伸長続くテスラ、なぜ今売れる? 値下げ×チャネル強化×体験設計を現地取材

千葉市稲毛区にオープンした「テスラ千葉稲毛」。ショッピングモール「ワンズモール」内にあるので、買い物がてら立ち寄れる
千葉市稲毛区にオープンした「テスラ千葉稲毛」。ショッピングモール「ワンズモール」内にあるので、買い物がてら立ち寄れる全 15 枚

テスラの販売台数が好調だ。日経新聞によると、2025年1~8月の累計販売台数は約6590台と、過去最高を記録。過去最高だった2022年の年間販売台数(約5900台)を早々に超えた。

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日本の電気自動車(EV)市場が低迷する中で、この実績は突出した事例と言える。この好調さの背景を探った。

◆日産が首位を明け渡す兆し
テスラが販売台数で肉薄

実は国内EV販売台数で15年近くも首位を走り続けてきたのは日産だ。2010年の初代『リーフ』を発売して以来、リーフはグローバルで約70万台を販売。その後、日本では初の軽EV『サクラ』を販売したこともあり、一躍、国内EVのトップメーカーとなった。しかし、リーフがモデル末期になり、日産の経営危機も影響したのか、2025年に入って販売台数は急激に落ち込み、8月にはついに前年比48%減の1120台にまで急減してしまった。

一方のテスラは日経新聞によれば、2025年8月の販売実績で約980台を記録し、首位の日産にその差約100台にまで迫ったという。もちろん、これは2024年比で半減に近くまで落ち込んだ日産のいわば“自滅”がこの状況を生み出したとも言えるが、テスラの順調なまでの伸長は見逃せないものがある。テスラは販売台数を公表していないため、正確な台数は不明だが、これが事実なら日本のEV市場にとって大きな転機となるのは間違いない。では、そこまで販売台数を伸ばせた背景には何があったのだろうか。

◆値下げと販売チャネル強化
モデル3の実質399万円と店舗拡大

これまでテスラといえば、『モデルS』や『モデルX』といった、1000万円を超える高価格帯の車種をラインナップし、これが“テスラ=高級車”という印象を与えがちだった。しかも販売はオンラインが基本だ。新車をディーラーで購入することが当たり前だった日本では、1000万円超えのクルマをオンラインで購入するには勇気が要る。そうした敷居の高さが少なからずユーザーの足を遠ざけていた可能性は否定できない。

一方、テスラ・ジャパンは今年、2025年に入ってその販売戦略を大幅に変更した。その戦略とは大きく二つだ。一つは主力車種である『モデル3』の値下げであり、二つ目はオンラインをメインとした販売だけでなく店舗販売にも力を入れるというものだ。

まず、モデル3の値下げは2025年5月から開始した。ベースモデルの後輪駆動車「RWD」は、期間限定で45万3000円値下げし、国から出るEV購入補助金を加えると実質399万円で購入できるようにした。この価格帯であれば、高価格帯にシフトし始めている日本のハイブリッド車と比較しても価格差は小さい。

さらに販売する車種も、従来のモデルSやモデルXといった高価格帯の車種の販売を休止し、モデル3と『モデルY』の2車種に絞り込んだ。より身近なラインナップを取り揃え、価格の引き下げも行うことで、テスラが誰にでも手が届く大衆車であることをアピールすることが狙いだ。

中でも大きな転換と言えそうなのが、店舗販売の強化である。テスラは2019年に普及価格帯のモデル3を発売を機に、オンライン販売へと全面移行した経緯がある。しかし、日本は米国のように新車を即決で購入することはあまりなく、複数のディーラーに通いながら買いたいクルマを絞り込んでいくスタイルが基本だ。

そんな中、テスラ・ジャパンが25年中にリアル店舗を30店舗とし、翌26年末までには50店舗に増やすとした(日経新聞)のも、販売台数を拡大するには、そうした日本ならではの商慣習を重視すべきとの判断があったからとも言えるだろう。

◆テスラ千葉稲毛とデリバリー体験
“スマートな納車”が購買体験を更新

そんな新戦略が明らかになった9月5日、千葉市に新たに開設した「テスラ千葉稲毛」をオープン初日に訪れた。この日はテナントとして入ったショッピングモール「ワンズモール」のリニューアルオープンした日ということもあり、台風15号が近づいて雨が降りしきる中にもかかわらず、テスラ千葉稲毛には人が絶え間なく訪れていた。

ストア内には、販売車種であるモデル3とモデルYを展示し、店舗内スタッフに車両についての質問や、購入までの相談などができるほか、実車に座って感触を楽しむことができるようになっていた。

実はワンズモール隣には「テスラセンター千葉稲毛」があり、希望すれば試乗することも可能になっている。テスラが急激に販売台数を伸ばしているのも、こうした顧客に寄り添った新たな体制作りが功を奏し始めた結果なのかもしれない。

また、テスラセンター千葉稲毛は、新車を受け取れるデリバリー機能も備えているだけでなく、購入後の整備や車検などを依頼することも可能となっている。テスラの場合、整備や車検についてはテスラのサービスセンターでの対応を基本としているが、適宜提携サービス工場でも対応はできる。サービスセンターであれば、カーコンピュータへのアクセス権限があるなど、万一のときの安心度は高い。メンテナンス中も隣のショッピングモールで時間を過ごせるなど、ここは何かと使いやすい場所とも言えそうだ。

さらにテスラセンター千葉稲毛の上階には中古車センターも併設されており、訪れた9月5日は認定中古車フェアを開催中だった。フロアにはピカピカの認定中古車がズラリ! ここでは新車で買えなくなったモデルSやモデルXを目にすることもできた。しかも、中古車なので割安に買えるのも魅力。新車購入前に一度は訪れてみると良いかもしれない。

一方で、新車のデリバリーについては今もなお“テスラ流”を貫く。そこで、その新車引き渡しの様子を確かめるために、日本で最もデリバリー数が多いとされる東京・有明にある「テスラデリバリーセンター有明」にも出かけてみた。

すると、その日も新たにテスラオーナーになる多くの家族が新車を受け取るために続々と訪れていた。ユニークなのは、その新車を受け取るスタイルだ。購入者はデリバリーセンターのカウンターでアプリを開き、受け取る際の画面を提示して、受け取り承認をするだけ。たったこれだけで新車の受け取りが完了する。レンタカー並みと言ってよく、新車の受け取りがこれほど簡単に行われるとは、驚きでしかない。

このデリバリーセンターは、2025年新たに追加となった仙台を含め、東京、千葉、名古屋、豊中、福岡の6カ所。そのどこで受け取るかは指定することができるが、仮に北海道や沖縄に住んでいる人の場合でもこのいずれかの場所に出向くか、搬送費用はユーザー負担となるが運んでもらうしかない。ただ、テスラ・ジャパンによれば、初ドライブを楽しむつもりで遠方から訪れる人も多く、中には東北や北海道から旅行を兼ねて来る方もいるそうだ。

では、クルマの使い方はどうするのか? 新しいテスラ車オーナーは駐車場に向かい、該当車両の前に来たらアプリを使ってドアロックを解錠。クルマに乗り込んだら、車内の画面で案内されるチュートリアルを閲覧して使い方を学習。これを終えたらそのままスタートできる。もちろん、すべての人がこれで理解してもらえるわけではないので、不明な場合はフロアスタッフが操作方法を教えてくれるそうだ。

今までのカーディーラーなら、担当スタッフが納車時に付き添ってさまざまなフォローを行う。最近は、新車購入の際に営業マンとのやり取りを煩わしいと感じる人は一定数いるのは確かで、そうした人にとってはこのスマートさこそが魅力と感じるのだろう。つまり、従来とはまったく異なる状況下でテスラ車オーナーとしてのスタートを切るわけだ。テスラ車がもたらす新たなカーライフの世界。価格も一層身近になった今、これを機にそんな世界を体験してみるのも面白いかもしれない。

《会田肇》

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