、車のオーナーが3Mのソリューションを用いて補修メンテナンスできるようサポートすることにあります。一方、自動車関連や宇宙航空関連の部門には、テープ類やウレタン系の補修剤は他領域の部門が生産しているものもあるため、OEMの要求するスペックや耐久性を満たすソリューションを作り出すことが求められています」

その代表的な例として、ギールセン氏はセラミックの最新の応用である「3M(TM) Thermal Runaway Barrier」を挙げた。

「昔からセラミック・マスは3Mの得意とするところで、以前はICEのエキゾーストシステム内で金属製ハウジングと触媒コンバーターの間に使っていました。急な温度変化に対するクッション材として、今も産業用の内燃機関に用いられています。そして長年培ってきたセラミックの技術を活かして、近年はセラミックファイバーをBEV(バッテリー式電気自動車)用の温度バリアに用いているのです。プリズマティック・セル、つまり角筒形セルの間に挿入することで、ひとつのセルが発熱しても隣のセルに燃え広がることを防ぐので、『3M(TM) Thermal Runaway Barrier』と呼んでいます。内燃機関の頃からの、既存のテクノロジープラットフォームにテコ入れすることで、BEV向けの新たな応用が可能になったのです。私たちが人々の暮らしを豊かにするためにサイエンスを活かすというのはそういうことで、3Mには49のテクノロジープラットフォームと呼ばれるコア技術があります。接着剤や研磨材に始まってミクロからナノレベルの研究開発を重ねて、理解を深めているので、顧客の側から新たな応用が求められたら、それらのテクノロジーを組み合わせて、課題を解決する。それが私たちのイノベーションのやり方です」

「3M(TM) Thermal Runaway Barrier」のデモ。セラミックのプレートは円筒や角筒など色々な形のバッテリーセルに挟むことが可能「3M(TM) Thermal Runaway Barrier」のデモ。セラミックのプレートは円筒や角筒など色々な形のバッテリーセルに挟むことが可能

すでに「3M(TM) Thermal Runaway Barrier」は、いくつものOEMのBEV用バッテリーに採用されているそうだが、肝要なのは各社の設計にどうフィットさせるか開発の初期段階から密に動くことだとギールセン氏は続ける。

「各社のBEVモデルごとに、必要な航続距離も異なれば、バッテリーの設計も異なります。基本的にいずれのOEMにも独自の設計が存在しますから、このバリアシステムを各社のバッテリー設計に組み込むには、開発の早くから密にやり取りして、私たちの製品がどう組み込めるか見極める必要があるのです。それは仕様だけにかぎりません。バッテリーがBEVのコストの50%近くを占める以上、究極的にOEMはバッテリーのコストを下げたいもの。パフォーマンスとコストのバランスを改善するためのパラメーターは各OEMのシステム内に多々あって、我々が確実にその戦略を理解するには、良い関係を築くことが必須です」

不織布の防音材や「3M(TM) グラスバブルズ」にも注目

さらにBEVの伸長が著しい中国市場において、技術的にも供給面でも需要が高まっており、既存のテクノロジープラットフォームで対応した分野として、不織布による防音材を挙げる。

不織布による防音材「3M(TM) Flexile 防音材 FABシリーズ」不織布による防音材「3M(TM) Flexile 防音材 FABシリーズ」

「不織布はご存知のように、マスクにも用いられるテクノロジーです。この技術が、自動車の防音にも使われています。その細かな繊維の素材が音を吸収するわけですが、電動車は静粛性が高い分、タイヤノイズや風切り音、あるいはモーターやインバーターの高周波音といった、内燃機関の車ではあまり問題にならなかった種類の音が耳障りになります。メインストリームのOEMより、ラグジュアリーブランドが静粛性や快適な空間づくりに熱心であることは言うまでもありません。ただし遮音性と素材の重さは比例してしまう要素ですから、それを軽量化していくところに新たなチャレンジがあります」

そうしたソリューションの一つが、成型前の樹脂に混ぜ合わせることで60%近くもの軽量化を実現する「3M(TM) グラスバブルズ」だ。また遮音材はフロア周りのみならず、BEVにしばしば備わっている面積の大きなルーフガラスでは、合わせガラスに挟みこまれるシート状の素材も風切り音や雨音を抑えて静粛性に寄与する。エアコンの効率が航続距離に関係する以上、赤外線や紫外線の透過による室内温度の上昇を抑え、乗員の肌の保護を担うフィルムも、3Mの得意とする領域だ。

「3M(TM) グラスバブルズ」に関する展示「3M(TM) グラスバブルズ」に関する展示

車内の快適性というキーワードであれば3Mの接着、接合の技術がある。温度によっては室内に漂う化学的な臭気を著しく抑えた両面テープである「3M(TM) VHB(TM)テープ」などもある。あるいは射出可能なシーラント剤として通常のパッキンのように打ち抜く必要がないながらも、ガラスやウッド、金属などあらゆる表面に貼りつき、絶縁性をもたせることもできれば必要な時は指でも引き剥せる「3M(TM) VHB(TM) エクストルーダブル テープ」のようなソリューションもある。

「3M(TM) VHB(TM) エクストルーダブル テープ」。ガラス、金属、ウッドなどに貼ることが可能で、引っ張ればすぐに剥せる「3M(TM) VHB(TM) エクストルーダブル テープ」。ガラス、金属、ウッドなどに貼ることが可能で、引っ張ればすぐに剥せる

主要市場ごとに完成している生産拠点のローカライズ

世界中に生産拠点をもつことのデメリットはないのだろうか。

「確かに中国の拠点で多くのソリューションを生産していますが、アメリカでも相変わらずほとんどのプロダクトを生産しているので、輸入する必要のあるものはそう多くありません。我々は65カ国に展開しておりまして、それだけ主要な市場ごとに生産拠点のローカライズが完成しているのです。

BEVの普及速度は各国のエネルギー事情や市場によって千差万別で、エネルギーコストの高い国では充電インフラの普及が見通せないところもあり、ハイブリッドの復権は相対的に長く続くのではないかと、ギールセン氏は予想している。OEMとの最新鋭の開発事情からアフターマーケットにおけるソリューションまで、幅広くカバーする3Mだからこそ、確かな経験則に裏打ちされているのだ。

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《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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