訊けば「子離れ世代に1番に響くクルマにした」(チーフエンジニア・戸倉宏征さん)のだそう。だからTV-CMも80年代初頭の空気感を再現したヤマタツ×永井博という訳だ。
そういう世代の筆者などつい“ジャケ買い”しそうになる(!?)プレーンな良き実用車が、この新型『ムーヴ』だ。
1番のポイントは、やはりムーブとしては初採用のスライドドアだ。スーパーハイト系ではお馴染みで、身内の『ムーヴ キャンバス』でも採用済みだが、7代目にしてムーブにも取り入れられたのは時代の流れというべきか。

我が家には想定外だった体重15kgに育った3歳になる男子の柴犬(名はシュン)がいるが、カレを抱きかかえて後席に乗せ自分は運転席へ……という一連の動作で、ヒンジ式のようにドアが邪魔にならないのは、どんなに楽かを実感した。
RSグレードを例にとれば両側パワースライド、イージークローザーはもちろん、クルマに近づくと自動で開くウェルカムオープン機能、クルマから離れてからの施錠が可能なタッチ&ゴーロック機能も付くといった充実ぶりだ。
◆『タント』や『キャンバス』との室内の違い

『タント』より100mm抑えた1655mmの全高だが、前・後席とも空間の余裕は十分。Aピラーは傾斜が強いが、フロントクォーターウインドゥを2本のピラーで挟んだ形状は吟味され、運転席からの視界はスッキリと良好。
インパネはたとえばキャンバスのようにセンスを味わうタイプではなく、昔ながらの自動車雑誌のキャプションのようだが“機能的なインパネ”といった風だが、操作レバー、スイッチ類の質感は十分。身体をスッと受け止めてくれるシートの出来栄えも上々だ。

後席は240mmのスライド機構を備え、座ってみるとフロントモーストでもヒザ前の余裕が確保され、リクライニング(数え間違いがなければ7ノッチ)を利用して好みの姿勢もとれる。
装備面では「RS」と「G」であれば電動パーキングブレーキとオートブレーキホールドが標準なのがありがたい。
◆専用ダンパーによる“したたかな感触”の足回り

走りは最新モデルだけに、サッと乗って軽快に走り出せるといったところ。
試乗はインタークーラー付きターボのRSとノーマル(NA)エンジン搭載のXの2台を試したが、より多くの走行シーンで心強さが味わえるのは、やはりターボのRXのほう。加速が逞しいためパワーコントロールがしやすく、起伏がある地形の住宅街の5%程度の登坂路も、エンジン回転を大きく高めずにストレスなく登る。
またカヤバの専用ダンパーを使う足回りもしたたかな感触で、コーナリング中に外側にラインが膨らみそうになると内輪のブレーキ制御を行なうCTA(コーナリングトレースアシスト)もクルマの安定感を保つ役割を果たしてくれ、安心感をプラスしている。

一方のNAモデルのXは、動力性能、足回り共に日常的な用途で不満のないスペックをもつ。エンジン回転が高まった際の音も比較的マイルドだ。
通称“スマアシ”のADAS(安全運転支援)関連の機能では、RSには全車速追従機能付きACCが標準となるRSが魅力に思える。それとRSの外観が、ヤル気満々のいわゆるカスタム系のあしらいではない点も、大人のユーザーには選びやすいはずだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。