ホンダがラインナップするアドベンチャースタイルの軽2輪スクーターが『ADV160』だ。デザインと足まわりがもたらす力強さの通り、気持ちを高揚させてくれる試乗になった。
◆タフさが盛り込まれたアドベンチャー・スクーター
「限界を超えていく都会の冒険者」というコンセプトを掲げ、2020年に投入されたモデルが『ADV150』である。2023年には排気量の拡大(149cc→156cc)や新形状フレームの採用を受けて「ADV160」へと進化し、現在に至っている。今回、借り受けたのは、最もスポーティなイメージを担うミレニアムレッドの車体色を纏った仕様で、走行距離は1400kmを超えたあたり。エンジンも足まわりもすべてがほどよくこなれた個体である。

「ADV160」は、『PCX160』と主要なコンポーネントを共有しているが、ADV、つまりアドベンチャーの名にたがわず、随所にきちんとタフさが盛り込まれている。エッジの効いたフロントマスク、軽快でスリムなリアまわり、跳ね上げられたマフラー、ブロック調のタイヤなどがそれにあたり、中でもひときわ「らしさ」をくすぐる装備が、いかにも頑強なテーパー状のハンドルバーだ。
そしてもうひとつ。ハンドルバーの先には視認性に優れるシンプルで機能的なLCDメーターが備わり、ウインドスクリーンのステーとともに、コックピットのやや前方へレイアウトされている。それらがどこかラリーマシンを思わせ、シートにまたがり、ハンドルに手を伸ばした瞬間から、ちょっとした非日常の雰囲気が高まってくる。

◆「PCX160」にはないバイブレーションと、仕様を活かしたABS
エンジンを始動させると、これはたまたまなのか、他の個体でもそうなのか、「PCX160」にはないバイブレーションがハンドルから手に伝わってくる。振動がある、と文句を言っているのではない。こういう動的な部分もまたアドベンチャー的で、不快などころか、その鼓動がむしろ心地よく、スロットルを開けると間髪入れずにエンジンが反応。トルクとパワーが即座に立ち上がり、車体を軽やかに押し出してくれる。
156kgの車重に対する最高出力と最大トルクは、それぞれ16ps/8500rpm、1.5kgf・m/6500rpmである。特段余力がある方でもないが、アイドリングから中回転域にかけてのレスポンスがリニアゆえ、スペック以上の力量感で車速が上昇。どんな場面でも小気味よく走らせることができるのだ。

足まわりの味つけもいい。前後サスペンションのストローク感はわかりやすく、乗り心地とギャップを拾った後の収束の素早さがバランス。特に好印象なのはフロントタイヤの存在感で、ブロック調ながらアスファルト路面での接地感に物足りなさはない。「PCX160」よりも高い扁平率(PCX160:110/70-14/ADV160:110/80-14)を持ち、そのエアボリュームが功を奏してか、路面から伝わる反発力はあきらかにまろやかだ。
今回、ダートに踏み入れる機会はなかったものの、ハンドルをとられたり、凹凸の多いシチュエーションでもサスペンションとタイヤがもたらす高い安定性に頼って走ることができそうだ。

ダートといえば、リアブレーキの設定もそれを見越したものになっている。フロントブレーキにはABSが備わる一方、リアブレーキは非装備だ。簡易的なABSで未舗装路を走ると、その介入がライディングの自由度を奪うことがあるため、「ADV160」では最初からそれを排除。リアブレーキをじわっと効かせるか、積極的にロックさせるかは乗り手の判断にゆだねられている。もっとも、ABSの仕組みに関しては「PCX160」も同様なのだが、「ADV160」の方が、その仕様をより活かせるパッケージになっている。
◆スクーターに、ちょっとした彩りとわくわく感を
それにしても、うまく作り込んだな、と思う。「PCX160」の車体価格(46万2000円)から3万3000円の上乗せで、これだけイメージを変え、しかも小手先の意匠変更だけでなく、コンセプトに合わせて走りもきちんとアップデート。格好だけに留めず、だからといってハードにもなり過ぎない、ほどよいところにすべてが収まっている。
利便性に富むスクーターに、ちょっとした彩りとわくわく感が欲しい。そういう望みを持つユーザーに応えてくれるモデルだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。