【スバル フォレスター 新型試乗】日本車の目覚しい進歩に舌を巻く…中村孝仁

スバル フォレスター スポーツEX
スバル フォレスター スポーツEX全 31 枚

正直、スバルに乗ると、「終のクルマはこれでいいかな」っていつも思わせる。気に入らないのはオヤジ然としてあまり気の進まないスタイルだけだ。

【画像】スバル フォレスター スポーツEX

でも、その中身は素晴らしい。以前は燃費がなぁ…と思っていたのだが新しい『フォレスター』はどこをどうしたのか、俄然燃費も良くなり(ライバルと比べた時は普通)、同時に快適且つ上質な作りは、日本車らしい細やかさと共に、輸入車と比べて一歩も引けを取らない。

50年近くモータージャーナリストという職業についていると、今さらながら日本車の目覚しい進歩に舌を巻く。筆者がジャーナリストになった当時の70年代は、国産車と輸入車の間には埋め難い深い溝があって、確かに値段は高かったものの、対価としてそれを払うだけの価値が間違いなく輸入車にあった。

翻って今、失われた30年ではないが、日本人の給与所得は一向に増えず、物価だけが惨めなまでに上昇し、相対的に日本人は貧乏になった(もちろんそうでない人もいる)。海外、特にヨーロッパやアメリカは順当に給与所得も上がり、物価が上がってもそれについていけるだけの所得水準があるから、クルマの値段が上昇してもそれを苦にしない。しかし、そんな給与所得同様に上昇した輸入車が日本に導入されると、かなり高額感が支配的となる。

昔は対価として支払う価値があったと前述したが、目覚しく進化した日本車と比較した時、正直言って自動車の対価として高い輸入車を買う気が失せてしまったというのは、個人的な本音。スバルを終のクルマとして云々…も、そうした見地からの話である。

◆輸入車に食指が動かない現状

スバル・フォレスターは、コンパクトクロスオーバーでサイズ的にはミッドサイズとされている。つまりセグメント的にはDセグメントともいえる地位にあるクルマだ。

今回試乗した「スポーツEX」というグレードのモデルは、車両価格が422万4000円、オプションを含んた試乗車は448万8000円である(毎度お金の話で申し訳ないが)。これに対して直近で試乗したシトロエン『C4』は、BセグメントのSUV。その価格が448万円で、オプションを含めば460万円を超える。つまり日本車のDセグメントと、輸入車のBセグメントがほぼ同じ価格ということ。

しかもフォレスターには魅力的なハンズフリーをも可能にするアイサイトXが標準装備だし、それ以外の部分でもほぼ至れり尽くせりである。だから、現状はよほど図抜けて、日本車ではチョイスが無いようなモデルを除くと、輸入車に食指が動かない現状があるわけである。

クルマを買う動機は沢山あるから、この価格での切り口に異論がある人は沢山いることは重々承知している。ブランドというのも一つの切り口だから、まあそういう見方もあるという程度にとどめておいて欲しい。

◆代を重ねるごとに確実に進化している

で、フォレスターである。6代目だそうだが、代を重ねるごとに確実に進化している、と思わせる出来であった。

世界初の機構であるサイクリスト対応歩行者保護エアバッグ(どうも日本市場だけらしいが)を装備するなど、安全面の対策を施し、アイサイトを進化させ、定評あるフルインナーフレーム構造でボディを強化。ETC2.0車載器キットを標準装備。そして大型で見やすい11.6インチの縦型ディスプレイも、ナビを標準装備して搭載している。まあ、Bセグメントのヨーロッパ車と比較した場合、その装備の差は大きすぎるくらい充実しているのである。

もちろん走りの点でも最近の日本車は凄い。少なくとも今回はあまり距離を走れなかったのだが、快適性、乗り心地、それに上質感は確実に一級品である。まだ試乗していないハイブリッド車に対して、スポーツEXはどちらかといえば硬派な乗り心地を示すとのことだが、どうしてどうして十分にサスペンションが動いている印象を強く持てる乗り心地だから、何の不満もない。

パワーは元々177psとそれほど高いものではないので、性能的には目を見張るというものではないものの、アクセルを強く踏み込むと、十分に活発に走れる。といっても日常的にターボの恩恵を感じ取れるほどの走りではなく、ターボが威力を発揮するのはやはり強烈な加速時だけ。まあ、穏健派ターボである。

◆矢のような直進安定性は影を潜めた

使い勝手の面でネガを感じたのは、筆者の所属する日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)は、エンジンをかける前にシートベルトを締めるように指導しているが、フォレスターは、降車時にシートは乗降性を良くするために後方にスライドする。一方で新たに乗り込んだ時は元の位置に戻ってくれないから、乗車して先にシートを元の位置に戻す必要があって、これは不便だった。

また、いわゆるホールドモード(スバルはAVHという)はデフォルトではオフになり、その操作はディスプレイの中で行わなくてはならない。多くのモデルはホイールドモードの物理スイッチがシフトレバー付近についているのだが、フォレスターの場合はディスプレイから車両設定を呼び出し、AVHをオンにする必要がある。一度でもエンジンを切って止めてしまうとデフォルトに戻るので、不便であった。

もう一つネガがある。それは以前のスバルは高速時などは抜群の直進性を発揮して、それこそレールの上を走るような高速安定感があったのだが、新しいフォレスターは路面のアンジュレーションに足を取られやすく(高速で)、矢のような直進安定性が影を潜めていたこと。もし標準装着のオールシーズンタイヤに起因するものだとしたら、ちょっと残念だ。

最後に良くなった燃費について。まあ驚くべきとは言えないだろうが、150kmほど走った総平均は9.8km/リットルであった。電気に頼らず、且つ高速をほとんど走らない状況での燃費だが、以前のスバルと比べたら格段の進歩である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 日産『エクストレイル』e-POWERの9197台でリコール…発電停止と走行不能のおそれ
  2. 日産『フェアレディZ』の「レトロな仕様」に注目…土曜ニュースランキング
  3. 【スバル フォレスター 新型試乗】日本車の目覚しい進歩に舌を巻く…中村孝仁
  4. 「初代に立ち戻った感じでよき!」ルノー『トゥインゴ』の新型予想が話題! エンジン車にも期待の声
  5. トヨタ『ライズ』、5色のカラフルなフルーツテーマで登場…土曜ニュースランキング
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. EV充電インフラ-停滞する世界と“異常値”を示す日本…富士経済 山田賢司氏[インタビュー]
  3. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  4. SUBARUの次世代アイサイト、画像認識技術と最新AI技術融合へ…開発にHPEサーバー導入
  5. 「ハンズオフ」は本当に必要なのか? 高速での手離し運転を実現したホンダ『アコード』を試乗して感じた「意識の変化」
ランキングをもっと見る