静岡県掛川市にあるつま恋リゾート彩の郷で6月27日と28日、「アルシオーネSVX35周年全国ミーティング2026」が開かれ、各地から79台の美しき“クジラ”たちが集結した。
スバル『アルシオーネSVX』は、先代『アルシオーネ』が生産終了した1991年に2代目としてデビューした。一部のルーフを除くキャビンをガラスで覆う“ミッドフレーム・ウインドウ”を採用するなど、イタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロによる近未来的なエクステリアデザインが大きな特徴だった。滑らかで静粛性の高い3318ccの水平対向6気筒エンジンを搭載し、「遠くへ、美しく」「500miles a day」(1日800kmを快適に走る)などのキャッチコピーで新世代のグランドツアラーをアピールした。
しかし、バブル経済が崩壊して好景気が終わり、国内外で大きな転換点を迎える激動の時代に。約300万~400万円台後半という当時としては高価格帯のスペシャリティクーペ需要が急激に落ち込んだことや、高級車としてのブランドイメージ不足、トヨタ『ソアラ』、日産『フェアレディZ』などの強力なライバル車を前に苦戦。国内販売は5年間で6000台弱とビジネス的には伸び悩んだ。
それでもやはり、この美しいスペシャリティクーペに惚れ込んだユーザーは全国各地におり、この日は北海道から九州まで全国から79台が集まって来た。
滋賀県から来たという40代女性は「VL」を駆り中学生の娘とドライブして来た。ダークグレーメタリックのボディカラーを始めほぼノーマル状態。1998年に女性の父が新車で購入したものを受け継いだという。購入当時中学生だった女性が後に免許を取り、結婚して生まれた自身の娘さんも現在中学生に。昔のように今もSVXはロングドライブに出かけているそうだ。しかし故障が多いのが悩みの種。今回は経験豊富なオーナー達にトラブル対応の仕方や部品調達などの方法を聞くため初めてイベントに参加したという。その甲斐があって「情報を得ることができました。長く乗っていけるように勉強します!」とやる気満々のお母さん。中2の娘さんは「うーん、故障がなかったらいいけど……。でもカッコいいからできれば乗りたい」と笑顔で話してくれた。
SVXに憧れていたという30代男性は、小豆島で朽ちつつあったエメラルドグリーンマイカの「S40II」を知人が仕上げた後、その代理ドライバーとして関東から走って来た。「昔、街角で銀色の衝撃的なスタイルの美しいクルマを見かけ、どこのクルマ? と思ったのがSVXでした。今回運転する機会を得て、初めてのロングドライブ。ずっと安心して走れました。上質です! グランドツーリングってこんな感じなんだと。直進安定性がが抜群で、エンジンはシルキーすぎて音がしないくらい」と絶賛。「欲しくなりました!」と興奮気味に話した。
今回唯一の左ハンドルだったのは、グレード不明のグリーン系の個体。2001年、アメリカのアトランタ駐在時にネットでフロリダに走行距離1000マイルのSVXを発見し、即現地へ赴いてオーナーになったという。「その時に走った、フロリダからアトランタまでの500マイル走行が初ドライブで、忘れられない思い出になりました」。その後SVXと共に帰国。様々な手続きが必要だったが、「1ドル100円の時代だったので、今考えれば安く抑えられました」。現在も状態は良く「末永く付き合っていきたい」というオーナーだった。
このほか、フルノーマル車や『インプレッサ』の6MT載せ替え車、アニメのボディペイントを施した“痛車”仕様などと様々。リアフェンダーの一部を覆うフェンダー・スカートをワンオフで装着し、さらに流麗なフォルムとしたSVXもあった。新車ワンオーナーや、親から受け継いだという2ケタナンバー車が比較的多く、未だに愛されているクルマだと分かる。
SVXの全国的なオーナーズミーティングは、1991年に発売された後、94~95年頃に最初に開かれ、以後、毎年開催。しかし10周年を境に起案する人が現れず、未開催に。そして06年の15周年の時に久しぶりの全国ミーティングが開かれた。それが好評となり、5年毎に発起人やスタッフが変わりながら開催されてきたという。
そして今回の35周年は、15周年時の発起人でもあった戸崎健司さんが復帰する形で運営委員長を務めることに。自身、SVXを3台乗り継いできたという。今もSVXのことを「クジラ」と表現する愛好家がいるが、この愛称を最初に定着させたのが戸崎さん。大海を泳ぐような乗り味と、洗車している時のルーフの曲線がまるでクジラみたいだと当時のパソコン通信ニフティサーブに投稿して以来、徐々に広まったのだとか(先代アルシオーネは「クサビ」と呼ばれた)。オフ会は「鯨刈り」、黒は「マッコウクジラ」、白は「シロナガスクジラ」などと呼ばれたのだった。
今回の35周年全国オフのコンセプトは「共存共生」。SVXを乗り続けるために情報やノウハウを共有し、分断しているコミュニティの交流を促進するのが目的だった。旧車と呼ばれる中ではSVXは比較的新しいネオクラシックカーだが、そもそも生産台数が少ない上、ミーティング参加台数も年々減少。現在の登録台数は、750台前後と言われているそうで、今回はその10%が集まったことになるので大健闘といえるだろう。
また戸崎さんによれば、今回初めてスバルと真正面から打合せを行ったという。本社に訪問し、「スバルのヘリテージカーであるSVXとそれを守ってきたオーナーに、もう少し寄り添ってくれないかと提案しました。オーナーにもスバルのメンバーがいますし、多方面から部品供給など働きかけを行ってきました」。と積極的に働きかけた。
一方で、「今回が最後になるつもりで開催しました」と話す。「今回の開催の裏テーマは『降りるきっかけ』。降りることを迷っている人の背中を押す、でした。潮時だと促すことでした」。パーツがない、修理にお金が掛かる、いつ止まるか、乗り続けることができなくなるか分からない。そんなオーナーに向けてSVXライフの一区切りになるならとの思いだ。しかし「楽しかったという声が多く、乗り続ける覚悟を決めた人が多いかもしれません」。切実だが、それを乗り越える魅力がSVXにある。
この日は展示のほか、元スバル・デザイン部の石井守氏と元エンジン開発担当の斎藤陽一氏、それに自動車ジャーナリストの片岡英明氏によるトークセッションや、SNS上でSVXのDIYメンテを披露しているオーナー3人によるトークセッションが行われ、参加者たちは熱心に耳を傾けていた。
イタルデザインからのコメントも読み上げられ、以下の内容に会場は「おーっ!」と歓声が沸いた。「スバルSVXは、今なお真に象徴的なクルマであり、イタルデザインにとっても、この重要かつ先進的なプロジェクトに携わることができたことは大きな栄誉でした。SVXの創造に関わることができた経験は、革新性、卓越したデザイン、そして未来を見据えた精神が融合した特別な取り組みとして、現在でも私たちの大きな誇りであり続けています。(中略)この素晴らしいクルマの歴史と、皆さまのコミュニティを結びつける情熱を称えるこの機会に、私たちも気持ちは皆さまと共にあることをお伝えしたいと思います」。
会場は雨が終日続くあいにくの天気となったが、参加者同士の交流は和やかに続いた。彼らが口を揃えて言うスタイリングの良さ、抜群の高速安定性は今も色褪せない。SVXは「新モデルが出ないので、いつまでも最新モデル」と戸崎さん。次回40周年オフ開催は? の問いには「自然発生のように発起人が集まり動き出すかもしれませんが、誰も動かないかもしれません」との返答だった。
しかし頭数を減らしても、大海を泳ぐクジラたちはまた5年後、ゆったりと集まってくるような気がした。




