ヤマハはなぜ今、“ブランド”を語るのか…新ブランド戦略トップが明かす「ヤマハ愛経営」とは

ヤマハ発動機 ブランド統括部の北條雅也統括部長と、ヤマハモーターサイクルの原点『YA-1』
ヤマハ発動機 ブランド統括部の北條雅也統括部長と、ヤマハモーターサイクルの原点『YA-1』全 11 枚

ヤマハ発動機は、2025年に設楽元文新社長が就任して以降、「モノを売るメーカー」から一歩踏み込み、“ブランドとしてどう共感されるか”を重視する姿勢を強めている。

【画像全11枚】

近年では二輪・マリン・ロボティクス・eバイク・ライフスタイル領域など、多岐にわたる事業を横断しながら、「感動創造企業」という企業理念を現代的に再定義する動きが見られる。また、国内外で展開される新型モデル群においても、単なるスペック競争ではなく、「世界観」や「体験価値」を重視した商品・コミュニケーション設計が目立ち始めている。

本記事では、2025年7月よりクリエイティブ本部 ブランドマーケティング部長に就任、2026年1月よりに新たに社長直下に新設されたブランド統括部の北條雅也統括部長へのインタビューを通じ、ヤマハがどのようなブランドづくりを目指しているのかにせまる。

◆国内外の販売現場で培った経験

ヤマハ発動機 ブランド統括部の北條雅也統括部長ヤマハ発動機 ブランド統括部の北條雅也統括部長

北條氏は2004年、販売会社であるヤマハ発動機販売に入社。名古屋を中心に北陸エリアの販売に携わったのち、ヤマハ発動機本社に転属。海外営業部門に配属され、ベトナム市場を担当した。「もともと国内営業がやりたかった。海外での勤務は考えていなかった」というが、国内勤務を経て、ベトナムに6年もの間駐在。そこでは学生時代のサッカー経験を活かしてヤマハのサッカー教室を立ち上げ、地元静岡のアスルクラロ沼津からコーチを招くなど積極的な活動をおこなった。

同時に、ベトナムでの二輪市場は右肩上がりで販売・利益ともに伸びていたが「組織としてちゃんとできていなかった」(北條氏)。市場動向を把握した上でさらなる販売拡大をおこなうため、自らマーケティング部門を立ち上げたという。この実績が評価され、成長市場として見込まれていたインドに赴任。2年目に、インド法人であるヤマハモーターインディアの社長として設楽氏が就任。この出会いが、現在ブランド戦略に携わるきっかけとなった。

その後、中国市場を管轄するグループリーダーに就任し、マーケティングだけでなく販売会社や工場の統合、現地企業とのパートナーシップや、撤退も含めた構造改革を推し進めた。そこで2025年、新たに社長に就任した設楽社長から「グローバルでブランド戦略をやりたい」と声がかかり、現職に至る。

国内外で幅広く販売の現場に携わってきた北條氏だが、ブランド戦略を専門としてきたわけではない。抜擢のきっかけはインドにあったという。

◆「社内ブランディング」がインド市場を後押しした

インドのヤマハディーラー「ブルースクエア」インドのヤマハディーラー「ブルースクエア」

人口14億人を超えるインドでは、二輪は生活を支える足として定着している。また人口の30%が26歳以下で、2030年には50%にも届くとされており、二輪の需要も右肩上がりが見込まれる市場だ。一方で、インド市場で半数を占めるのが「コミューター」と呼ばれる廉価で生活の足となる100~125ccクラスのスクーターだ。このクラスは現地メーカーの強さや中国メーカーの台頭もあり価格競争が激しく、ヤマハとしては苦戦を強いられていた。そこで2018年、設楽社長の主導の下、大きく舵を切ったのがより高付加価値な商品を軸としたプレミアム戦略だった。

「我々は安くて数多く売る、というものはあまり得意ではありません。であれば、プレミアム性でお客さまに喜んでいただけるものを売っていかなければいけない。そうやって180度考え方を変える必要がありました。そのためには、社員から変えていかなければいけないという視点から『社内ブランディング』をしました。それを社外にもつなげていく、という戦略です」(北條氏)

「社内ブランディング」とはどういうことか。まずは視覚的な統一感だ。インドではヤマハのブランドカラーが赤や黒、青など、バラバラだったものを青に統一した。もっともわかりやすいのがブランドロゴで、日本では馴染み深い赤のロゴではなく、青いヤマハレーシングのロゴを前面に押し出した。ディーラーの装飾も青で統一することで、MotoGPなどモータースポーツ人気も手伝い、ヤマハ=ブルーのイメージを内外に確立した。

インドのヤマハディーラー「ブルースクエア」インドのヤマハディーラー「ブルースクエア」

次に、スローガンだ。“Beyond the Limit(限界を超える)”を掲げ、さらにシンプル、スリム、スピーディーをキーワードに、社内に浸透させることをめざした。「色々な国でそうなのですが、『我々(の国)は他とは違う、だから(統一は)できない』と言われるんです。でも、それを超えていかないと次の世界に進むことはできない。それを理解してもらう、浸透させるということを地道に続けて行きました」と北條氏は明かす。

3つ目が、「社員の家族にもヤマハを理解してもらう」ということだった。ブランドカラーの青いシャツを配布し、社員とその家族をヤマハの工場に招待するなどで家族ぐるみでロイヤリティ(忠誠心)を高めた。こうした活動を通じて、インドのヤマハ社員や販売に携わる人たちの「世界を青に変えていく(ヤマハ色に染める)」ことを推進、その輪をそのまま社外、つまりインド市場に向けて展開していった。

これが功を奏し、コロナ禍の影響を受けながらも約5年で卸売単価は1.9倍、売上高1.7倍、営業利益20倍超と大幅な財務体質改善を実現。大きな成功体験となったと同時に、グローバルにおけるブランド戦略改革を推し進めるきっかけとなり、北條氏が新たにブランドマーケティング部長に起用された理由でもあった。

◆ヤマハ愛を広げる「ネクスト感動アクション」

ヤマハ発動機 ブランド統括部の北條雅也統括部長ヤマハ発動機 ブランド統括部の北條雅也統括部長

では、日本を含めグローバルでブランドカラーを「青」に統一するかと言えば、そう単純なものではないという。

インドでは多くの人の意識改革が必要だったものの、スピーディなブランド戦略が成功した理由のひとつが「市場が二輪に特化していたから」だ。ヤマハ発動機が扱う製品は、二輪のみでなく電動アシスト自転車、四輪、ボートや船外機といった乗り物のほか、産業用ロボット、産業用無人ヘリ、あるいは金融サービスまで幅広い。さらにモータースポーツや、サッカー、ラグビーもある。これらをひとつの「ヤマハブランド」として横串を刺し、戦略的にロイヤリティを上げていこうというのだ。これらを集約することが「目の前の大きな命題」だと北條氏は話す。

現在もまさに、ヤマハ社内にあるさまざまな事業やサービスを改めて洗い出し、そこに筋道を見つけようとしている最中だという。

「入社して20数年、ほぼモーターサイクル(二輪)しかやってこなかったので、改めて事業の広さに驚いています。それでも、一番の課題はこれらを取りまとめている機能が国内外にないことで、それがないことがわかったのが大きい。商品やサービスそれぞれのブランド戦略はありましたが、より大きな方針のもと事業ブランディングとして考えていこうという意識が芽生えたのが、これまでとの大きな違いだと考えています」(北條氏)

その中で一歩踏み出したのが、インドでの成功事例にもあった社内ブランディングだ。社員の意識からヤマハをブランディングしていくという発想で、「ネクスト感動アクション」を掲げた活動を開始した。「感動」はヤマハ発動機の理念にも含まれる言葉だが、この活動は「要するに社員自身をブランドアンバサダーにして広報活動させようという活動です」と北條氏は話す。

背景には昨今の人事事情もある。これまでは「バイクが好き」「ヤマハが好き」で入社を希望する人材も多くいたが、キャリア採用の社員も多くなっている。そうした人たちにヤマハ発動機の企業文化を伝え、理解してもらい、長く勤続してもらうことが課題だ。

鈴鹿8耐には、新入社員全員を連れていくという鈴鹿8耐には、新入社員全員を連れていくという

これらを踏まえて、具体的には、7月に開催される鈴鹿8耐レースに新入社員全員を連れていく、ヤマハ製品の体験機会を設けるなど、社内にいても普段接することのない他事業に触れることで、「ヤマハという会社を体験として理解してもらう。しっかり理解して、その体験に感動してもらうことで、家族をはじめ“外の世界”へ発信する。それが広がっていけば、ヤマハ発動機のブランドへの理解も広がっていく。そう考え始めたのが大きな変化です」(北條氏)。

設楽社長は就任時、渡辺克明会長(当時)から「ヤマハ愛にあふれる人物」と紹介され話題となった。まさに設楽社長ならではの「ヤマハ愛」の輪を広げていく取り組みと言えるだろう。

◆原点に立ち返ったヤマハらしさ

一方でブランドの輪を広げていくためには、その核となるものが必要だ。つまり「ヤマハらしさとは何なのか」ということだ。北條氏は「この議論をしだすと終わらない。人それぞれ、あるいは担当する事業によっても違うんです」と苦笑しながらもこう語る。

「それでも数か月、話をしていく中で見えてきたのは、我々のヤマハらしさというのは、新しいものに対して、新しい領域に対して挑戦を続けていくこと。そしてそこに何か新しい感動を生み出していこう、ということなんです。創業者(川上源一氏)の言葉に『生活を楽しむことを広げたい』というものがありますが、これに立ち返って基軸にしていこうと考えています」

「ただ、生活を楽しむことはあくまで結果です。では我々が何をできるかというと、新たな挑戦をするとか、感動を生み出すための1歩を踏み出すサポートをするための製品、事業やサービスであったり、それを提供するのがヤマハ発動機であって、その結果として感動を生み出すような企業になっていきます、ということを今後宣言していきたいと考えています」(北條氏)

原点に立ち返ることで、グローバルに「ヤマハらしさ」を伝えていく原点に立ち返ることで、グローバルに「ヤマハらしさ」を伝えていく

原点に立ち返ることで、グローバルに「ヤマハらしさ」を伝えていく。言葉にすればシンプルだが、道のりは長い。「4月末に初めて、グローバル会議を日本でおこないました。今度は海外でもおこないます。これまでのように、本社で製品を作って、あとは各市場でなんとかする、というやり方ではなく(各国の)意見を聞きながら、その統一化をしていきたい」と北條氏は話す。

また世界規模での取り組みとは逆に、地元である磐田市においても地域に密着したブランド戦略をおこなっていきたいという。

「これは私が勝手に言っていることではありますが、やはり我々の本拠地は静岡県の磐田市であり、遠州エリア。ここを発信基地として、グローバルに通用するブランディングをやりたいと思っています。遠州エリアを中心として、ヤマハのブランドを体験できる施設をたくさん作って、世界中の人にここに来てもらって、ヤマハを楽しんでもらう。ここだからこそできることがあるのではないか。まずはここで働くヤマハ社員、そして販売店や関係会社の皆さん、最終的にはお客様に向けた活動につなげていけたら」(北條氏)

◆「“全自動ではない遊び”にこそ、我々の目指すものがある」

ヤマハ発動機の公式tiktok(左)とオウンドメディア「HATSUDO」の公式Instagramアカウント(右)ヤマハ発動機の公式tiktok(左)とオウンドメディア「HATSUDO」の公式Instagramアカウント(右)

早速、新たな取り組みも開始した。ひとつがSNSの積極展開だ。4月にはスマートフォン向けのショート動画投稿・共有アプリ「tiktok」の公式アカウント(https://www.tiktok.com/@yamahamotor_japan)を立ち上げた。「あえて公式っぽくないものを色々やってみよう」と、「静岡県民が標準語と思っている方言あるある」や「モーターサイクル開発社員の通訳」といったSNSのトレンドを踏襲した“ネタ動画”を投稿し続けている。

また、従来から開設していた「Instagram」、そしてオウンドメディアとして展開していた「HATSUDO」をより積極的に活用し、生活を“より良くする”ための気づきを提供し、ブランドへの共感を得ることをめざすという。

デジタルだけでなく、リアルへの展開も計画している。静岡県磐田市のヤマハ発動機本社に併設される企業ミュージアム「ヤマハコミュニケーションプラザ」のリニューアルだ。これまでも、二輪をはじめヤマハ製品やその歴史を辿ることができる展示がおこなわれ、ヤマハファンを中心に人気スポットとなっていた。リニューアルでは、体験型コンテンツを増やすことで、若年層や新規ファンの獲得をめざすという。横浜みなとみらいエリアに立地するブランド発信拠点「Yamaha E-Ride Base(ヤマハ・イーライドベース)」でも、同様の展開をおこなっていくとした。

ヤマハ発動機 コミュニケーションプラザ(資料画像)ヤマハ発動機 コミュニケーションプラザ(資料画像)

ヤマハは古くから、リアルな体験価値の提供に重きを置いてきたブランドだ。トレンドを追う製品をつくって売るのではなく、製品を通じて生まれるライフスタイルや人生観の変化、QOLの向上など、常に“一歩先”を見据えたものづくりや、仕組みづくりをおこなってきた。それが「洗練されたデザイン」や「先進感」といったブランドイメージにつながり、ファンを惹きつけている。そうした体験価値の根底にあるのは「遊び」だ。

「ヤマハの社員は仕事以上に“遊ぶ”んです。だから月曜日に怪我をしている社員も少なくないですが(笑)、我々の製品は必ずしも生活必需品ではありません。自分が体験して楽しいものを人に伝えたいという気持ちがあって、その“遊び”や“好き”がヤマハらしさをつくってきました。10年後のブランドをどうするかという議論では、この先AI化などで個人の時間の余裕ができてくる中で、そこでちゃんと人間が自分で操縦して遊べる、というのが大事なのでは。人機官能や人間研究という言葉を我々は使いますが、“全自動ではない遊び”にこそ、我々の目指すものがあると考えています」(北條氏)

“中”から変えるブランド戦略、そしてそこから生まれる“遊び”が、市場に共感をもたらすことができるのか。その挑戦は始まったばかりだ。

《宮崎壮人》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

レスポンス公式TikTok

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 車の黒樹脂パーツが白くなる原因と対策、洗車後に差が出るメンテナンス方法~Weeklyメンテナンス~
  2. ホンダ『N-BOX』の運転席を収納力アップ! 簡単設置の専用「ダッシュボードトレイ」発売
  3. トヨタ『ライズ』がRAV4デザインに!? 次期型が驚きの進化、国内トップSUVの最新情報
  4. 新東名・NEOPASA浜松で「“航空祭”フェスティバルIV」開催! 6月13日から
  5. 日産、新車開発AIで大幅短縮、新型『スカイライン』など1年に7車種投入[新聞ウォッチ]
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. ホンダ「2026ビジネスアップデート」…次世代HV15車種投入、2029年度営業利益1兆4000億円
  2. BYD、Huawei、Xpengが示す中国自動車産業の次なるステージとは…匠新[インタビュー]
  3. ダイフク、520億円の成長投資でマザー工場再開発とドイツ企業買収…2030年に売上高1兆円へ
  4. AIドライブレコーダーで道路損傷を自動検出、「道路巡回ソリューション」共同開発…電気興業とサイバーコア
  5. JFEスチール、スポット溶接安定化技術が国内自動車メーカーの部品に初採用…高強度鋼板の適用拡大に貢献
ランキングをもっと見る