日産自動車は、第3世代「e-POWER」向けの発電専用エンジン「ZR15DDTe」に、自動車用エンジンとして世界初となるコールドスプレー工法を用いたバルブシートを採用したと発表した。
「e-POWER」は日産独自の電動パワートレインで、エンジンを発電専用とし、駆動はすべて電気モーターのみで行うシリーズハイブリッドシステムである。電気モーターのみで駆動するため、力強くレスポンスの良い加速と高い静粛性が特徴で、複雑な機構を必要とする他のハイブリッドと比較しても、より滑らかでEVのような運転体験を提供する。
7月に英国サンダーランド工場で生産を開始した『キャシュカイ』は、5つの主要コンポーネントを一体化した5-in-1電動パワートレイン(第3世代)と、発電に特化した専用の新開発1.5リッターターボエンジンを組み合わせ、燃費と静粛性を大幅に向上させている。
新開発した発電特化型エンジン「ZR15DDTe」は、STARCコンセプトと呼ぶ日産独自の燃焼技術により42%という高い熱効率を達成している。STARCコンセプトを実現するためには、吸気ポートから燃焼室へ入る空気流の乱れを極限まで抑え、強いタンブル流を形成することが重要という。
一般的なエンジンの吸気ポートは、焼結材で作られたバルブシートを圧入する構造のため形状に制約があり、タンブル流の形成に理想的な形状にすることは困難だった。
今回開発したコールドスプレー工法を用いたバルブシートは、シリンダーヘッドの表面に被膜を形成するもので、別体のバルブシートが不要となり、理想の吸気ポート形状を実現している。この新しい工法は、アルミ合金製シリンダーヘッドの表面に異種の金属粉末を超音速で吹き付けることで強固な被膜を形成する。
材料の融点以下で施工するコールドスプレー技術は、材料を溶融することなく異種材を接合できるため、通常の溶融接合で課題となる被膜と基材の界面での金属間化合物の過剰生成や基材が溶融することで発生する微小な空洞形成(ポロシティ)といった現象を抑え、類似工法に比べ高い熱伝導率でバルブ周りの冷却性を向上させるとともに、高い耐久性と信頼性も実現する。
この技術の適用にあたっては、熱伝導性に優れる銅系材料をベースにしたコバルトを使わない専用材料の開発や、鍛造金型製作の研磨技術を応用した内製ノズルや最新のAI技術による品質保証など、長年にわたり蓄積してきたパワートレイン設計・材料・生産技術のすべてが活用され、自動車用エンジンへの適用は世界初となる。