ハイエースの牙城を崩すか、個性的デザインの「EVバン」が日本上陸…キア『PV5』発売は2026年春

キア PV5(写真は韓国仕様)
キア PV5(写真は韓国仕様)全 52 枚

韓国の自動車メーカー「キア」が、2026年春頃に日本初上陸を果たす。商用車のBEV(バッテリー式電気自動車)に特化し、キアとしても新規車種となる『PV5』を第一弾として導入する。アウトドア需要も見込んだ仕様と個性的なデザインで、日本では独壇場の『ハイエース』市場に攻勢をかける。

【画像】2026年春に日本で発売するキアのEVバン「PV5」

9月29日から10月2日にかけてキアは、韓国ソウル本社を起点に日本の一部メディアに向け、同社のブランド戦略やPV5の展開について発表。実車も公開された。日本で輸入販売をおこなう総合商社の双日は「Kia PBVジャパン(KPJ)」を設立、物流やタクシーなどの法人顧客や地方自治体をメインターゲットとしながら、ディーラーを通じて個人向けにも訴求するという。2026年は日本で1000台、2027年に同2000台を販売する計画。

KPJ代表取締役CEOの田島靖也氏は、「皆様にたくさん使っていただくことによって、少しずつだが着実にキアのブランド認知度を高めていく。販売目標は、かなり野心的な台数だが必ず達成していきたい」と意気込む。

キアは自転車の販売から始まった韓国の自動車メーカーで、約80年の歴史をもつ。庶民の生活を支える自動車メーカーとして成長を続け、1980年代に海外進出。欧米ではコンパクトカーを中心に市場での確固たる地位を築き、グローバルで300万台超を販売している。2021年には「ブランド中心経営」を掲げ、ブランドロゴや車体デザインを一新。さらにあらゆるサイズ、カテゴリーの車種をEV化するなど、先進的な取り組みが評価されている。

2030年にグローバルで419万台、EV販売126万台を掲げる中で、その柱のひとつとなるのが商用車(PBV=Platform Beyond Vehicle)だ。今回発表されたPV5はその第一弾となり、その後もよりサイズの大きい『PV7』や『PV9』も投入する計画となっている。

◆レゴのように組み上げる車体と、最大500km以上の航続距離

PV5の特徴のひとつが、車体、キャビン、荷室を「レゴのように組み合わせることができる」こと。バッテリーとモーターがある土台に、運転席と助手席のあるキャビンを乗せ、それ以降の居住スペースや荷室は数パターンから組み合わせて生産するというもので、これによりロングボディの貨物バンや、乗用バン仕様のキャンピングカー、ピックアップトラックなど最大16種類バリエーションに対応する。さらにキャンピングカーなどの架装にも対応することが可能となっている。専用に開発したプラットフォームがこれを実現した。

日本に導入されるのは「乗用バン」と「貨物バン」の2モデルで、搭載するバッテリーサイズのバリエーションで計5車種の展開となる。最も航続距離の長い車種が71.2kWhのバッテリー搭載車で、一充電あたり528kmの走行が可能。

ボディサイズは全長4695×全幅1895×全高1905mm、ホイールベース2995mm。ライバルと想定されるトヨタ・ハイエースの標準車が全長4695×全幅1695×全高1980mm、ホイールベース2570mm、「ワイドボディ」は全長4840×全幅1880×全高2105mmとなるため、ちょうどその中間のサイズ感だ。室内の広さもアピールポイントだとしており、貨物バンタイプで室内の長さ2255×幅1565×高さ1520mm、床面地上高419mmとした。

乗り心地のよさと静粛性を実現するため、リアサスペンションを乗用車と同じ形式(トーションビーム式)としているのは商用車としては珍しい。また3m近いホイールベースながら最小回転半径は5.5mとし、取り回しのしやすさも魅力のひとつとなっている(ハイエースのワイドボディは同5.2m)。

商用車に求められる安全性、耐久性にも力を入れる。高速道路走行支援、スマートクルーズコントロール、前方衝突防止アシスト、車線逸脱防止アシストなどを含めハイエンドな乗用車並みの先進運転支援システムを採用するほか、車体・シャーシの耐久性評価目標は60万kmと設定、さらに素材の耐久性を高めたほか3ピースバンパーの採用でメンテナンスコスト低減に貢献する。

そして個性的なデザインだ。キアのデザイン哲学「Opposites United(相反するものの融合)」を踏襲し、コンセプトカーのような未来的な造形そのままに量産化を果たした。ブラックのクラッディング(樹脂製フェンダー)やモジュール式バンパーは、SUVのような耐久性の高さや力強さを表現。正面左右の印象的なデイタイムライトとは別に、ヘッドライトはバンパーに埋め込むことで損傷リスクも低減。実用性の高さをデザインに落とし込んでいる。

インテリアは全モデル共通のデザインで、水平基調のシンプルな造形とし空間効率を最大化しつつ、使いやすさにも配慮。センターには12.9インチのディスプレイを備え、車両制御に関する操作や、ナビゲーションをはじめとするさまざまなアプリを利用することが可能となる。また日本に導入される右ハンドル車は、日本車と同様にハンドルの右側にウインカーレバーを備えるなど、日本のユーザーにも配慮した設計となっている。

◆全国8店舗のディーラーからスタート、価格はどうなる

販売の主力は法人向けの貨物バン仕様としながらも、室内の広さを活かして昨今のアウトドア需要を見込み乗用バン仕様も販売する。V2H(Vehicle to Home)にも対応し、大容量のバッテリーに蓄えた電気で家庭の電力をまかなうことができるほか、キャンプなどで電化製品を使用することも可能だ。また、オプションで「アドギア」と呼ぶアクセサリーも多数用意。車内のダッシュボードや荷室の側壁に備わるレールを利用し、ワンタッチでスマホホルダーやドリンクホルダー、ライトや救急キットなどを取り付けることができる。「フルサイズで使えるEVキャンピングカー」という個性で、EVの新たな価値を提案する。

KPJ田島CEOは、「まず注力するところはBtoB。同時にディーラーを通した個人向け、特にEV化への期待が高いキャンピングカーに注力して販売を展開していきたい。また車椅子に対応した車両での福祉業界も視野に入れている。皆様にたくさん使っていただくことによって、少しずつだが着実にキアのブランド認知度を高めていくことを我々の戦略としている。販売目標については、まず2026年は1000台で、次の年に2000台ということで、かなり野心的な台数を設定して必ず達成していきたい。

BtoBのポイントとしては、カーボンニュートラルの実現が経営課題である会社様、特に物流業者、それから色々なルート営業、ルート販売を持っていらっしゃる会社様においては、社会的な要求、社会的な意義というところからカーボンニュートラルの実現を目指されている。だが、今は“EVバン”というものが(日本市場に)ない。EVバンを提供できる我々として、ファーストムーバーとしての立ち位置を持ちながらこうした企業様の経営課題に対応していきたいと思っている」と展望を語る。

KPJは2026年春の発売までに、全国で8店舗のディーラーを展開する計画だ。アフターサービスについても全国で約100か所の整備業者との連携を図り、補修部品などについても遅延なく提供できるよう体制を整える。

日本国内の自動車販売台数は2024年度で約450万台。カーボンニュートラルや電動化が叫ばれる中でもEVの販売はそのうち2.5%程度だという。そんな中で、「EVバン」「EVキャンピングカー」という独自性でEVそのものの新たな選択肢を提供。キアがグローバルで展開するEVブランド戦略を武器に「日本におけるEVの浸透の促進の一翼を担いたい」と田島CEOは語った。

PV5の価格は現時点で未発表だが、韓国では約520万円で販売。補助金などを活用することで「ハイエース並みの価格」で販売できるかが焦点となりそうだ。

キアは、10月29日に開幕する「ジャパンモビリティショー2025」に出展する。PV5の貨物バン仕様と乗用バン仕様を国内初披露する予定だ。

《宮崎壮人》

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