偽情報を流すのは心苦しいし、あくまでも一応噂の域を出ない情報として聞いてほしいことがある。それは、これまでガラパゴスといわれてきた日本の軽自動車が、ことによるとグローバルスタンダードになるかも知れない…ということだ。
ことの発端は、昨年のジャパンモビリティーショー。中国のBYDが、『ラッコ』なるBEVの軽自動車を出展したことに始まる。クルマ1台開発するのには、相当な金がかかることはご存じの通り。ましてやそれが単一国でしか作られない、レギュレーションのがんじがらめのクルマで、世界的には全く市場がないクルマで、果たして採算が取れるの?という話。
BYD側の説明では、ボディ剛性は日本の軽よりもはるかに強いですよ…とのこと。何故?これ素朴な疑問だった。日本だけに売るなら、そこまで剛性を気にしなくても、ライバルと同等でよいのでは?と思えたからだ。しかし、BYDのとある人によれば、ほかの市場も考慮に入っているようだ…のニュアンス。
BYD ラッコ(参考画像)
モビリティショーがはじまる少し前、欧州委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエンは、欧州自動車産業の保護策として「Eカー」構想へ取り組む方針を示した。これに呼応するように、ステランティスのジョン・エルカン会長は、「日本の軽自動車を参考に…」という発言をしている。BYDはもしかすると、機を見るに敏だったのかもしれない。
おそらく全く同じというわけはないと思うが、ヨーロッパのE-Carは軽自動車並みのサイズになる。そのためには現在のヨーロッパにおける安全基準のハードルを下げる必要があって、日本の業界もヨーロッパに軽自動車を輸出するチャンスが生まれるかもしれない。
そんな理由もあってか、このところの軽自動車の出来はこれまでにないほど進化の度合いが進んでいる気がしてならないのである。
◆今どきの軽ってこんなにいいの?
日産 ルークス ハイウェイスター日産『ルークス』が登場したタイミングは、まさにそんな噂がまことしやかになった時であった。ご存じの通り、先代から車両開発を日産が行い、三菱の水島製作所で生産されるルークスは、フルチェンジとはいえ、エンジンなどは旧型を引き継いでいるので、純粋なフルチェンジとは言い難いのだが、実際に乗ってみると、今どきの軽ってこんなにいいの?と改めて思わざるを得ない。
それもこれも、もしかするとマーケットが広がる可能性を考慮したうえでの、本気の開発が進んでいるとも感じる。間違っても以前が本気じゃなかったというわけではなく、覚悟の度合いが変わったのでは?と思わせる節があるということだ。
つい先日、同じルークスのオーテックラインに試乗した。ハイウェイスターは実はオーテックライン同様ターボエンジン装備車で、本来だったらノンターボ車に乗ってみたかったという欲望もあったが、それが叶わず、同じエンジン搭載車であるのだが、改めて乗ってやはり大したもんだと思わざるを得なかった。
◆乗り心地の快適さとスムーズな走りに驚く
日産 ルークス ハイウェイスターまず、何よりもびっくりするのが、その乗り心地の快適さとスムーズな走りの印象である。日産では特に名前を付けていないようだが、三菱『デリカミニ』と同じカヤバ製のダンパー(三菱はプロスムーズと呼ぶ)の採用が、このフラットライド感を演出していると感じる。
従来の軽といえば、どうしてもサスペンションストロークの短さや、タイヤの大きさなど不利な要素が大きいので、勢い、段差の大きなところを乗り越えるような状況では、大きな突き上げ感を食らったものだが、このサスペンションはそれがない。荒れていない一般道を走ると、まさに滑るような走行感覚を得られる。これは今までの軽になかったことだと思う。
日産 ルークス ハイウェイスターアクセルに対するCVTの追従性もとても良い。例えば50km/hほどで定常走行をしている時に、アクセル踏み増して加速を得たいような場合、そのアクセルの踏み方によってはエンジンがうなりを上げるケースが多かったと思うし、加速の始まりに明確なタイムラグがあったのだが、ルークスにはそれがない。
意図してアクセルのオン/オフを繰り返してみても、車速の変化は見事にアクセルの踏み方にリンクする。だから、どのような走りの場面でもドライバーの意図通りの走行を可能にしてくれる。これがルークスの大きな特徴だと思う。
◆本格的戦国時代に突入か
日産 ルークス ハイウェイスターただ、難を言えば燃費が想像したよりも低かったことだ。軽自動車の使われ方は一般的には短距離を何度もというケースが多いと思うので、試乗はできるだけ一般道で高速区間を少なく乗ってみたのだが、得られた燃費は15km/リットル台が精一杯であった。満タン状態での可能走行距離は267km。
コンピューターは前任者の走りを参考に数値を導くので、前任者はきっと飛ばしたのであろうという想像が成り立つが、返す時点で満タンにしてもやはり340km程度と大きくは変わらない。これだと航続距離がBEVと変わらなくなってしまうので(他メーカーだが)、ガソリン車の優位性があまりない。
日産 ルークス ハイウェイスターオーテックラインとの違いはホイールデザイン、フロントエンドデザイン、それにシートなどであるが、シートの質感はこちらも十分に良かった。ただし、黒は選べないとのことである。
ラッコの登場に前後して、日本の軽自動車市場はもしかすると、本格的戦国時代になるかもしれない。質の良い軽自動車がたくさん登場するのはユーザーにとっては大歓迎である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




