モータースポーツで活躍するトヨタGAZOOレーシング。WRCやWEC、スーパーGT、スーパーフォーミュラなどで輝かしい成績を残しているのは言わずもがなだ。そして、そこでの技術を市販車にフィードバックして生まれたのがこの『GRヤリス』。2020年に登場して以来、トヨタGAZOOレーシングの活動とともに注目を浴びてきたモデルである。
【画像】トヨタ GRヤリス 25式とエアロパフォーマンスパッケージ
そんなGRヤリスは2024年型(24式)で大きく手が入り進化した。エンジン出力の向上や8速AT「GR-DAT」(ダイレクトオートマチックトランスミッション)の追加だ。最高出力は272psから304psにスープアップされている。さらにボディ剛性のアップやサスペンションのセッティングの変更も行われた。

そして今年、25式として彼らはそれを磨き上げた。基本性能をアップし、エアロパフォーマンスパッケージを用意。さらなる運動性能を高めている。
そんな25式GRヤリスをサーキットで走らせたので、その印象をお届けしたいと思う。
◆明らかにクリッピングポイントが異なる

まずステアリングを握ったのは20式のMT車。これはこれで十分レーシーでストレートは速く、コーナリングもスムーズに曲がる。コーナー手前でしっかりブレーキングすればキレイにトレースできる動きだ。アクセルレスポンスはもう少しクイックでもいいが、これはこれで成立している。
ところが25式のMT車に続けて乗るとその違いが明確にわかった。コーナーでの安定感は別物で、終始ドライバーを安心させる。アクセルレスポンスも良くなり、そこからの出力ピックアップは鋭い。なので、20式と同じような踏み方では思いのほかスピードが出ていることになる。明らかにクリッピングポイントが異なるのだ。
自然とコーナーは進入速度は高くなるが、そこで挙動が乱れることはない。タイヤがしっかり路面を掴んでくれているので、ステアリング操作とアクセルコントロールに集中できる。20式よりもコーナリングスピードは明らかに高くなる。
◆恐ろしいほど安定する「エアロパフォーマンスパッケージ」

ただそれも最後に乗った「エアロパフォーマンスパッケージ」に比べると、まだ不安定な部分があった。というのもエアロパフォーマンスパッケージの挙動は恐ろしいほど終始安定していたからだ。ストレートからの第一コーナー手前のブレーキングやヘアピン手前のハードブレーキング、高速コーナーの入り口から出口まで常に安定している。
リアのダウンフォースはもちろん、フロントスポイラーが前輪をしっかり路面に押さえつけ、操舵に対し素直に反応させてくれる。レーシングカーがタイトコーナーをクルリと回るのはこのダウンフォースを利用しているに違いない。

DATもよく出来ている。最初の5ラップはDレンジのままで走り、次の5ラップはパドルを使ったが、どちらも予想以上だった。Dレンジでもタイトコーナー手前で強くブレーキを踏むと2段階ギアが落ちると同時に、二度のブリッピングをする。スーパーカー系では何度か体感しているシステムだが、このクラスでは初めてだ。小気味良いブリッピング音が気持ちいい。
パドルの反応もグッド。変速のスピードは明らかに通常の市販車とは違う。0.6秒くらいだそうだ。ただ、ギアボックスを守るため、3速から2速へのダウンシフトを受け付けない場面もあった。この辺はまだまだ改良できるポイントだろう。速度センサーでブレーキシリンダーの圧力を高めるとかで強制的に速度を落とすなど手段はありそうだ。

◆「サーキットは走る実験室」をリアルに実行する
というのが、GRヤリス25式のサーキット試乗インプレ。「サーキットは走る実験室」をリアルに実行しているのがよくわかった。それを鑑みると、このクルマの価格設定(RZの6MTが448万円から)はアフォーダブルと言えそうだ。公道ではわからない高い次元の魅力がサーキット走行で顔を出すといった感じである。
九島辰也|モータージャーナリスト
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの“サーフ&ターフ”。東京・自由が丘出身。