◆オフ車の車体にオンロードの足回りを移植
軽くてパワフル、こいつは反則級のスゴ技だ! スズキ「DR-Z」の記憶がよみがえってきたぞ!!
新型『DR-Z4SM』は、本来、飛んだり跳ねたり、オフロードのために設計された軽量・スリムな車体をそのままに、前後17インチのホイールを履き、オンロードタイヤをセット。アスファルトの上を縦横無尽に駆け抜け、サーキットでも無類の強さを見せる。
スズキ DR-Z4SM
この反則ワザ(!?)は、1970年代にアメリカで誕生した。ロードレース、モトクロス、ダートトラックなど、さまざまなレースカテゴリーのトップライダーたちの中で、一体誰が最速なのかを決めたスーパーバイカーズがルーツとされている。
欧州に伝わると、フランスで人気が高まりモタード、スーパーモトと仏語で呼ばれるカテゴリーに発展。日本ではそれとは別に、バイク便のライダーがオフ車にオンロードタイヤを履いた。
先代「DR-Z400SM」の国内向けは2008年に生産終了。新型「DR-Z4SM」として、ついに帰ってきた。
◆6速化よりワイドレンジの5速のままに
スズキ DR-Z4SM(左)とDR-Z4S(右)「DR-Z400SM」が「DR-Z400S」をベースにしたように、「DR-Z4SM」もまたデュアルパーパスモデルの『DR-Z4S』と共同開発されている。
装備重量(燃料・潤滑油・バッテリー液・冷却水を含む)154kgでしかない車体に、パワフルな水冷DOHC4バルブ単気筒エンジンを積む。「DR-Z4S」はさらに3kg軽い。
ボア・ストロークを90.0×62.6mmとし、398ccの排気量とするエンジンは、オイル供給をドライサンプ式にするなど従来のパワーユニットをベースとしているものの、シリンダーヘッドやカムシャフトなどほぼすべての構成パーツを刷新している。
スズキ DR-Z4SMトランスミッションは6速化されていないが、これはエンジンの幅やギヤの耐久性など総合的に判断し、5速の継続を決めた。実際に乗ってみるとワイドレンジで扱いやすく、不満は見当たらない。トップギヤでの高速巡航でもエンジン回転数は抑えられていると、開発陣は口を揃える。
◆どこからでもトルクフル!
先代と言っても、もう20年近くが経つのだから、何もかもが違うことは乗ればすぐにわかる。エンジンはキャブレター時代とは違う鋭いスロットルレスポンスで、どこからでもトルクが立ち上がる。スムーズなパワーデリバリーは、デュアルスパークプラグの影響も大きい。
ずぶ濡れのウェットコンディションだってヘッチャラだ。サスが柔らかく動くし、新型はレインモードだって搭載する。前傾姿勢でフロント荷重の強いスーパースポーツモデルなら、こうはいかない。
アシスト機能付きのスリッパークラッチが組み込まれ、滑りやすいウェット路面でも不安なくシフトダウンでき、コーナーへのアプローチで特にありがたみを感じる。
スズキ DR-Z4SMスズキドライブモードセレクター(SDMS)は出力特性の異なる3つのモードを選択可能。スロットルを開けたときの応答性が最も鋭いのがAモードで、Cモードは開けはじめが穏やか。雨天など、路面コンディションが悪い時に活躍してくれる。
それはスズキトラクションコントロールシステム(STCS)にも言える。リヤタイヤのスピンを検出した際、速やかにエンジン出力を制御し、グリップを回復してくれるが、介入度を1・2・G(グラベル)から選べ、OFFにもできる。
G(グラベル)モードにすれば、リヤの滑り出しを許容し、その名の通り砂利道など未舗装路でアグレッシブな走りが楽しめる。開発を同時に進めた兄弟車「DR-Z4S」のためのものかと思いきや、SMでも設定できるようにしてきた。
◆双子ながら細部を専用設計とする徹底ぶり
スズキ DR-Z4SMタンクレール部をツインスパー形状にしたスチールパイプ製のセミダブルクレードルフレームは、剛性・強度・しなやかさを高い次元でバランスさせた完全新作。スイングアームはアルミ製で、軽量かつ高い剛性を実現している。
前後サスペンションはKYB製フルアジャスタブル式で、ストローク量とブレーキディスク径は下記の通り。
■フロントフォークストローク量
DR-Z4SM:260mm
DR-Z4S:280mm
リヤショックストローク量
DR-Z4SM:277mm
DR-Z4S:296mm
フロントブレーキディスク径
DR-Z4SM:310mm
DR-Z4S:240mm
リヤブレーキディスク径
DR-Z4SM:240mm
DR-Z4S:240mm
スズキ DR-Z4SM足回りを「DR-Z4S」と比較すると、気付かされることがあった。フロントフォークのアウターチューブはフィニッシュ処理のカラーが異なるだけかと思いきや、剛性をそれぞれで最適化している。SMは太く頼もしく、オフロードを見込んだSでは、若干ながら細く削っているのだ。
また、アクスルシャフトを咥え込んで固定するボトム部の形状を専用にし、トレール量も違う。コーナーアプローチですっと車体が寝ていく、ニュートラルなハンドリングを獲得した。
◆体重移動しやすいシート形状とオールマイティな扱いやすさ
スズキ DR-Z4SMの足付き
スズキ DR-Z4SMの足付き身長175cm/体重67kgの筆者がまたがると、足つき性は写真の通り。アルミ製のテーパーハンドルバーを握ると、容量8.7リットルのフューエルタンクが自然に股の間に収まっている。
シート座面はフラットで前後移動がしやすい。サスストロークが異なるのに、シート高は890mmで同じなのはどうしてだろう!? 最低地上高はSMが260mmで、Sは300mm。車高が上がるDR-Z4Sでは、クッション厚の薄いローシートを標準装備しているのだ。
スズキ DR-Z4SM扱いやすさも際立つ。スロットルは電子化されたライドバイワイヤを採用しているが、右手の操作により緻密に応えるため、アクセルワイヤーを介している。雨で濡れて滑りやすい路面。繊細なスロットル操作が必要とされる場面だが、ギクシャクせずに駆動力が引き出せた。
明けはじめを穏やかな特性にするSDMSのCモードも使いやすいが、強烈に加速するAモードでも雨の中を走れてしまうのは、意のままに操れるコントロール性によるところも大きい。
かつてのDR-Zが持っていた、反則級とも言える戦闘力の高さに磨きをかけつつ、卓越した操作性を持ち合わせた新型DR-Z4SM。エキスパートを満足させ、ビギナーにもやさしいオールマイティなモデルに仕上がっている。
スズキ DR-Z4SM青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。




