わが子が3時間で“一人前のライダー”に…未来のバイク好きを育てる「赤字事業」は、親子の絆を深める「感動体験」だった

ヤマハ発動機の親子バイク教室
ヤマハ発動機の親子バイク教室全 64 枚

バイクメーカーのヤマハ発動機が世界中で取り組むのが、独自の安全普及活動「YRA=ヤマハ・ライディング・アカデミー」だ。バイクを安全に、楽しく乗ってもらうためのレッスンで、初心者やリターンライダー向けを中心に運転の基礎から学ぶことができる。

その中でも応募が殺到する人気となっているのが「親子バイク教室」だ。小学生から参加でき、実際にヤマハのバイクを運転しながら、バイクの楽しさや安全の大切さを体感する。そんな親子バイク教室の人気の理由のひとつは、その名の通り「親子で参加する」ことにあるのだという。

◆30年以上の歴史を持つヤマハの「親子バイク教室」

ヤマハ発動機の親子バイク教室ヤマハ発動機の親子バイク教室

ヤマハの親子バイク教室は1993年に実施した「少年少女モーターサイクルスポーツスクール」を起源とし、すでに30年以上の歴史を持つ。バイクを操る楽しさや爽快感、チャレンジすることによる達成感、交通ルールやマナーを学べること、そして親子で参加することで生まれる信頼感や思い出…を体験価値とし、ヤマハが掲げる「感動創造」につなげる取り組みだ。2017年にはキッズデザイン賞 審査委員長特別賞を受賞したほか、2024年度のグッドデザイン賞も受賞している。

ヤマハはYRAとしてライディングのスキルに合わせた様々なプログラムを用意しているが、親子バイク教室だけで年間40回を全国で開催。小中学生、高校生を対象に、「エンジン始動(10分)」「体験(1時間)」「トライ(3時間)」といったはじめてバイクに触れる子どもに向けたコースから、中級者向けの「サーキット(3時間)」や、上級者向けの「アドベンチャー(3時間)」といった本格的なコースも用意する。ひとつづつクリアしながらステップアップしていく仕組みだ。

ヤマハ発動機の親子バイク教室ヤマハ発動機の親子バイク教室

体験レッスン以上のコースは事前予約が必要で、会場も公園などの広い駐車場でおこなわれるが、エンジン始動体験はショッピングモールなどで随時開催されており、親子バイク教室やバイクの世界への入り口としての役目を果たしている。

講習車両として用意されるのは、ヤマハのキッズバイク『PW50』『TTR50』『TTR110』で、各コースで子どもの学年や体格に応じた車両を使用する。小学1年生から3年生までのPW50はトランスミッションもオートマチックだが、TTR50以上は公道を走るスポーツバイクなどと同様にクラッチレバーとシフトペダルもあるモデルだ。講習ではギアを3速または4速に固定して走るためシフトチェンジの操作は必要ないが、本物のバイクを運転する感動を味わうことができる。

またヘルメットやプロテクターなどの装具はすべて用意されるため、身軽に、かつ気軽に参加できるのも特徴となっている。

◆わずか3時間で一人前のライダーに

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6月28日には東京・大井競馬場の駐車場でトライコースが開催され、9組の親子連れが参加した。トライコースは初心者向けのコースで、初めて参加する親子がほとんど。3時間のプログラムの中で、安全運転を紹介する紙芝居や、バイクの支え方、エンジンの掛け方から、実際に駐車場内をひとりで運転できるまでを、ヤマハの講師が丁寧にサポートする。講師陣には現役のレーサーや元レーサーもいて、直接プロのコーチングを受けることができるのも魅力だ。

アクセルの開け方やブレーキの掛け方に慣れながら、お母さん、お父さんが手を広げて待っている場所まで走る。少しずつ走れる距離を伸ばしていくと、最初は不安そうな表情だったのが、自身に満ち溢れた表情に変わっていく。

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プログラムの最後には完全に親の手を離れて、オーバルコースをのびのびと周回する姿がみられた。女の子の参加が多かったのも印象的で、上級生の男の子も顔負けの思い切った走りを見せ、会場に笑顔が溢れる一幕などもみられた。

わずか3時間の間で、ひとりでバイクを乗りこなすまで成長する我が子の姿に、お母さん、お父さんたちは目を細めながら声援を送っていた。

プログラムを終えた子どもたちに感想を聴くと「楽しかった」「次はサーキットを走りたい」といった声や、「簡単だった」「余裕だった」と頼もしいコメントも。

◆「お母さん、お父さんたちにとっても感動体験なんです」

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参加した理由を聞くと、「ほかの兄弟が参加したから」「お父さんがバイク乗りで自分も乗ってみたいと思ったから」「サーキットを走ってみたくてまずはトライコースに参加した」など様々。また、近年では親がバイク好きというわけでなくとも「子どもに冒険やアウトドアの体験をさせたい」という理由で参加する親子も少なくないそうだ。実際、この日参加していたお母さんも、自身はバイク乗りではないが「子どもの良い体験になれば」と様々なイベントを探している中で親子バイク教室の存在を知り申し込んだと話していた。

会場によっては申し込みの競争率も高いというが、それでもリピーターも多いという。遠方からの参加者も少なくない。その人気の理由のひとつであり、イベントの柱でもあるのが「親子で参加すること」にある。親子バイク教室を担当するヤマハ発動機 カスタマーエクスペリエンス事業部の畠山貴之さんは「お父さん、お母さんたちにとっても楽しい、というのが大きな理由です」と話す。

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「お子さんが小学生、中学生になってくると、なかなか近い距離で一緒に遊ぶということも少なくなります。そんな中で、親子バイク教室では、子どもたちが自分に向かって真っすぐに向かってきてくれる、バイクが倒れないように支えてあげたり、逆に頼ってくれたりする。一緒に思い出づくりができる。そういう時間を共有できるのが嬉しいと言って頂けたりします。お母さん、お父さんたちにとっても感動体験なんです」

◆未来のヤマハ好きを育てるための「赤字事業」

長年イベントの運営に携わる担当者は、「参加する親御さんや子どもたちと直接触れ合うことができて、イベントが終わるとみんなが笑顔になって帰っていく。『ありがとう』と言ってもらえる。こんなにありがたく、嬉しい仕事はなかなかないと思います」と話していた。実際、ヤマハ発動機の社内でもこの活動は人気だといい「この仕事をやりたいとか異動したいという声があるんです」と畠山さんは話す。

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YRAは、ヤマハオーナーへの顧客満足度向上やヤマハファン創出=購買促進につなげる狙いもあるため、販売会社であるヤマハ発動機販売が主体となって運営されるが、親子バイク教室についてはヤマハ発動機本体の取り組みとして実施されている。ヤマハブランドを知ってもらうきっかけとして、あるいはバイクの楽しさを知ってもらうための最初の一歩を提供する、ということに重きを置いているためだ。「正直、イベントとしては赤字です」と畠山さんは話す。それでも、未来のヤマハファン、バイクファンを育てるため、そしてより安全な交通環境の実現に向けて、地道な草の根活動を続ける。

“一歩先”を常に見据え、体験価値の創造に注力し続けるヤマハらしい取り組みのひとつと言えるだろう。

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《宮崎壮人》

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