アウディ『Q5』。現行モデルは3代目で、初代、2代目ともにライフスパンは9年間であった。
実はアウディ、過去に「2033年までに最後のエンジン搭載車の生産を終了する」と公言していた。もし、Q5が従来通り9年のライフスパンを持つとすれば、その途中で生産が打ち切りになることを示唆しているのだが、どうもその電動化へのロードマップは少し先延ばしされたようである。
それにしても、個人的にアウディの試乗を少しさぼり過ぎた。Q5は先代が日本にローンチされた時に試乗をしているのだが、それは2017年のことで、この2代目は2021年にマイナーチェンジを受け、その時に12VのMHEVに全モデルが変更されている。自動車というのは日々進化し、とりわけアナウンスが無くても大きく乗り味が変わるなど、はしばしば起こり得る。だから、8年も乗っていなければ、大変わりして当然。今回は新たにMHEVは48Vに進化した。
MHEVの多くは、いわゆるISGと呼ばれるジェネレーターとしての役割が主で、エンジンをアシストする機能は基本的に持たないものが多いが、新しいQ5 TDIには、MHEVプラスという機能が付き、ISGとは異なるPTG(パワートレーンジェネレーター)という呼称になった。単なるスターターモーターの役割から、加速をアシストする性能向上にも寄与するものとなったのである。
◆発進時から味わえるPTGの威力
アウディ Q5 TDI クワトロ
コンパクトなPTGは出力18kwの駆動パワーを持ち、トランスミッションの出力軸後端に取り付けられる。ここにもギア比3.6のトランスミッションが取り付けられ、スピード域にして、おおよそ140km/h付近までサポートできる。
バッテリーは僅か1.7kwhのサイズしか持たないが、これでもEV走行を可能にしている。そしてそのバッテリーは、ついにLFP(リン酸鉄リチウムイオン)を採用した。アウディにとってはこれが初めて。一般的に三元系に比べてエネルギー密度は低いものの、コストは大幅に安いということが、使用した理由だろう。いずれにしても、僅かなバッテリーでパフォーマンスアシストと、燃費向上ができるのだから実に有難いシステムである。
アウディ Q5 TDI クワトロもっとも、システム的にはもっと複雑で、しかもフルハイブリッドを標榜するルノーのE-Techは、バッテリー容量1.2kwであるから、単にバッテリー容量だけで、それをMHEVかフルハイブリッドかを分けることはできないというわけである。
PTGの威力は、比較的簡単に感じることができる。それが発進時の加速感だ。基本電気でするりと加速をはじめて、すぐにエンジンがかかってそこからの主役はエンジンとなるわけだが、まあアクセルペダルの踏み方にもよるが、ちょっと奥まで踏み込んだ時の加速感は、かなりのもの。しかも、アクセルペダルをやんわりと踏めばかなりの区間、EV走行をすることができる。そんなわけで、早朝に住宅街を抜けるまでの間はEVだけで走ることが可能である。
◆エンジン専用の新プラットフォームが意味するもの
アウディ Q5 TDI クワトロEA288evoのディーゼルユニットは、基本的に大きな変化なし。オリジナルのEA288から、evoと小さく文字が加えられたときに、劇的に静かでスムーズになったこのエンジンは、今もって少なくとも静粛性に関して言えば一級品である。組み合わされるトランスミッションは7速のDCT。アウディはSトロニックと呼ぶものだが、近年ドイツでは小型のモデルに、このDCTを採用するケースが増えているのだが、ステップATの出来が良くなっているだけに、渋滞時の停車からごく低速で動く日本的道路環境では、やはりDCTよりもステップATの方が快適である。もっともネガな要素が出るのはその部分だけ。普通に走っている限りそれがDCTだと気づく人はいないと思う。
プラットフォームは先代のMLBevoからPPCへと変わった。PPCはプレミアム・プラットフォーム・コンバスチョン、即ち内燃エンジン用プレミアムプラットフォームを言うわけで、電気専用のPPEとは明確に分けている。ここから見ても、当分は内燃エンジンを搭載したアウディが投入されるとみて間違いないだろう。
その乗り心地はMLBevoの時代から大きくは変わっていない。十分に快適で段差などでのボディの往(い)なしもうまい。今回はおよそ300kmほど走ったが、総燃費は15.9km/リットルであった。まあ、2トンを超える車重のクルマとしては立派なものだが、MHEVのディーゼルであることを考えると、もう少し行ってくれても良かったかな?というのが本音である。
アウディ Q5 TDI クワトロ■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




