世界最大級のハイテク技術見本市「CES 2026」が、今年も1月6日~9日、米国ラスベガスで開催された。その中で4年連続で出展しているのが素材メーカーのAGCだ。ブランドステートメント“Your Dreams Our Challenge”の下、AGCが掲げる4つのカテゴリーを取材した。
AGCがCES 2026で披露した技術として掲げたのが「モビリティ」「光学関連技術」「半導体」「エネルギー」の4つの領域。これは世界的にも産業構造転換であるEV化・AI/半導体需要増・XR拡大・脱炭素への流れがある中で、AGCが“未来のキーとなる会社”として認識されることを狙ったものだ。ここからはその4つの領域をカテゴリー別に紹介してきたい。
◆HUDの概念を覆す鮮明さの「HUD用リフレクティブガラス」
まずは「モビリティ」の分野だ。AGCがモビリティをOEMに提案する中でポイントとしているのは、単品として商品を紹介するのではなく、ソリューションとしての提案にあるのだという。それが実現できている背景にはAGCの幅広いパートナー企業とのつながりがあることが大きい。つまり、それが力となってAGCならではの強みとなって現れているというわけだ。
また、モビリティの将来を考えれば、重要となるのはやはり安全安心であり、加えて快適な空間の実現も大きなポイントになる。特に自動運転を中心とした進化の中では、車内のリビングスペース化というものが進んで行くことが想定される。OEMの顧客からもそういった部分での関心が高かったようだ。
そうした中で生み出された一例が、コックピットデザインの多様化に適用する新たなHUD(ヘッドアップディスプレイ)ソリューション「FeelinGlass Reflective Blade for HUD」(HUD用リフレクティブガラス)である。
夢を叶えるメーカーを支えるAGCの挑戦、「CES 2026」で見せた最新技術&ソリューション
最大の特徴は、フロントガラスから独立した別体コンバイナー方式を採用したことにより、フロントガラス角度が大きく寝ている車両や、逆に立っている車両であっても一定の表示角度や視認性が確保できる点にある。黒セラ(黒印刷領域)との整合性も取り、薄型ブレード状とすることで視界や意匠への影響を最小限にしたのもポイントだ。
コンバイナーとはいえ、素材にガラスを使っているため、反射率の面で優位性が高く、また高い剛性により面の歪みも少ないため輝度を上げなくても鮮明な表示を可能としている。この鮮明さはこれまでのHUDの概念を覆すほどで、これは視認性が高まるという意味で安全性にも寄与することにつながる。また、P偏光反射コーティングにより、偏光サングラス利用時でも視認できる点も見逃せない。
こうした機能が評価され、HUD用リフレクティブガラスは「CES Innovation Awards 2026」の受賞も果たした。同アワードは、出展製品の中から各カテゴリーで特に高い評価が得られた製品に授与されるもの。今年は452の製品が受賞し、そのうち日本企業によるものは7製品(7社)だったと伝えられている。数少ない日本企業の中での受賞は、昨年のM100シリーズとM200シリーズの受賞に続く、輝かしい栄誉と言えるだろう。
夢を叶えるメーカーを支えるAGCの挑戦、「CES 2026」で見せた最新技術&ソリューションモビリティでもう一つ注目したのが、インテリアUXへの取り組みだ。ひとつが「シームレスディスプレイ」で、消灯時はディスプレイとフレームの継ぎ目をほとんど見えなくすることで画面オフ時のディスプレイの存在感を低減。既存のAGアンチグレア技術との併用で視認性とデザイン性の両立も図っている。
その他、シートバックに備えたディスプレイを周辺内装と一体化する「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」も紹介された。これはディスプレイOFF時に、その表面が周囲と同化することで周辺内装との一体化を演出するもの。今回の出展では“Ver.2”としてディスプレイ表示部のデザイン柄かぶりとギラツキの最小化を追求した仕上りとなっている。
シートバックに備えたディスプレイを周辺内装と一体化する「車載ディスプレイ用加飾カバーガラス」◆AR/MRグラス向け「ガラス基板」の進化を体感
次に紹介するのは「光学関連技術(オプトエレクトロニクス)」の分野だ。AGCはAR/MRグラス向けのガラス基板の開発に成功し、最近は需要が旺盛で引き合いが増加している。ここでの説明は、電子カンパニー 電子部材事業本部 開発室 光部品探索部の中山元志氏が担当した。
そのレンズに使われる基板の特徴は屈折率が高く、内部透過率にも優れているということ。しかも高い平坦性と表面平滑性も備える。さらに厚さはわずか1mm以下を実現している。もちろん、ガラスならではの熱に対する化学的安定性でも優位性がある。今回の展示では、スマートグラスを使ってそのメリットがわかりやすく紹介されていた。
AR/MRグラスこのスマートグラスは一般的な眼鏡にプロジェクターを加えた形状をしていたが、重量はかなり軽い印象を受けた。これを試着するとさっそく目の前に羽ばたく鳥の姿が浮かび上がった。しかもフルカラーだ。電子カンパニー 電子部材事業本部 開発室 光部品探索部の中山元志氏によると、「屈折率2.0の場合だと表示を視野角30度ぐらいまで実現できる」とし、「デモ機は片目仕様となっているが、もちろん両目にも対応できる。実際の製品ではレンズ部やプロジェクターの重量、消費電力等を加味して仕様が決められることになるだろう」と話す。
個人的に思うのは街歩きなどでナビゲーションを使うとき、眼鏡でその案内が伝えられればより快適に目的地に到着できるということ。その便利さはぜひとも享受してみたいと思っていた。それを伝えると中山氏は、「より快適な製品につながるような高性能の基板の開発を目指していきたい」と今後の開発への意気込みを語ってくれた。
◆“裏方の巨人”が支える半導体インフラ
AGC 事業開拓部 企画グループ 戦略推進T マネージャー 江口諒氏“半導体の裏方の巨人”として、AGCは長年にわたって半導体インフラを支え続けてきた。その半導体を取り巻く環境について、事業開拓部 企画グループ 戦略推進チームの江口 諒氏は、「これまで半導体はチップの配線密度を上げて効率化する方向(微細化)に向かっていたが、AIブームがドライバーになって、より高性能・低消費電力の半導体が求められるようになった結果、チップ微細化技術での対応の限界(高コスト化)が近づいてきている」と説明する。
こうした変化が、「最先端半導体パッケージへの技術シフトを加速させている」(江口氏)わけだが、そこにAGCがどんな材料やソリューションを提案できるかを示すために準備されたのが今回の展示物というわけである。先端半導体パッケージの中でAGCの素材群がどのように使われているかが断面図を使ってわかりやすく説明されていた。
そうした中で要となる技術が「ガラスコア基板」である。薄板ガラス基板に多数の微細孔を形成したもので、最先端半導体パッケージ向けの3D実装、チップレット、CPO基板、RFデバイス等、幅広い分野で使用できる可能性がある。微細孔にメッキ処理して電気配線を形成することでパッケージ基板として使用可能なガラスコア基板となる。
Glass Substrate with TGV江口氏は「これまで半導体パッケージ基板には樹脂が使われていることが多かったが、今後XPUやGPUといった分野でメモリの集積化が進んでいくと、樹脂では剛性が高くないため“たわみ”が発生し、配線切れの要因になる」と話す。この課題に対して剛性の高いガラスに置き換えていく余地が生まれていくというわけだ。
「半導体」でもう一つ興味深い展示だったのが「光導波路」である。これはチップ直前まで光信号を搬送し、電気配線を使用する距離を最短化することで消費電力を低減するというものだ。
光導波路の構造や形状などの最適化で集積度を高め、AGCが得意とするフッ素樹脂や特殊ガラスなどの無機・有機の幅広い素材力を駆使することで次世代の高速通信を支える。AGCとしては、ガラス方式/ポリマー方式両にらみで素材・プロセスを並行開発し、提案の幅を確保しているのが大きなポイントともなっている。特に「光配線のコンパクト化」が必要な場面では、世界的に高い評価を得ているという。
◆2050年「カーボン・ネットゼロ」に向けた最新技術
エネルギー関連展示気候変動に伴う自然災害が増える中、気候変動問題への対応は企業にとっても取り組むべき課題となっている。それはAGCグループも例外ではなく、2050年の「カーボン・ネットゼロ」を宣言したところである。
「エネルギー」の分野では、水素エネルギーをつくる・つかうの両方に欠かせないイオン交換膜「FORBLUE」をはじめ、車載用全固体電池に使われる硫化物固体電解質の量産に向けた新たな生産技術を紹介。さらに高機能モーターに欠かせない「SiAlONセラミックボール」の技術展示を行った。
まず紹介されたのが、フッ素化イオン交換膜「FORBLUE Sシリーズ」だ。
再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して製造するグリーン水素は、新たなクリーンエネルギーとして注目されているところだ。その中でFORBLUE SシリーズはPEM水電解を含む様々な電解反応に適した膜であり、太陽光など電圧が不安定な再生可能エネルギー由来のグリーン水素の生成に不可欠なものとなっている。
世界的に急拡大するグリーン水素需要に対応するため、AGCは耐久性と効率性向上にメリットがあるこの交換膜の量産に着手。会場にはその風力発電でできた再生可能エネルギーを水の電気分解に活用する流れを、模型を使って実演していた。
AGC 事業開拓部事業探索グループ シニアマネージャー 盤指豪氏一方、フッ素化樹脂は太陽光モジュールの裏側、いわゆるバックシートにも使われている。事業開拓部 事業探索グループの盤指(ばんざし)豪氏によれば、「今ではダブルガラスみたいなものはほぼ使われなくなっている。AGCが今後目指すのは、表面もフィルムが用いられる軽くて曲げられる次世代の太陽光モジュール“ペロブスカイト”にも使われること」と説明した。
高機能モーターに欠かせない「SiAlONセラミックボール」は、鉄球に比べ軽量で摩擦損失を低減できるのがメリットだ。しかも従来の窒化珪素セラミックス材料に対して加工容易性が高く、研磨時間短縮が期待できる特徴を持つ。盤指氏によれば、「この高い加工性は既存精密球製造のフローで高精度に対応できるのもポイントになる」という。
ただ、セラミックとなるとすぐに「軽量化には有利でも壊れやすいのでは?」との印象を抱くが、盤指氏は「セラミックとはいえ、今はファインセラミックへと進化しており、脆いとか壊れるといった心配はない」という。むしろ「SiAlONセラミックボールは、高耐久性を維持したまま、加工性が高く研磨する時間を削減することができるメリットがあり、今後はさらなる需要の高まりが期待できる」とした。
そして、最後に紹介されたのが全個体電池の電解質だ。現段階では開発フェーズではあるとしたが、盤指氏は「従来の液体を使う電池はコスパの良さで優位性は揺るぎないけれども、(全個体電池は)不燃性や高エネルギー密度といった性能面で優位性を持っているので、限定された用途では思っているよりも早く出てくるのではないかと見ている」と話す。それだけに「AGCとしても、今後特に力を入れていく領域になっていく」(盤指氏)との見通しを示した。
◆“Your Dreams Our Challenge”に込めた想い
AGC執行役員 広報・IR部長の玉城和美氏ブランドステートメントである“Your Dreams Our Challenge”をブースに掲げた意味について、AGC 執行役員 広報・IR部長の玉城和美氏は、「私たち素材メーカーの製品は最終製品からはほぼ見えないか、気付いてもらえません。ですが最終メーカーさんが世の中の夢を叶えるために製品づくりをしており、私たちはその実現のための製品開発に日々チャレンジしていく!という意味が込められています」と語る。
確かにAGCが主力としているガラスは、外気や騒音をしっかり遮断してくれているのに我々がその存在を日常で意識することはほとんどない。スマホだって毎日使っているけれども、そこにはガラスが介在しているし、クルマに乗って快適なドライブが楽しめるのもガラスがその役割を果たしてくれているからだ。
これは昨年から掲げているコピーライティング“Behind Every Breakthrough.”からも同じ意味を汲み取れる。素材メーカーは表だって目立たないBehind=陰で活躍する黒子のような存在であるけれども、そこから生み出された技術が夢を叶えるためのブレイクスルーにつながっているとも言える。
まさに黒子的な素材メーカーの技術があるからこそ、我々は日常生活で便利さを享受できているといっても過言ではないのだ。
今回のCES 2026ではAIの普及と実用化が特に目立った展示だったように思う。AIはほぼすべての製品カテゴリーに組み込まれるようになり、バックグラウンドでの受動的なエージェントから物理的な作業を支援するツールとしての進化が見られる。AGCの展示からは、そうした時代の変化にもいち早く対応するフレキシブルさを感じ取ることができた。
2023年からグループとして連続4回目の出展を果たしたAGC。来年のCES 2027でどんなチャレンジを見せてくれるのだろうか。早くも1年後が楽しみである。
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