スバルと自動車向け半導体メーカーであるインフィニオン・テクノロージーズ(以下、インフィニオン)は3月26日、次世代スバル車向けの制御統合ECUに搭載するマイクロコントローラユニット(MCU)「AURIX TC4x」の設計に関する協業に関する説明会を開催した。
◆半導体メーカーがなぜOEMとの付き合いを深めているのか
この説明会は、3月9日に発表されたスバルとインフィニオンが共同で発表した「次世代ADASを支える制御統合ECUとECU向けMCU供給」に関し、その背景と意義、ならびに両社の協業の進捗・方向性を改めてメディア向けに説明する場として設けられた。
説明会の冒頭、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン 代表取締役社長 兼 オートモーティブ事業本部 事業本部長の神戸肇氏は、「半導体メーカーがなぜOEMとのお付き合いを深めているか」について説明。その理由として「技術の変化」「競争環境の変化」「サプライチェーンの変化」の3つを挙げた。
まず「技術の変化」の背景にあるとしたのが、各OEMが電動化をはじめSDVや自動運転/運転支援といった分野において差別化を狙っていることで、その手段として半導体への関心度はこれまで以上に高まっているという。こうした「競争環境の変化」を踏まえ、欠かせなくなっているのは、半導体の安定供給や事業継続に対する事前情報をいち早く提供すること。神戸氏は地政学的なリスクも踏まえると、「サプライチェーンの変化」にどう対応するかも重要となっていると説明した。
◆目指すはメカの限界をデジタルで広げる独自の『SUBARU デジタルカー』

続いて登壇したのはスバル執行役員CDCO(最高デジタルカー責任者)技術本部副本部長で、SUBARU Lab所長を務める柴田英司氏。柴田氏は「一般的なSDVが“ソフトとハードの分離”を掲げるのに対し、スバルは“メカとソフトを融合”して内製ソフトウェアによるメカの限界をデジタルで広げる独自の『SUBARU デジタルカー』を目指す」考えを示した。
この考えに至った背景として柴田氏は、「スバルには70年にわたるクルマづくりと、アイサイトを踏まえたデジタル技術がある。これを融合させて今までにないクルマ本来の愉しさをもっと広げていくことがSDV時代のスバルがやれるお客様に対する安心と、次の時代の安心を届けられる最良の手段ではないかと考えた」と話す。
一方で柴田氏は、「SUBARU デジタルカーの実現には、インフォテイメントシステムやコネクテッド系など、サーバーシステム由来と言われる技術導入もきわめて重要。しかし、こういった技術はIT由来の領域で確立されており、進化も早いので、内製化するよりも専門部品メーカーの技術をいち早く導入していく方針だ」とも述べた。

これは、車両の機能性を高めるコア領域(メカ×デジタルの融合)は自社で内製を進め、進化の速いIT由来の領域(インフォテインメント等)は専門メーカーとタッグを組む2軸体制を採っていくスバルの基本姿勢を示す。つまり、スバルは、アイサイトとAIの融合、車両運動制御の統合を司る「制御統合ECU」を核とし、そこにインフィニオンの最新半導体を搭載していくとしているのだ。
ここでポイントになるのが車両制御情報の演算処理における超低遅延化と低消費電力化の両立だ。その実現のためにスバルはインフィニオンの車載MCU「AURIX TC4x」に着目。スバルとインフィニオンは長年にわたってパートナーシップの関係にあったが、今回の協業にあたっても開発初期段階からその設計レベルで参画し、スバル車に向けた仕様の最適化に取り組んできたというわけだ。
発表資料によれば、TC4xは「次世代アイサイト」と「AWD制御を含めた車両運動制御」を連携・連動する制御統合ECUに搭載され、これによってスバル車のADASおよび車両運動制御のさらなる進化を目指すとしている。これは、スバルが長きにわたって追求してきた“走る・曲がる・止まる”という、クルマの基本性能の引き上げにつながることを示すものでもある。これこそが“SUBARU デジタルカー”が目指す姿と言えるだろう。

◆ADASとSDVの進化に最適な4つの主要性能を備えるMCU「AURIX TC4x」
では、車載MCUの柱であるTC4xはどんなパフォーマンスを示すのか。続いて登壇したインフォニオン テクノロジーズAG エグゼクティブ バイス プレジデント(EVP)兼 オートモーティブ チーフ オフィサー(CSO)のピーター・シェイファー氏が解説した。
それによると、TC4xにはADASとSDVの進化に最適な4つの主要性能を備えているいう。

一つは高精度なリアルタイム処理と並列タスク実行を実現する高いパフォーマンスを発揮すること。二つ目は5ギガビットイーサネット対応するコネクティビティ能力を備えていることで、これによってゾーン/ドメインコントローラーに不可欠な柔軟なルーティング機能を備えられるという。三つ目となるのが高いサイバーセキュリティ能力だ。世界各国の基準に対応し、2030年代の実用化が予想される量子コンピュータからのハッキングを見据えた「耐量子計算機暗号(PQC)」にも対応して万一に備えている。四つ目が安全なエッジAIの搭載で、AIモデルを動かすアクセラレータを搭載し、モデルベース制御などを支援する。
また、この日の説明会でスバルは開発におけるTC4xのパフォーマンスを試す状況も公開した。まず示されたのがAIによる認識の進化で、ステレオカメラとAIを用いて市街地など複雑な環境での認識精度を向上させられたという。中でも注目だったのが圧雪路でのハンズオフ走行テストだ。柴田氏は「商品化を前提としない」としつつも、北海道のテストコース上で、最小限のセンサー構成(ステレオカメラ+地図)で驚くような可能性を見出すことができたとその処理能力の高さを評価した。
◆スバルとインフィニオンの協業はSDVへ向けた重要なステップ

一方で気になるのが、これまで続いてきたオンセミやAMDとの関係だ。柴田氏は半導体サプライヤーとの連携戦略について、「オンセミはイメージャー、その画像処理をするSoCがAMDで、この領域での協業はすでに発表済み。半導体は進化が早く、量産した瞬間から一刻も早く最新の半導体を使いたいと考えてしまほど。つまり、いいモノを早く取り入れて長く使うのが半導体を使いこなすもっとも効果的な手法と考えている」と回答。



