◆モトクロスの難セクションにも挑める
「オフロードを走れないとオンオフモデルの意味はない!」「ヤマハ発動機の開発陣、生半可なことはしません!!」
デュアルパーパスモデルのユーザーとして30年間以上、ヤマハの新型『WR125R』プロジェクトリーダー片野 航さん(ヤマハ発動機 モーターサイクル車両開発本部 MC車両開発統括部 SV開発部)はそう言い切った。
ヤマハ WR125Rでモトクロスコースを走る筆者
その力強い言葉通り、乗るとクラスを超えた高いオフロード性能を持つことがわかる。モトクロスコースに設けられるフープスは、小さなコブが直線上に連なる難関セクション。車体剛性と足まわりがしっかりしていなければ、太刀打ちできない。
「臆せず攻めていけました」と、筆者(青木タカオ)が走行後に報告すると、片野さんをはじめ開発チームの皆さんがいろいろと話を聞かせてくれる。
ヤマハ発動機販売の松岡大司代表取締役社長と筆者(青木タカオ)。さらに、ヤマハ発動機販売の松岡大司代表取締役社長まで、その輪に加わってくれたから嬉しいかぎり。「しばらくラインナップになかったオフロードモデルを発売できて嬉しい」と話す松岡社長は、愛車遍歴の中に『TTR250』や『DT230ランツァ』もある筋金入りのオフロードバイク好きだ。
我々ジャーナリストたちが走っているのを見て、ご自身もブーツに履きかえてコースインする準備を整えていた。
「ベテランライダーには正統派のオフロードバイクらしさを感じてほしいですし、ビギナーにはWR125Rをきっかけに、より本格的なYZシリーズやテネレ700にステップされていく人が増えれば嬉しいですね」と、目を細める。
◆親しみやすく、お手軽に
ヤマハ WR125Rヤマハは1960年代後半に『DT-1』を発売し、空前のオフロードブームを呼び込んだ。以来、ヤマハトレールの伝統は、時代とともに進化を重ねながら脈々と受け継がれてきたが、2020年のWR250Rを最後にそのの系譜は途絶えていた。
WRは過酷なエンデューロレースで勝つために生まれた競技用マシンを源流とするだけに、公道版のWR250Rには「オフロードでのYZF-R1」というコンセプトが与えられるほどで、その実力は誰もが認めるところ。
今回の『WR125R』は、その誇り高き名を冠しての登場となったからファンの期待は大きい。もちろん、ビギナーやリターンライダーにも人気のある原2クラス(排気量125cc以下)であるから、言うまでもなく250とは、ターゲット層がかなり変わってくる。
ヤマハ WR125R片野さんによれば、「WRの名に相応しいオフロードを楽しめる走破性」に加え、「親しみやすく」そして「お手軽」という3つの要素を重要視したという。「日常使いを切り捨てるわけにはいきません」と、通勤や買い物といった普段の街乗りでの機動力やフレンドリーさにも配慮されている。
足つき性に優れるようシート高を875mmに抑えつつ、車体をシェイプさせて座面は幅が広がらないように絞り込んだ。さらに純正オプションのローダウンシートとローダウンリンクを用意し、シート高を70mm低くして、805mmまで下げられるようにした。
◆クラスを超えた充実装備
ヤマハ WR125Rの多機能メーター。装備面も隙がない。片野さんはこう言う。
「オフロードモデルのメーターはなるべくコンパクトにしたいとしてきましたが、今回は情報量が豊富で、燃料計やギヤポジションインジケーターも搭載するほか、Y-Connect連携により、スマートフォンの情報を表示することもできます」
シンプルだが、使いやすい。さらにヘルメットホルダーやツールボックスも標準装備するなど、上級モデルのような充実ぶり。オーナーは嬉しいだろう。
従来までのオフロードモデルでは「少しくらいヘッドライト」を新型WR125Rでは明るく刷新。縦2眼のフロントマスクは斬新だ。「各国の最新のレギュレーションに対応するための優れた配光性能」だと、片野さんは教えてくれた。聞けば、欧州の基準が厳格化されているとのことで、ライトユニットを追加装備する必要があったとのことだ。
デザイナーの北山亮平さん(プロダクトデザイン部EV&SPVG)は「デザインをする上で一番苦労した点です」と、振り返る。ポジションランプと一体化させるなど様々な取り組みを試みた結果、このデザインが生み出された。
オフロードバイクらしいコンパクトでタイトな顔にするため、メインのヘッドライトモジュールを脇役にして、できるだけ低く、車体に寄せて前方への張り出しを最小限に抑えている。
WR125Rのデザインでは「最も苦労したところだった」と、北山亮平氏(プロダクトデザイン部EV&SPVG)は語る。◆本物の性能を追い求めた
メディア向け試乗会では、オフロードコースだけでなく一般公道でもライドフィールを確かめることができ、「交通の流れに余裕でついていける」「低速でエンストしにくい」「車速をコントロールしやすい」といった点が、ワインディングや舗装林道などでよくわかった。
「日常使いにおける125ccの出力とフルサイズの車体とのバランスを考慮し、扱いやすさにこだわった」という片野さんの言葉にも納得がいく。
ヤマハ WR125Rそしてその一方で「それだけではない」と片野さんは強調し、さらに続けた。
「フレンドリーなところばかりを言ってしまうと、エントリー層やリターンライダー向けに性能を落として、乗りやすくすればいいのではと考えられてしまう」
「ヤマハ発動機の開発陣は、そんな生半可なことはしません!!」
「そもそも初心者がオフロードを走るには、マシンの性能がしっかりと高い次元にあり、“助けてくれる本物の性能”が必要なのです」
ヤマハ WR125Rの心臓部となる水冷DOHC4バルブ単気筒エンジン。可変バルブ機構(VVA)を搭載した水冷SOHC4バルブ単気筒は、YZF-R125やXSR125より最大トルク発生回転数を下げて(8000→6500rpm)、低中速を重視しつつ高回転まで伸びる特性を獲得している。
極低速まで回転が落ち込んでも半クラの必要がなく、歩くような速度でもトコトコ走れる粘り強さと、幅広いトルクバンドが大きな持ち味となっている。
これは片野さんら開発チームの狙い通りで、低回転で高い駆動力を発揮できるよう2次減速比の選定を含めて、耐エンスト性を追求したセッティングが施されている。
また、操作フィーリングを考え、アシスト&スリッパークラッチではなくコンベンショナルなクラッチが採用されていることも見逃せない。
ヤマハ WR125Rに乗る筆者。◆発売発表後、早く大反響!!
車体カラーは2つ用意され、ヤマハオフロードのレーシングイメージを連想するブルーを基調にしながらもコンペティションテイストを控えめにし、エントリーモデルとしての立ち位置を強調した「ディープパープリッシュブルーソリッドE」。
オフロードらしいタフなイメージでありながら、タウンユースにも自然と馴染むシンプルでカジュアルな「ヤマハブラック」は、グラフィックもシリアス過ぎないトーンのカラーを組み合わせている。
価格はどちらも53万9000円。年間計画販売台数は1300台で、発売を発表した直後の情報で、すでに1000台もの受注が入っているというから欲しい人は迷っている時間はない。
舗装林道など一般公道でも試乗することができたヤマハ WR125R。



