雨に濡れたダートをBMWの新型『F450GS』で駆け上がった。砂利を敷いた路面ではタイヤがしっかりと食いついてくれるが、ところどころに土を剥き出しにしたスリッピーな場所もあり、さらにガレた石が転がる区間もあるから油断はできない。
ところが、路面の変化に身構えるライダーをよそに、F450GSは淡々と前へ進んでいく。気がつけば、思っていた以上のペースになっている。
今回、筆者(青木タカオ)はF450GSのメディア向け試乗会に参加した。一般道だけでなく、オフロードコースも用意され、その走破性に対するBMWモトラッドジャパンの自信が伝わってくる。
◆足の長さだけでは測れない走破性
BMW F450GS GSトロフィー
試乗前の技術説明会でスペックを聞いたとき、正直「前後サスペンションのホイールトラベルは180mmでは短い。せめて200mmくらいは欲しい」と思った。
オフロードを積極的に走るアドベンチャーモデルとしては、少し物足りないのではないかと……。ところが実際にこうしてダートを走ってみると、その考えはあっさり覆された。
ゆったりとしたペースでギャップを越えていくと、サスペンションがしっとりと路面の凹凸を吸収する。フロントは路面をしっかりと追いかけ、リヤも突き上げを上手にいなしてくれる。
車体の挙動も安定しているので、もっと長いストロークを持つサスペンションなのではないかと錯覚するほどだ。低重心な車体は速度が上がっても不安を感じさせず、「もう少しアクセルを開けてみたい」と思わせるだけの安心感がある。
BMW F450GS GSトロフィー下りでも車体が大きく前後にピッチングすることはなく、バタバタと暴れるような素振りを見せない。大袈裟に言えば、路面に張り付いているかのような安定感を保ったまま、スムーズに進んでいく。
スピードを落とし切らずにタイトコーナーへ進入すると、リヤが軽く流れ出す。とはいえ、その動きは唐突ではない。テールがじわりと外へ流れていくため、ライダーには「まだ大丈夫」と思える余裕が残されている。
電子制御の秀逸さも効いている。走行モードを「ENDURO PRO」に設定しておけば、トラクションコントロールがさりげなく介入し、これ以上は流さないという安心感を与えてくれるから、慌てずに済む。
アクセルを戻すのか、それともさらに開けて前へ進ませるのか。ライダー自身に選択する余裕が残されている。
◆F450GSが教えてくれるGSワールド
BMW F450GS GSトロフィー今回、まるでアドベンチャーバイクの走らせ方を教えられているような感覚を味わった。というのも、これまで筆者はオフロードといえば小排気量で軽量なコンペティションモデルから乗り始め、競技用のモトクロッサーを複数台乗り継いできただけに、それを基準にした物差しで走破性を測ることが多かった。
車体を前後に大きくピッチングさせ、その動きをきっかけにライダーが積極的に重心を移動させながら操っていく。そんな走り方しか知らなかったと言っていいかもしれない。
オフロードモデルは足が長く、そして軽いほど走破性が高い。もちろん、それもひとつのセオリーに過ぎない。しかし、ビッグアドベンチャーには、それとは異なる走らせ方がある。
BMW F450GS GSトロフィー大排気量アドベンチャーも、これまでいろいろと試乗する機会をいただいてきた。それでも今回、F450GSに乗って、ようやく合点がいった。『R1300GS』などビッグアドベンチャーは、こうやって走らせればいいのかと、改めて見直すことができたのだ。
車体のピッチングをきっかけにライダーが積極的に動かすのではなく、乗り手は大きな車体の重心に構え、マシンが持っている走破性を効率よく引き出す。F450GSは、そんな走らせ方を自然に教えてくれる。
BMWが長年にわたって培ってきたGSの走りとは、こういうものなのかと気づかせてくれた。F450GSはまさに“GSワールド”のエントリーモデルと言っていい。
◆濡れた路面でも、ためらわず開けられる
BMW F450GSの直列2気筒エンジンクランクピン位相を135度に設定している新作の420cc水冷DOHC4バルブ直列2気筒エンジンは、程よいトルクフィールを生み出す。
唐突さのない扱いやすい出力特性は、アクセルを開け始めた瞬間から感じられる。低い回転域で早めにシフトしていっても、右手のグリップ操作に対してエンジンが素直についてくる。
4000rpmあたりまではパルス感が心地よく、そこからスロットルを開けて引っ張っていくと、滑らかな加速フィーリングへと変化していく。
パンチ力は控えめだが、アクセル開度と加速感がきれいにつながっている。ダートでもアスファルトでも、このリニアなドライバビリティーは大きな武器だ。
BMW F450GS GSトロフィー車体の安定感も相まって、濡れた路面でもスロットルを開けることを怖がらずに済む。
軽量なモトクロッサーなどでは、車体の姿勢を大きく乱したとき、アクセルを開けて瞬間的にダッシュさせ、姿勢を立て直してしまえる。F450GSも程度こそ違えど、穏やかなトルクフィールを活かして姿勢を立て直すような感覚が味わえた。
つまり扱いやすい特性ながら、必要なところでしっかりと駆動力が立ち上がるのだ。
◆数字以上に軽く、驚くほどコンパクト
BMW F450GS GSトロフィー車体の軽さも効いている。走行可能状態で178kgにまとめられた車体は、数字以上に軽く感じる。
シート高は845mmで、数値以上に足つきの良さが感じられる。踏ん張りが効くから、サイドスタンドから起こすときもスッと立ち上がり、走り出してからもエンジンや車体の重量がライダーにのしかかってくるような感覚がない。
低いノーズから燃料タンク、そしてシートへと続くボディも細身にまとめられている。大きさを感じさせないスタイルで、またがってしまうとかなりコンパクトに感じる。
R1300GSを頂点とするGSファミリーのデザインをしっかり受け継ぎながら、車体そのものは小さく軽く、そして扱いやすい。このパッケージングが、ダートでの安心感にもつながっている。
◆クラッチ操作から解放されるERC
F450GS GSトロフィーにはイージーライドクラッチ(ERC)が標準装備そして、F450GSで特に注目したいのが、GSトロフィーに標準装備されるイージーライドクラッチ(ERC)だ。これは発進から停止までクラッチレバーの操作を必要としないシステム。ただし、シフト操作そのものはライダーがおこなう。
R1300GSなどに採用されるASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)のような自動変速とは違う。その心臓部にあるのは遠心クラッチだ。
およそ2700rpmでクラッチがつながり、車体が前に進む。クラッチレバーも備えているので、必要な場面ではライダー自身が操作して介入することもできる。
最初は、アイドリング状態でクラッチレバーを握らず1速へ入れることに少し違和感があるかもしれない。しかし、これはホンダのEクラッチやヤマハのY-AMTでも感じたもの。実際にはすぐに慣れる。
イージーライドクラッチ(ERC)搭載車にもクラッチレバーを装備クラッチがつながる回転数は少し高めに設定されている。アクセルを恐る恐る開けていると、なかなか発進してくれない。特性を知って、ビシッとアクセルを開ければ、スッとクラッチがつながってスムーズに走り出せる。
走り出せば、シフトアシスタントプロによってペダル操作だけでアップ&ダウンできる。
停止するときもクラッチレバーを握る必要がない。坂道発進も、ダートの駐車場でのUターンもイージーだ。
クラッチ操作がなくなることで、単純に楽になるだけではない。ライダーがレバー操作に気を取られないぶん、アクセル、ブレーキ、車体のバランスといった別の操作に集中できる。
オフロードでは、このメリットがさらに大きい。しかも、半クラッチを使いたいときや、より繊細な操作が必要な場面では、ライダー自身がクラッチを操作できるのはありがたい。
◆小さくてもGSの血統は本物
BMW F450GS GSトロフィーF450GSは、R1300GSを頂点に『F900GS』、『F800GS』へと続くGSファミリーの末弟に位置する。エンジンはインドで生産され、BMWとTVSの協業によって生まれた420ccのパラレルツイン。従来の『G310GS』に代わる、新たなエントリーGSという立ち位置でもある。
ところが乗ってみると「エントリーモデル」という言葉から想像するような簡略化されたGSではないことがわかる。
6.5インチTFTメーター、6軸IMU、ライディングモード、クイックシフター、ワイドなエンデューロステップなど、装備はかなり充実していて、走りの次元が高い。
車体価格(税込)は、スタンダードとも言えるエクスクルーシブ(コスミック・ブラック)が96万1000円。スポーツ(レーシング・レッド)は98万4000円で、ERCまで標準装備されるレーシング・ブルー・メタリックのGSトロフィーでも103万3000円。戦略的といえる価格設定で、かなり魅力的だ。
BMW F450GSと青木タカオ氏青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。




