マツダの全長5m級SUV『CX-80』を900km弱ロードテストする機会があったので、レビューをお届けする。
【画像】マツダ CX-80「XD Lパッケージ」と「XD-HYBRID」
CX-80はマツダがラージ商品群と称する後輪駆動プラットフォームを用いて作られたSUVで、旧世代の『CX-8』に置き換わる形で2024年に登場した。北米向けにはさらに大型の『CX-90』があるが、CX-80は日本、EU、アジア大洋州と幅広い市場をカバーしており、同社の高付加価値戦略のリーディングモデルと言っていい。
パワートレインは3.3リットル直列6気筒ターボマイルドハイブリッド、3.3リットル直列6気筒ターボディーゼルマイルドハイブリッド、同非ハイブリッド、2.5リットル直列4気筒プラグインハイブリッドが用意されているが、日本には大排気量ガソリンターボは投入されず、ディーゼル2種とPHEVの3機種という布陣である。
ボンネット下には3.3リットル直6ターボディーゼル
ロードテストはマイナーチェンジ前の非ハイブリッド「XD Lパッケージ フルタイム4WD」(326.4km)とマイナーチェンジ後のマイルドハイブリッド「XDハイブリッド ドライブエディション ナッパレザーパッケージ フルタイム4WD」(565.7km)の2回で、通算走行距離は892.1km。
最初にCX-80の長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1. 大排気量6発ならではのフィールをむんむんと伝えるディーゼル
2. 同価格帯では傑出した麗しい内装
3. 丁寧な外装のフィニッシュ
4. 大柄かつロングホイールベースなわりに敏捷性が高い
5. 6発ディーゼル搭載車としては圧倒的な低価格
■短所
1. 旧世代の『CX-8』に比べて3列目シートの居住性が低い
2. 快適性はEセグメントSUVへの期待値を明らかに下回る
3. 変速機は若干洗練性に欠ける
4. 最小回転半径5.8mの数値より取り回しが悪く感じられる
5. 6人乗り仕様の場合、5名乗車以上だと荷室が狭小
◆古典的な大型SUVならではの雰囲気を安価で味わえる
マツダ CX-80 XD Lパッケージのサイドビュー。ホイールベースは3120mmと長大ではレビューに入っていこう。CX-80は古典的な大型SUVならではの雰囲気を競合よりはるかに安い価格で味わえるという点ではなかなかいいクルマだった。
それが最も端的に出たのは3.3リットル直列6気筒ターボディーゼル。大排気量ならではのエネルギー感と6発のシルキーさがないまぜになったフィールは、エンジン好きなユーザーならごはんを3杯おかわりできるくらいに素晴らしいもの。内外装のフィニッシュや装備レベルは価格帯を考えれば申し分なし。走行性能も十分に高く、操縦フィールは3120mmという超ロングホイールベースを意識させない身軽さ。
ハーシュネスカットが甘くフラット感も足りない乗り心地、3列目シートが狭いといった弱点はあれど、クルマの価格が上昇を続けるこのご時世に最安478万円でこれほどのクルマが手に入るというのは間違いなくお値段以上。それだけで看板バリューになるのではないかというのが率直な印象だった。
2列目シートは2人掛けのキャプテンシートと3人掛けのベンチシートがある。今回のテスト車は前者ところがこのCX-80、販売スコアを見ると日本、欧州はじめ各地でマツダが内心期待していたであろう水準に遠く及んでいない。クルマの売れ方の構図はまさに森羅万象で理由を簡単に特定できるものではないが、ひとつ考えられるのは他ブランドからのユーザーを引き込むパワーが不足しているということだ。
自動車メーカーにとって商品作り以上に難しいのは顧客のシフト。大衆車メーカーでも潜在的に高級車を作る基盤技術を持つメーカーはマツダに限らず多数存在するが、迂闊に手出しができない最大の理由は作ったところでそれを買う顧客がいないこと。CX-80はEセグメントSUVとしてはバジェット価格だが、中心価格帯が500万円台というのはマツダとしては過去にほとんど経験がない世界。マツダが抱える既納顧客で手が出るのはたまたま世帯収入が高いというケースに限られる。
◆プレミアムEセグSUVでマツダを選ばせる、ということ
車体側面には「INLINE 6(直列6気筒)」のオーナメントが。6気筒であること自体が特別という時代だ販売台数を稼ぐには、他ブランドからの顧客の引き込みを主体とする必要があるのだが、顧客のロイヤリティが高いプレミアムブランドが圧倒的多数派のEセグメントSUVカテゴリーでマツダを選ばせるのは本当に難しい。最も実現可能性が高いのはプレミアムDセグメントのミッドサイズSUVあたりのユーザーにアウディ『Q7』、メルセデスベンツ『GLE』、BMW『X5』といった6発ディーゼル搭載SUVの半額で乗れることを売りとしてブランドチェンジに踏み切らせるパターンだろう。
それを前提とすると、舗装面が荒れ気味の路線での滑走感、静粛性ともまた別の車内の静謐感など、動的質感面でもう少し頑張りたい。これは絶対的な商品力不足という話ではない。常に良いモノに接しているユーザーを納得させるために必要な、もう一息の領域だ。もちろんかけられるコストに大きな違いがあるため、プレミアムセグメントと同水準にする必要はない。些細な違いならCX-80を選ぶと感じさせるボーダーラインさえ越えられればいいのだ。
決して上手く行っているとは言えないマツダの高級化戦略だが、これは元より険しい道で、今は畑をじっくり耕している段階。そこに植える品種として、CX-80をはじめとするラージ商品群は決して悪くはない。トライアンドエラーは長く続くと思うが、独善に陥らず顧客とのコミュニケーションを通じて高級車ユーザーがどういうものを好むかについての知見を豊かにしていけば、豊かな実りを手にできる可能性はまだ十分に残されているだろう。もちろん純粋に大型SUVのテイストを味わいたいというユーザーにとっては現状でも選択する意味は大いにある。
◆やみつきになるほどスウィートな6気筒ディーゼル
シリンダーの長い直列6気筒をエンジンルーム後方に寄せて搭載している要素別にもう少し深堀りしていこう。まずはパワートレインだが、ロードテストの実感としては6発ディーゼルがCX-80の圧倒的ハイライトというのが正直なところ。先に挙げたようにCX-80には内外装の仕上げの良さ、機敏な動きといった他の美点もあるが、このエンジンの存在感の前では霞む。やみつきになるくらいのスウィートぶりだった。
スロットル開度を少し多めに開けるとシリンダー内の爆圧の高まりが如実に伝わってくる。1気筒あたりの排気量が547ccと、かつての軽自動車用エンジン1基ぶんあるためか、脈動感はなかなかのものだ。一方でクランクシャフト120度につき1回という密な爆発間隔は、その脈動の目が詰まったようなフィールを生む。エンジン単体で弱点があるとすれば、緩加速時のノイズレベルがあまりに低すぎて、ディーゼルの爆圧感とみっちりした回転感がないまぜになったフィールを味わうためにスロットルを無駄に開け気味にしたくなることくらいか。
絶対的パワーはプレミアムEセグメントSUVに搭載される比出力リッター100馬力超の6発ディーゼルに比べると劣る。規制物質であるNOx(窒素酸化物)の発生量を抑制するため燃焼ガスを全部排出せずシリンダー内に残存させる内部EGRを積極利用している。実質的な排気量は機械的排気量の3.3リットルより少なく、おそらく2.5リットル相当くらいだろう。ハイブリッド版のロードテスト時にブレーキとアクセル同時踏みによる与圧なしの0-100km/h加速タイムをGPSロガーで計測したところ、7.6秒だった。
もっとも競合の3リットルハイスペックディーゼルとのパワー差が明確に実感されるのは、ディーゼルにおける高回転域、すなわち3000rpm以上のことで、低中回転・パーシャルスロットル領域では過給の立ち上がりの良さが生きて、スペックよりずっとレスポンシブかつパワフルに感じられた。6発ディーゼルらしさを楽しむという点では申し分ないエンジンであるように思われた。
◆エンジン好きには非ハイブリッドをおススメしたい
マツダ CX-80 XD-HYBRID XD ドライブエディション ナッパレザーパッケージ 4WDマイルドハイブリッドと非ハイブリッドの比較だが、最高出力は48V駆動による電気モーターのアシストが乗るぶんマイルドハイブリッドのほうが高い。しかしエンジンのパワーフィールの純味という点では断然非ハイブリッドに軍配が上がる。電気モーターとのパワーの混合がなく、エンジンですべて完結しているがゆえの快感というものはやっぱりあるんだなという印象を抱いた。マイルドハイブリッドと違って大排気量6発ディーゼルがアイドリングストップから目覚めるたびにパワートレインが大きく身震いするし、燃費性能も若干落ちるが、エンジン好きには非ハイブリッドをおススメしたい。
ちなみに今回はテストしていないのだが、CX-80にはプラグインハイブリッドもある。これは1ローター型ロータリーエンジンを積む2モーター式シリーズハイブリッドPHEVの『MX-30 R-EV』と異なり、8速ATに最高出力129kW(175馬力)の駆動用電気モーター兼発電機を組み込んだパラレルハイブリッド。エンジンと変速機の間に電気モーターを設置する、自動車工学で言うところのP2という型であるため、電気モーター駆動時も変速する。PHEVとしてのエネルギー効率はR-EVのシリーズ式に比べて劣るが、同じパワートレインを積む『CX-60 PHEV』のロードテスト時の印象はフィールが何やらメカメカしく、これはこれで面白いというもの。CX-80でも同じようなテイストを味わえるだろう。
8速ATはトルクコンバーターレスならではのダイレクト感は希薄だが、伝達効率は高そうだったこれらのパワーソースに組み合わされるのは遊星ギア式8速AT。マツダご自慢のトルクコンバーターレスで、接続・切り離しは湿式多板クラッチによって行われる。ロードテスト前は欧州車のスポーツATのように発進時以外は完全締結され、遊星ギアセットの切り替えだけでバンバン変速するようなダイレクトフィールを期待していたが、実際には結構スリップ制御が入っていて、湿式多板クラッチならではのメリットはあまり感じられなかった。
もちろんメリットがないわけではない。湿式多板クラッチはスリップ制御が入っている状態でもトルクコンバーターの非ロックアップ時に比べると伝達効率はずっと高い。燃費の良さはエンジン単体の優秀性だけでなく、ATの伝達効率の高さによるところも大きいのではないかと推察された。
◆非ハイブリッド、マイルドハイブリッド、それぞれの燃費は
マイルドハイブリッド、非ハイブリッドとも3.3リットル直6という大排気量としては望外と言うべき好燃費を記録したさて、その燃費スコアだが、6発エンジンを搭載する車重2.1トンのEセグメントSUVとしては大変優れたものだった。
満タン法で計測したオーバーオールの平均燃費は非ハイブリッド版が16.4km/リットル、マイルドハイブリッド版が18.6km/リットル。非ハイブリッド版は市街地走行の比率が高かったのが若干不利に作用した。平均燃費計値をステージ別に見てみたところ、渋滞を含む市街地がそれぞれ14km/リットル台、17km/リットル台、ストップ&ゴーの少ない郊外路とMAXで100km/hクルーズの高速道路の混合区間では両者ともほとんど変わらず、23km/リットル台だった。
先に述べたように両グレードともエンジンフィールを味わいたくてわざとスロットルを開け気味にして走りがちだった。エコランが上手いドライバーならこれよりもっと良い数値を出せることだろう。
後編ではシャシー、空間設計、インフォティメントなどについて述べようと思う。
マツダ CX-80 XD-HYBRID。非ハイブリッドとの外観上の識別点はほとんどない



