【ルノー アルカナ 250km試乗】「伊達グルマ」では終わらない、GT級シャシーに驚いた

ルノー アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH
ルノー アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH全 20 枚

ルノーのCセグメントコンパクトモデル『アルカナ』を短距離ロードテストする機会があったので、インプレッションをお届けする。

【詳細画像】ルノー アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH

アルカナは2019年、スペシャリティ色の強いクロスオーバーとして登場した。ディメンションは全長4570×全幅1820×全高1580mm、ホイールベース2720mm。テールゲートが車体後端へなだらかに傾斜するクーペスタイルが外観上の特徴で、同社のBセグメントクロスオーバー『キャプチャー』がバックドアが切り立った正統的なハッチバックであるのとは対照的である。最低地上高は200mmと、この種のクーペ・クロスオーバーとしてはかなり大きな余裕を持たせている。

工学面で特徴的なのはほぼ同じ外観、ディメンションのモデルを先進国向けは高性能プラットフォームを使ったハイスペック版、新興国向けはルーマニアの子会社ダチアのSUV『ダスター』をベースとする低コスト版と作り分けていること。前者は韓国の釜山、イランのサラフチェガン、後者はロシアのモスクワ、ウクライナのサボリージャ、カザフスタンのコスタナイで生産を行った。

ルノーのマザー市場である欧州ではアウディ『Q3スポーツバック』のようなクルマが安価に手に入るということで人気を博し、ロシアでも好調なセールスを記録したが、間の悪いことに新興国モデルは国際紛争によってロシアからは撤退、ウクライナ、カザフスタンでのノックダウン生産も中止となり早期にディスコン。先進国モデルもイランでのノックダウン生産のメドが立たなくなった。日本で販売されているのは唯一残ったルノーコリア釜山工場で製造されるハイスペック版である。

ロードテスト車はストロングハイブリッドを搭載するトップグレードの「エスプリ アルピーヌ E-TECH」。ロードテストの総走行距離は255km、試乗エリアは横浜を起点とした南関東周遊。大まかな道路比率は市街地4、郊外路4、高速2。1~2名乗車、エアコン常時AUTO。

◆稀少な商品性を持った“伊達グルマ”

ルーフ後端をあまり下げず、ウエストラインをキックアップさせるという手法でクーペらしさを演出しているルーフ後端をあまり下げず、ウエストラインをキックアップさせるという手法でクーペらしさを演出している

ではインプレッションに入っていこう。200mmという大きなロードクリアランスの上にスリークな5ドアリフトバックボディを乗せたクーペ・クロスオーバーのアルカナは、本格的なスポーツ性、悪路走破性狙いではなく、ファッション性重視の“伊達グルマ”だ。実際に乗ってみたところ、その開発目標におおむね合致したクルマに仕上がっているように感じられた。

非常に良くできていた部分は爽快な操縦フィール、存外高い実用性、そして燃費の良さ。クーペフォルムでありながら見た目とは裏腹にステーションワゴン並みの積載力を有しており、キャビンの広さも十分。ルノーのノーマル系モデルとしてはかなり締め上げられたサスペンションを持つが、ショックアブソーバーの応答性が非常に良く、“固さが気持ちいい”を地で行く乗り心地を実現できていたのも美点。

燃費も十分に満足の行く水準で、これ1台で日常使用から大荷物を積んでのバカンス旅行まで何でもこなせるという汎用性を持たせているのはルノーの面目躍如と言える。

ルノーが2012年に発売した第4世代「CLIO」でバックドア中央にロゴを配したところ、その手法が世界的に流行したルノーが2012年に発売した第4世代「CLIO」でバックドア中央にロゴを配したところ、その手法が世界的に流行した

ハードウェアの明瞭な弱点はタウンスピード域での発進加速力が平凡なことくらいで、欧州で人気を得られたのもわかるというものだ。が、日本でのビジネスとなると事はそう単純ではない。自動車産業が盛んな日本で輸入車を選ぶ動機は決して合理性だけでなく、異国の文化を味わうという要素も多分にある。その視点で見ると、アウディのようなデザインテイストを持つクルマをより安価にというアルカナは、ルノーらしさ、フランスらしさが希薄という目で見られてしまう。

トップグレードで500万円強という価格もネック。為替レートが10年前のように1ユーロ=110~130円というレンジであればそれを450万円以下で売ることも可能だっただろう。海外メーカーの対日ビジネスが難しい時代であることがあらためて実感される。

それでもスタイリッシュなクーペ・クロスオーバーという商品性のクルマは内外を問わず稀少。クーペではあるが佇まいはフォーマル寄りで憚られるようなシチュエーションは少なく、またパッケージングやシャシーチューニングなど傑出した部分も多々あることを考えると、そういうクルマに乗りたいというユーザーにとっていまだ有力候補になり得るだけの実力はあるように思われた。

◆シャシー性能はエクセレント!

タイヤサイズは225/45R19。車重1.4トン台には十分すぎる性能で、少々コーナリングスピードが速くてもびくともしなかったタイヤサイズは225/45R19。車重1.4トン台には十分すぎる性能で、少々コーナリングスピードが速くてもびくともしなかった

要素別にもう少し深堀りしていこう。まずは走りや乗り心地を支えるシャシー性能だが、この点についてはエクセレントだった。ロードテストはドライ路面のみだったのでウェットコンディションでのパフォーマンスは試せていないが、少なくとも今回乗った限りでは走行面は安定性、操縦フィールともハイレベル。剛性の高いサスペンションセッティングでありながら乗り心地もフラット感、ハーシュネスカットの両面で大いに満足の行くものだった。

ルノーはかつてルノースポールという本社直属のレースカー、スポーティカー開発部門を擁し、素晴らしいスポーティモデルを度々輩出してきた。アルカナはその息が直接かかったモデルではないが、エンジニア陣はクロスオーバーといえどもクーペを欲するユーザーには卓越した走りを提供したいと考えて開発を行ったという。それがあってかシャシーチューニングは“伊達グルマ”の域を超え、本格的なグランドツアラーと呼んでいいレベルであるように思われた。

なかんずく素晴らしかったのはコーナリングにおける挙動。前輪の路面への食いつきが抜群であるうえ、高Gがかかるシーンでもよれるような動きがほとんど出ず、正確で安心感の高いフィールが常に維持された。今回は山岳地帯に深く分け入るようなドライブではなかったが、このフィールなら険路を長駆してもおそらく疲労、ストレスは極小で済むだろう。

フロントシートは浅いバケット形状。座り心地、シートバックの剛性、肩のホールド性などが美点フロントシートは浅いバケット形状。座り心地、シートバックの剛性、肩のホールド性などが美点

車内の快適性は乗り心地、静粛性の両面でこの種のお洒落グルマのユーザーを満足させるに十分との感あり。乗り心地はハーシュネスをタイヤやスプリング、アッパーマウントラバーの柔らかさでハーシュネス(ザラザラ感、ゴツゴツ感)をカットするのではなく、応答性の高いショックアブソーバーで路面の不整を精密に吸収するというタイプだった。ゴツゴツとした感触はあるがそれが振動や突き上げにならず、ブルつきの残らないスッキリとしたライドフィールがロードテストを通じて維持された。

アルカナは車体サイズはCセグメントだが、プラットフォームは同社の『キャプチャー』や『クリオ(日本名ルーテシア)』、日産自動車の新型『キックス』などBセグメントモデル群と同じ「CMF-B」。ルノー=日産アライアンスはより高容量な中型車用モジュール「CMF-C/D」を持っているが、CMF-Bを選んだのは軽量化や最低地上高の大きさと低重心の両立を狙ってのことだったという。走行安定性や防振・遮音性の面で弊害がないのかということが気がかりだったが、まったくの杞憂だった。CMF-Bが高い基本性能と柔軟な拡張性を持ち合わせていることがうかがえた。

タイヤは225/45R19サイズのハンコック「VENTUS Prime4」。筆者はこのタイヤに初めて乗ったが、低騒音、衝撃吸収性とグリップ力、応答性のバランスが非常に良く、それもライドフィール向上に少なからず寄与しているものと思われた。

◆高速走行で光るE-TECH

E-TECHの燃費性能は十分に高いものだったE-TECHの燃費性能は十分に高いものだった

次にパワートレインのパフォーマンス。ストロングハイブリッドE-TECHのシステムは走行と減速エネルギー回生を担うメインモーター(出力36kW・49馬力)、発電用のサブモーター(出力15kW・21馬力)、容量1.2kWhのリチウムイオン電池パックを備える2モーター式のシリーズ・パラレル式。エンジンは直列4気筒1.6リットルのミラーサイクルエンジン(出力69kW)で、エンジン側にドグクラッチ式4速、電気モーター側に2速の減速機構を備え、協調して動力をコントロールする。合成出力のピーク値は105kW(140馬力)。

このE-TECH、ドグクラッチ式4速というステップATを使っていることもあってか、2モーター式のシリーズ・パラレルハイブリッドとしてはメカメカしく、パラレルハイブリッド的なフィール。走行用モーターの能力が小さく、エンジンと電気モーターを併用して走るシーンが多いという点はトヨタ自動車のスプリットハイブリッド「THS II」と同じだが、エンジン出力を発電と走行に無段階に振り分けるTHS IIと違って純シリーズ走行やEV走行時以外はエンジン回転数が車速に正比例する。それゆえのパラレル感だろう。

このシステムが好パフォーマンスを見せたのは高速走行。クルーズ時はきわめて低騒音・低振動であるし、東北道120km/h区間の追い越しでよくある90→120km/h加速のような中間加速は大変滑らかかつパワフルで、実にコントローラブルだった。比較的速度レンジが高い郊外幹線道もそれに準じるパフォーマンスだった。

速度レンジの低い市街路では状況次第となる。微速前進や緩加速などハーフスロットル領域では動作はスムーズで、変速に伴う加速の切れ目を感じることはほとんどない。問題は停止時から強めの加速を得ようとする場合で、パワーの出方が一定でなく、加速Gの変動が息継ぎ感として知覚された。また、低中速時の加速においては発揮できる出力が最大140馬力という合成出力のピークよりかなり低い印象で、停止から素早く加速して車線変更するといった機敏な運転にはあまり向いていないように思われた。

◆実燃費は22km/リットル、オーナーならもっと伸ばせる

アルカナのインパネ。平均燃費は22.8km/リットルを示しているアルカナのインパネ。平均燃費は22.8km/リットルを示している

システムのノイズはエンジンの透過音を含めて非常に良く抑えられていた。E-TECHはもともとルノー傘下のバジェットカーブランド、ダチアの小型車など低価格車に使うために開発されたもの。それだけに上級モデルのアルカナに搭載するにあたっては挙動の洗練性を高めたり、騒音・振動を抑制したりといった改善に結構苦労したとはルノー関係者の弁。

燃費は1.4トン台のモデルとしては十分に良好と言える水準だった。試乗距離が短かったため精度は高くはないが、参考値として満タン法による平均燃費を記すと市街地5、郊外路3、高速2の比率で走行したオーバーオールで22.6km/リットル。平均燃費計値は22.8km/リットルと、ほぼ同数を示した。

平均燃費計の挙動からみた各ステージの推算値を示すと、市街地が20km/リットル、郊外路が25km/リットル、高速道路120km/h区間(前が詰まるので120km/hクルーズを維持できたわけではない)が22km/リットル前後といったところか。ちなみにシステムのクセがわかってきたドライブ後半は同じように走っていても燃費が目に見えて向上してきたので、オーナーであればもっと良い値を出せるだろう。

燃料タンク容量は50リットルとBセグメントよりは多い。平均燃費の良さとの合わせ技でメーター内の航続距離のプレディクションは1000km以上の数値を示した。

◆荷室はアルカナの“隠れハイライト”

コクピットは質感はまあまあだがルノーの独自性は希薄コクピットは質感はまあまあだがルノーの独自性は希薄

車内に話を移す。全体として居住性や荷室はクーペフォルムのわりにはかなり広く、同じラテン車の5ドアでは格上のプジョー『508』より使えるという感じであった一方、伊達グルマに求められる色気については不足気味で、ルーテシアとあまり変わらないという印象だった。

まずは居住区だが、コクピットはゆったりとしたスペースを確保しつつ適度な囲まれ感を持たせるという、この種のパーソナルカーを好むユーザーのニーズに合致したものに仕上がっているように感じられた。

メーターパネルは全面カラー液晶。高精細で発色も美しいが、これはクリオやキャプチャーなど他のルノー車も同様で、アルカナが特別というわけではない。ダッシュボード中央には大型の液晶ディスプレイが設置され、助手席側には木材を染めたような風合いのプリントパネルがあしらわれていたりするが、これも今どきのクルマではよくあるものだ。エスプリアルピーヌの場合、スエード調のドアトリムやステアリングホイールにフランス国旗カラーのトリコロールステッチが施される。そこが唯一、フランスらしさを主張する部分か。

トリムやステアリングのトリコロールステッチはエスプリアルピーヌのみの仕様トリムやステアリングのトリコロールステッチはエスプリアルピーヌのみの仕様

ADAS(先進運転支援システム)は今回のロードテストでは出番が少なく、論評できるだけの材料が揃わなかった。少なくとも東北道120km/h区間で恐い思いをしたりスムーズネスを欠いたりといったシーンはなかったし、前方監視も結構緻密なので、標準レベルは十分にクリアできていそうだった。

後席は広いうえに居住感や眺望も良好。アルカナはクーペスタイルだがルーフ後端をあまり下げずウエストラインをキックアップさせることでそれらしさを作っているため、座面を下げずに頭上空間をきっちり確保できていた。これならセダンライクな使い方にも十分対応できるのではないかと思われた。

荷室はアルカナの隠れハイライトと言える部分で、バックドアを開けると広大なスペースが目に飛び込んでくる。荷室の床とバンパー上面の段差をなくすボードを下に落とし込むとさらに容量を拡張することができる。

容量は後席を使用する場合でE-TECHが480リットル、マイルドハイブリッドは513リットルと大変余裕があるが、深さと奥行きがある荷室形状はレジャー用品の積み込みにうってつけで、寝具やダイニンググッズを大量に積んで別荘やキャンプに出かけるといったバカンスライフへの適合性は抜群。このあたりは長期休暇マニアの国、フランスのメーカーの面目躍如といったところだろう。

奥行きと高さがあり、大型の荷物が積みやすいラゲッジスペース。まさしくレジャー向きだ奥行きと高さがあり、大型の荷物が積みやすいラゲッジスペース。まさしくレジャー向きだ

◆マイルドハイブリッドか、E-TECHか

すでにモデル末期のアルカナだが、基本性能の作り込みやパッケージングはなかなか良好で、クーペフォルムのクロスオーバーを狙っている顧客にとっては依然として悪くない選択肢であるように思えた。

アルカナの購入を検討する場合、まずマイルドハイブリッドとE-TECHのどちらにするかが第一の選択のポイントになる。燃費やハイテク感狙いであれば、間違いなくE-TECHがいいということになるだろう。

が、筆者が過去に「カングー」や「ルーテシア」に乗ってみた経験にかんがみると、マイルドハイブリッドの主機である直列4気筒1.3リットルターボエンジンはパワー感、振動・騒音、燃費などの出来がすこぶるよろしい。アルカナに搭載されるバージョンは116kW(158馬力)を発生するハイチューン版と7速DCTの組み合わせで、動力性能はこちらのほうが確実に上。速さやピュアエンジンらしさを求めるなら40万円安いマイルドハイブリッドを選ぶ意味は十分にあると思う。

フロントフェンダー側面の「ESPRIT ALPINE」ロゴ。このブルーのロゴが付いているだけで萌えるフロントフェンダー側面の「ESPRIT ALPINE」ロゴ。このブルーのロゴが付いているだけで萌える

エスプリアルピーヌと下位グレードの「テクノ」のどちらがいいかだが、テクノのほうがタイヤが215/55R18と幅が1サイズ狭いぶん維持費が安くすむし、タイヤのクッション厚が大きいぶん乗り心地も良いだろう。エスプリアルピーヌのほうは約30万円高でBOSEのオーディオ、19インチホイール、内外装にあしらわれたアルピーヌのロゴなどを得ることになるが、テクノとの装備差はそれほど大きくない。

筆者は若い頃にアルピーヌのリアエンジン式スポーティクーペ『GTA(日本名V6ターボ)』に乗っていたことがあったので、車体サイドのアルピーヌのエンブレムを見ただけでちょっと嬉しくなってしまったが、とどのつまりアルピーヌの名を冠していることにどれだけの価値を見出すかが選択の分かれ目になりそうに思えた。

ライバルだが、全高1600mmアンダー、最低地上高200mm前後のCセグメントクロスオーバーとなると意外に少ない。最もかち合うのは文中でも紹介したアウディQ3スポーツバックだが、これはプレミアムセグメント。ノンプレミアムではトヨタの欧州向けモデル、第2世代『C-HR』があるが、全長が短くキャビン、荷室の容量が大きくことなるし、そもそも日本未導入だ。こう考えるとアルカナはうまくニッチを突いた商品だった。

それだけに今の円安ユーロ高による高価格が余計残念に感じられた次第だった。リセールバリューはあまり期待できないので、買うなら長く乗ることを前提に。オーナーの愛着に応えるだけの商品性は十分にある。

リアクオーターパネルの抑揚により、ほっそりとしていながらマッシブな印象を与えるリアクオーターパネルの抑揚により、ほっそりとしていながらマッシブな印象を与える

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おススメ度:★★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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