近年さまざまなパーツ製作に使われている3Dプリンター。カーオーディオでも活用が進み、東京都のMSTでは高精度なワンオフパーツ製作に導入している。その現場を取材した。
すでにご存じの読者も多いだろうが、3Dプリンターとは3次元のデジタルデータをもとに樹脂素材などを使って立体物を成形する装置だ。3D-CADなどで製作したデータからパーツのプロトタイプはもちろん、ワンオフパーツまで幅広く製作できる。自動車メーカーがオプションパーツの製作に導入するケースもあるほど普及が進んでいる。その大きなメリットは複雑な形状でもデジタル上で設計すれば高い精度で再現できること。PC上で描いた形状をそのままリアルなパーツとして作り出せるのが大きな魅力だ。
◆カーオーディオのパーツ製作に3Dプリンターを使うメリットとは?
実際に3Dプリンターでツイーターパネルを作りAピラーに取り付けた例や、ドアにミッドレンジの取り付けパネルを設計した例。
そんな3Dプリンターをカーオーディオのパーツ製作に積極的に活用しているのが東京都のMSTだ。代表の小川さんに、3Dプリンターを導入した理由やカーオーディオで活用するメリットについて聞いた。
「3Dプリンターでカーオーディオのパーツを製作することには、いくつものメリットがあります。そのひとつが精度の高さです。デジタルデータをもとに3Dプリンターで成形するため、設計した形状を高い精度で再現できます。もちろん素材のわずかな収縮なども計算する必要はありますが、完成したパーツの精度は非常に高いです」
またカーオーディオでは左右のスピーカーまわりなど、左右対称のパーツを製作するケースが多いことも3Dプリンターのメリットにつながるという。
実際に3Dプリンターでツイーターパネルを作りAピラーに取り付けた例や、ドアにミッドレンジの取り付けパネルを設計した例。「ツイーターパネルやドアのバッフルなど、左右にスピーカーを取り付ける場合には左右対称の形状を作ることが重要です。手作業によるワンオフ製作では左右を完全に同じ形状にするのは難しいのですが、3Dプリンターならデジタルデータを反転することで左右対称のデザインを作れます。精度の高い左右のパーツを製作できることは音響面でも見た目でもメリットがあります」
カーオーディオのインストールではパテを使った造形が必要になることも多いが、作り方によっては重量が増えることもある。その点でも3Dプリンターによるパーツ製作は有利だ。
「3Dプリンターは樹脂を使ってパーツを製作するため、大量のパテを使わずに済み軽量化できるのもメリットです。また木材のように湿気を吸収しにくいため、耐久性の面でもメリットがあります」
◆3Dスキャナーと3D-CADを使ったカーオーディオパーツの製作工程
3Dスキャナーを使って車内の内張形状などをデジタルデータ化。このデータを基にして製作パーツをドッキングさせる。では実際に3Dプリンターを使ってカーオーディオのパーツを作る場合、どのような工程を踏むのだろうか。小川さんに一連の流れを紹介してもらった。
例えばドアやAピラーにバッフルやツイーターパネルを製作する場合、まず取り付け先となる内張りやパネルの形状をデジタルデータ化する必要がある。3Dプリンターで製作するパーツと車体側の内装を正確に組み合わせるためだ。
車体側の立体形状をデータ化するために使うのが3Dスキャナー。内装の形状を読み取り、3Dデータとして出力できる。このデータをベースにすれば、3Dプリンターで製作するツイーターパネルなどを車両の内装形状に合わせて設計できる。
次にメインとなるパーツの3Dデータを設計する。作業には3D-CADと呼ばれるソフトウェアを使用し、パソコン上で形状を作り込んでいく。ツイーターパネルなら基準となるのはツイーターの口径だ。そこからツイーター周辺のくぼみ形状や後方の砲弾型デザインなどを3Dデータとして設計していく。
3D-CADを使ってパーツのデータを作成していく。ツイーターリングを作り、後部の造形を作った例がこちら。こうした造形はゼロから作り上げるため、最終的な形状やデザインにはインストーラーのセンスも求められる。データが完成すれば、いよいよ3Dプリンターによる成形工程に移る。
3Dプリンターを使って実際にパーツを作ってみた。こちらのツイーターリング程度であれば15分ほどで完成する。MSTが導入している3Dプリンターでは最大400mm×350mm×500mmのパーツを成形できる。材料となる樹脂には強度に優れるABSや扱いやすく耐熱性にも配慮したHT-PLAなどを用い、用途によって複数の素材を使い分けている。
仕上がりの質感や使用可能な温度、強度などを確認するため、MSTではさまざまな樹脂素材を実際にテストしている。そのため用途に合わせた素材選びができることも強みだ。
気になる成形時間も実用的だ。ツイーターリングなら15分程度で製作できるという。またMSTでは基本的に同じ3Dプリンターを2台ずつ用意しているため、左右のパーツを同時に製作することも可能だ。
車体側をスキャンしたデータと取り付けるパーツの3Dデータが完成したら、両者を組み合わせるデザイン処理もデジタル上で行う。Aピラーへの穴開け位置や取り付け角度などもデータ上で検討でき、完成イメージを画面上で3D表示できることも製作上の大きなメリットとなる。
3Dプリンターで作ったパーツと車両の内張などをドッキングさせる作業。ぴたりとフィットするので接着作業がメインになる。3Dプリンターによる成形が完了すると、純正内装との組み付け作業に移る。例えばAピラーへツイーターパネルを取り付ける場合には、データ上で設定した位置にAピラーの穴開け加工を施し、そこへ3Dプリンターで製作したパーツを取り付ける。
あらかじめデジタルデータ上で接合部分まで設計しているため、車体側のパネルと製作したパーツは高い精度でフィットする。基本的な接合は接着処理で済み、仕上げ精度を高めるため継ぎ目に薄くパテを施す程度だ。最後にレザーや生地などを張れば完成となる。
3Dプリンターで作ったパーツと車両の内張などをドッキングさせる作業。ぴたりとフィットするので接着作業がメインになる。このように3Dプリンターはカーオーディオのパーツ製作における新たな手法として活用が進んでいる。高い精度や再現性、軽量化といったメリットに加え、デザインの自由度が高いことも大きな魅力だ。カーオーディオのインストールクオリティをさらに高めたいユーザーにとって注目すべき技術といえるだろう。
今回は3Dプリンターを使ったカーオーディオパーツ製作の基本を紹介した。次回の後編ではツイーターパネルやバッフル、ドアへのミッドレンジ取り付け、センターコンソールのパネル加工など、実際のカーオーディオインストールで3Dプリンターがどのように活用されているのか、具体例を紹介していく。




