2026年1月に発売されたスズキの新型ロードスポーツ『GSX-8TT』に試乗。ハンドリングやエンジンのフィーリング、操作系のタッチにはクラシカルな落ち着きと手応えがあった。
◆クラッチレバーの手応えと、スポーツバイクとしての“筋”
スズキ GSX-8TT
シート高は810mmである。特に低い部類ではないが、内包される高密度ウレタンフォームはもっちりとした感触で適度に沈み、良好な座り心地と足つき性をアシスト。そこから手を伸ばし、広げたところにグリップがあり、ステップもまたちょうどよい、ヒザの曲がりに余裕がある位置に備わっている。
エンジンは、スターターボタンのワンプッシュでかかる……と書くと当たり前ではあるが、ここで言いたいのは、ボタンを押し続ける必要がないという意味だ。スズキ車の多くが採用する「スズキイージースタートシステム」が機能。ボタンをチョンと押せば、すぐに放して構わない。あとは始動するまで、自動的にスターターモーターが一定時間回ってくれる。
スズキ GSX-8TTギヤをニュートラルから1速へ送るためにクラッチレバーを握る……とその手応えに「おっ」となる。現代のモデルとしては、そこそこ重めだからだ。操作力の軽減とスリッパー機能を併せ持つ「スズキクラッチアシストシステム」を装備しているのだが、クラッチの切れとつながりのよさを損なわない、ぎりぎりの軽さにそれはあり、優しさよりもダイクレトなタッチを優先。これはこれでスポーツバイクとしての筋が通っている。
だからと言って、そこからの発進に気難しさはない。ここで作動するのが「ローRPMアシスト」で、クラッチレバーのリリース具合やスロットル開度に応じて、エンジン回転数が微妙に上昇。不用意な操作でエンストするリスクを軽減してくれる。エンジンをかけて走り出す。文字で書くとただそれだけのプロセスながら、その時点で様々な制御や機構がライディングを下支えしてくれている。
◆意外な「男っぽさ」を垣間見せる
スズキ GSX-8TTワインディングを流しつつ、エンジンの冷却水とオイル、そしてタイヤを温める。それらにさして時間は掛からず、すぐにペースを上げることができるのだが、よりリズミカルに走らせるために標準装備されるクイックシフトシステムを使う……とここでもやはり「おっ」となる。シフトアップにもダウンにも対応するそれは、どちらの場合も足応えがやや硬めだからだ。「カツカツ」とか「スパスパ」というよりも、ギヤが切り替わった瞬間を「ガツン」と明確に伝えてくる。
もっとも、作動精度自体は確実で、使用想定を下回るような低回転でも、ギヤが入らないとか弾かれるような素振りはない。クラッチレバー同様、節々が男っぽいというか、いかにも頑強で骨太な感じなのだ。
スズキ GSX-8TTハンドリングもそれに見合っている。コーナーに入るやいなやキビキビとした運動性で……という展開にはならない。車体を直立からリーンさせる時も、一定のバンク角を保っている時も終始たおやかで、高いスタビリティを披露。ハンドリングを単純に軽い、重いで分別すると重い部類に属し、ただしそれは鈍重や緩慢のずっと手前にある「落ち着き」と評せるものだ。
なんというか、挙動に一貫性があり、そこに安心感を覚える。スロットルを開け閉めする際の力加減も然り、ブレーキレバーを握った時の制動力の立ち上がりも然り、どこか一部分だけが軽々しかったり、俊敏性が演出されたりせず、各部への操作荷重と、それに対するレスポンスが一致。その統一感が心地よさを生んでいる。
◆デザインとの一貫性も感じる、「洗練され過ぎていない」味わい
スズキ GSX-8TTそしてそれは、エンジンの出力特性にも当てはまる。270度の位相クランクを持つ直列2気筒エンジンは、高回転域の伸びやパワーよりも、低中回転域の開けやすさに振ったもので、エンジンモードにはA(アクティブ)/B(ベーシック)/C(コンフォート)の3パターンが用意されている。基準となるBの場合、スロットル開度に対してリニア過ぎず、ほんの少し開け足したくなる、もしくはそれができてしまうくらいのパワーフィールで回転が上昇。それによって、80ps/8500rpmの最高出力を完全にコントロール下に置けている感覚が強い。
もしもBで手強さを感じるならC、完璧なリニア感と少々の刺激を求めるならAを選択すれば万事解決できるに違いなく、それぞれで変化するキャラクターの差異と、アクティブ、ベーシック、コンフォートという語感と乖離のないセッティングが見事だ。
スズキ GSX-8TTGSX-8TTには、言うまでもなく最新の電子制御と機能が盛り込まれている。ただし、それらはおもてなしに特化することなく、寸止め。ライディングをさぼらせたり、勝手に先回りすることに重きを置いたものではなく、乗り手のきちんとした入力に応えるように躾られ、そのさじ加減が絶妙なのだ。
その意味で、デザインと走りとの間にも一貫性がある。見た目がトラディショナルなだけじゃなく、操作に対する挙動にも、洗練され過ぎていない、どこかクラシカルな味わいが残されているからだ。
速すぎないスピード域の中、バイクとじっくり対話しながら走らせる。そんな余地が残されているモデルだ。
スズキ GSX-8TT■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。




