燃焼効率の向上が低燃費に貢献するという前回の話題から、今日はまだ実用化されていない近未来の燃焼効率向上技術のアイデアをうかがった。
●可変冷却システム
-----ガソリンエンジンの効率はまだ向上する余地があるんですね。
「可変冷却システムという技術が実用化されれば、さらにクルマは変化しますよ。市街地ではエンジンの温度を上げて、リーン(希薄燃焼)でも燃えやすくしておいて、ガソリンを節約する。高速道路を走るときには瞬間的にエンジンを冷やす。するとノッキング(異常燃焼の一種。エンジンの過熱などが原因で、プラグによる点火より先に自然着火してしまう現象)を防止できますから、点火時期をより理想に近づけることが出来る。結果、燃費が良くなるんです」
----------日産『ブルーバード・シルフィ』の2リットルエンジンは2系統冷却ですが、同じような効果を狙っていますよね。
「あれは2系統ですが、水温を変化させるシステムではありませんね。もっと速く、瞬間的に温度を変化させたいんです」
「それがなぜできないかというと、エンジンにも水にも熱容量があるからなんです。急に冷やそうにも時間がかかるんですね。例えば、日本だって冬至になったからって急に寒くなる訳じゃないでしょ? それはつまり、地球にも熱容量が存在するからなんです」
「それを解決するのが沸騰冷却という方法なんです。ラジエター内で気圧を変化させて、沸点を変えることで水温を強制的に変化させるんです」
-----なるほど。気圧によって沸点は変化しますからね。
「沸騰冷却システムによる熱伝達(沸騰熱伝達)は、現在のラジエターで冷やす方式(乱流熱伝達)のおよそ10倍もの熱容量があるんですよ。だからエンジンの温度管理を、素早く厳密にできるし、冷却システム自体もかなり小型化できますよ」
山の上でお湯を沸かすと、気圧が低いために100℃に達する前に沸騰してしまうことは良く知られている。その方法でエンジンの温度を管理するということか。実現はしばらく先であろうが、エンジンを大きく進化させる技術になるに違いない。
-----では、最後に、エンジンは今後どのような進化をすると考えられますか?
「まずは連続可変バルブタイミング、均一希薄燃焼、可変冷却システムで薄く、素早く燃やすエンジンに。最後にフリクションロスの問題があるんですが、これはエンジンの税金みたいなものですから、なくなりはしないでしょうね」
「それからもっと先の21世紀には、動力は非常に多様化して、私は『動力のカンブリア紀』って呼んでますけど、最後は効率の高い動力が生き残ると思います」
お昼をごちそうになりながら、林教授の少し早口で熱っぽいお話を聞いていると、エンジンにはまだまだ可能性が開けている気がして、目が覚めたような思いだった。
林義正(はやしよしまさ)工学博士
東京都生まれ。東海大学工学部教授。
日産自動車(株)で主にレーシングエンジンの開発に携わり、1994年より現職。
日本機械学会賞、自動車技術会賞、科学技術庁長官賞などを受賞。
著書:『エンジンチューニングを科学する』(グランプリ出版)ほか。