交通事故被害者の遺族が、事故後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥ったとして、加害者に対してこの部分の賠償も行うように求めていた裁判で、札幌高裁は25日、遺族側の主張を認め、この部分の損害200万円を追加した金額の支払いを命じる判決を言い渡した。交通事故の被害者本人でなく、遺族のPTSD症状を認める判決は今回が初めて。
訴因となった事故は1999年10月に発生した。札幌市豊平区内の市道で、横断歩道を渡っていた当時76歳の男性が交差点を右折してきたトラックにはねられ、収容先の病院で死亡したというもの。男性の妻と長女は、事故直後の男性の姿を思い出したり、事故による絶望感などで体調を崩し、心療内科に通院した結果、PTSD症状であると診断された。このため、男性が死亡したことに対しての慰謝料請求に、自分たちのPTSD症状についても賠償する責任があるとして、トラックの運転手と運送会社を相手に裁判を起こしていた。
一審の札幌地裁では、男性の死亡に関しての賠償請求は容認し、5000万円の請求に対して2000万円の支払いを命じる判決を言い渡したが、遺族のPTSD症状については「事故と関連性があるとは言い切れない」としてこの部分の請求を棄却する判断を行っていた。これを不服とする遺族側は控訴を行い、高裁での判断を求めていた。
25日の判決で札幌高裁の前島勝三裁判長は、PTSD症状であるという認定は避けたものの、「遺族2人については事故直後から精神的、身体的な不調が生じたと確認でき、事故と相当因果関係があると判断できる」として、2人に対する慰謝料200万円を含めた総額2200万円の支払いを認め、加害者に対しては既払い分を除く660万円の支払いを命じた。
事故が原因で被害者本人がPTSD症状を発し、慰謝料の増額理由とされるケースはこれまでにもあったが、事故後の遺族に発生した体調不良を認定するのは初めて。ただ、PTSD症状としての認定は微妙な形で避けており、今後の裁判でPTSD発症を名目とした同様の請求が頻発する事態を避けたという裁判官の配慮も見受けられる。