海援隊の歌「思えば遠くに来たもんだ」ではないけれど、思えば軽は高くなった…である。新しい『デリカミニ』の価格は、一番高いものだと290万7300円。乗り出しは300万円を超える。
47万円だったスズキ『アルト』は、もう遠い昔のことになる。それはともかくとして、今や確実に軽自動車は日本人というか、庶民の足として定着し、今や自動車市場の4割を軽自動車が占めるのだから、この市場に黒船(海外メーカー)が目を付けるのもまあ、ある意味当然のことかもしれない。
というわけで、風雲急を告げている軽自動車市場に新たに投入されたのが、新しいデリカミニである。フルチェンジと称しているが、実はプラットフォーム自体は先代からのキャリーオーバーで、マルっと新しいというわけではないのだが、内外装と足回りに手を入れ、ボディ自体にもだいぶ手が入っているので、メーカー的にはフルチェンジなのだ。
◆「デリカ」ブランドは完全に定着した
三菱 デリカミニ 新型
そのボディ、外観はそれほど大きくは変わっていない。前後の意匠とサイドウィンドーグラフィックは明確に識別できるポイントだが、すれ違いざまだとほぼ気付かない程度の変化である。
逆にインテリアは大きく変わった。特に12.3インチと巨大化したセンターディスプレイと、それに繋がる7インチのメーターディスプレイは、まさに時代を反映した最新のデザインとなっていて、乗る人にとってはそれだけで新鮮さを感じさせるだろう。また、新規に採用されたドライブモード(『アウトランダー』などと同じだそうだ)は、軽初の装備。ヒルディセントコントロールは軽スーパーハイト系では、これも初採用だそうである。足回りでは新たにカヤバ製のProsmooth(プロスムース)というダンパーが使われた。これも初採用。
三菱 デリカミニ 新型等々、あれこれ色々と付いた結果の価格なのだが、一番高価な通称「デリマルパッケージ」というグレードが、驚くことに全体の67%を占めているという。さらに2WD/4WD比率は24/53%と、こちらも4WDが半数以上。要するにアウトドア志向のデリカというブランドイメージが完全に定着し、軽といえども硬派な走りやタフさを求めるユーザーが、このデリカミニを求めていることがわかる。
10月の時点で月間目標販売台数4000台に対し、1万台を超える受注が入っているというから、メーカー的にはしてやったり。確かなデリカミニ人気がある。これもデリマルのおかげか?
◆カヤバ製ダンパーの効果はてきめん
三菱 デリカミニ 新型試乗車は4WDのデリマルパッケージ一択であった。何でも前方視界を改善するためにAピラーを前方に100mm移動させ、さらにピラー自体も細くしたのだそうだが、乗り込んだ瞬間に広がる景色は、確かに大きくなっていて、先端のピラーが細くなった印象を受け、実際に走り出してもワイドな感覚で前を見ることができる。旧型と比較したわけではないから、抽象的な表現になるが、前が見やすい、ということは確かだった。
次にそれなりの値段はするであろう、カヤバ製のProsmoothというダンパー。採用の意図は「上質な乗り心地を実現するため」、とあったが、これは意図通りで、この効果は結構大きいのではないかという印象を受けた。一般ドライバーがこのクルマを普通に走らせたような状況で走ってみると、乗り心地はフラット感があって上質。路面の往なし感も中々いい感じである。
三菱 デリカミニ 新型こうした状況で走っている限り、室内は実に静粛性が高く、良いと感じるのだが、少し右足に力を込めて踏み込んでいくと、前方のファイアウォールを通して侵入するエンジン音が、予想外に気になる。この点について試乗後にメーカーのエンジニアと話をしたところ、なんとフロントウィンドーに遮音効果のあるラミネートを貼り込んだウィンドーを採用しているそうで、その理由は室内での前後シートでの会話をしやすくするためだそうだ。おかげで上方が静かになった分、足元から侵入する音(つまりは透過音)が、却って拡大した印象になっていて、そのエンジニアもこの点は把握していると話していた。もしそうした対策をするなら、フロントウィンドーではなく、サイドウィンドーにした方が効果は高いのではないか?と個人的には思ったものである。
最新のドライブモードはダイヤルスイッチがインパネセンターに装備されて、パワー、エコ、ノーマル、グラベル、スノーというモードがチョイスできる。通常はノーマルもしくはエコ。今回はグラベルやスノーを試す機会はなかった。
三菱 デリカミニ 新型パワーモードは通常だと、アクセル踏力一定でノーマルからパワーに入れた時など、モノにもよるのかもしれないが、入れた瞬間に加速する傾向があるのだが、三菱のそれは変化がなく、確かにパワーにすればノーマルよりも多少加速感が強くなった印象は受けるものの、その恩恵は必ずしも大きくはない。
まあ短時間での試乗だから、もっと別な使い道があるのかもしれないが、それはいずれ長めにお借りして確かめてみたい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




