人間の感性がタイヤを進化させる! ブリヂストン開発現場を“体感”取材

人間の感性がタイヤを進化させる! ブリヂストン開発現場を“体感”取材
人間の感性がタイヤを進化させる! ブリヂストン開発現場を“体感”取材全 9 枚

昨今、コンピュータによるシミュレーション技術の向上により、工業製品の開発現場は大きく変化している。

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かつては実際に試作品を作ってテストしなければならなかった項目も、昨今はデジタル技術を活用した分析や解析のシミュレーションにより実際に試験しなくても済むことが増え、開発のスピードアップが図られるようになったのだ。

タイヤもそうである。たとえば世界的なタイヤメーカーであるブリヂストンも、新しいタイヤの開発にあたって活用するデジタル技術を大きく進化させている。

しかし、デジタル技術だけでタイヤが作れるかといえば決してそうではない。あくまで解析できるのは一部であり、実際に走らせないでタイヤを完成させることはあり得ない。総合的なフィーリングなどは実際に走ってドライバーが評価しないとわからないからだ。開発現場では、評価ドライバーによる官能評価の声を反映しながらタイヤを作り上げていくのである。そこで活躍するのが評価ドライバー。いわゆるテストドライバーだ。

今回、ブリヂストンが「タイヤ開発の裏側を知って知識を深めてもらう」ことを目的に、栃木県にある同社の開発施設でタイヤ評価の現場を体験させるというイベントを実施。筆者も参加してきた。

◆シミュレーション技術だけでは語れない「人」の価値

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まず前知識として、評価ドライバーの役割はふたつの方向がある。ひとつは「計測試験」と呼ばれるもので、目的は定められた環境や条件に従ってクルマを走らせてタイヤの性能をデータとして計測することだ。そしてもうひとつが「官能評価」と呼ばれるもの。フィーリングを確認。振動、音、乗り心地といった居住性、そして直進性、車線変更性、旋回性といった操縦安定性のチェックをおこなう評価試験である。

実際にタイヤを履いたクルマで走って移動し、乗り心地から走行フィーリングまで官能領域で印象を感じるのは生身の人間である。そこにはデジタル技術による解析だけでは測りきれない“感覚”が存在。評価試験はそんな感覚がもたらす商品性を磨き高めるためにあるといっていいだろう。

◆テストドライバー体験で分かったプロの凄み

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用意された体験メニューはふたつ。ひとつはハンドリング路(サーキットのようにいくつものコーナーがあり周回できるコース)が舞台。そこを3周して「いかにバラツキのないラップタイムを刻めるか」を試すというものだ。その速度を守って評価ドライバーが計測や評価を行う前提として、いかに同じ速度、同じ走行ライン、同じブレーキ、そして同じ加速で周回を重ねられるかが重要となってくる。それを体感させようというわけだ。

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あらかじめ速度が定められていて「それを守りつつ毎周同じブレーキや加速をすればラップタイムは揃う」という理屈ではあるが、それがいかに難しいかは体験しなくても想像できることだろう。実際にやってみると、速度を一定に保つのだけでも意外と難しい。

平たんな場所ならともかく、コースには上り坂や下り坂があってそこが鬼門となってくる。思うように一定とならないのだ。またブレーキや加速も毎周、正確に同じ運転が求められるが、簡単なことではない。まずはスッとブレなく減速するのが難しい。どうしても探り探りの“迷いがあるブレーキ”となってしまうのだ。加速もオーバーシュート気味になってしまう。走行後は走行をデータ化したグラフにより同社の評価ドライバーとの走りの違いを確認したのだが、プロに比べると速度のブレの大きさに記者は自信を喪失せざるを得なかった。

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ちなみにこの体験は3周が1セットで、合計2セット用意された。実は1セット目と2セット目では同じ車種かつ同じタイヤサイズながら、タイヤ銘柄が異なっていた。「そのフィーリングの違いも感じて評価せよ」とのことだったが、速度コントロールに全神経を集中し過ぎたゆえにタイヤのフィーリングの違いまで気が回らなかったのはここだけの話である。評価ドライバーへの道のりは極めて遠い。

◆極限の滑りやすさと戦う「スキッドパッド」体験

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もうひとつのメニューは、「スキッドパッド」と呼ばれる円形のコースを5周し、そのラップタイムのバラツキをなくすというもの。走る部分は石畳となっており、そこへ水を撒くことで雪道と同程度の滑りやすさ。滑らないように(もしくは上手に滑らせつつ)コントロールし、同じ速さで周回するスキルが求められる。車両はMTのトヨタ『GR86』で行った。つまりコントロールを失敗するとスピンするというわけである。

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見本を見せてくれたプロの評価ドライバーの走りは、速度、そして車両コントロール技術の両面から見事なものだった。「滑りやすさは均一ではなく、この辺りが滑りやすい」とか「ここでアクセルを踏むと挙動が乱れてテールがスライドする」などと解説をしながら、ほぼ同じ周回タイムを刻むのは神業としか言いようがない。

記者は同じ組として走ったほかの3人に比べると「タイムが最も安定」という評価を得たのはちょっとした自慢(5周のうち2周はなんと1/10秒まで同じ!)。ただし、本業のテストドライバーに比べると周回タイムが遅かったのは悔やまれるところだ。実際のタイヤ評価では、グリップを超えた際の反応やリカバリーのしやすさなどを確認し、より安全なタイヤを完成させるという。

こうしてタイヤ開発の裏側を(一部ではあるが)覗き見して感じたのは、タイヤ開発はやはり人の感性が大切だということ。そして、そのために卓越した運転技術を持つ評価ドライバーが不可欠だということだ。

なお、評価ドライバーに求められるのはあくまで好き嫌いでタイヤ評価するのではなく「こういうタイヤを作りたい」というタイヤの商品特性をしっかり理解すること。そして実際に走って「ここがいい/ここがよくない」という客観的な評価をしっかり感じて伝えられる能力である。もちろんそこには高い運転技術が必要だが、それは速く走れるということではない。目の前で起きていることを分析し、よりよいタイヤを作り上げていくというエンジニアの視点が重要なのだ。その能力には感服するばかりである。

今回の体験を通して強く理解したことは「記者には評価ドライバーを勤め上げる能力がない」ということ。しかし、評価ドライバーという職には必ずしも運転の上手い人が配属されるというわけではなく、入社して配属になり運転のスキルを上げていくパターンもあるとのことだ。

《工藤貴宏》

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