「未就労者の逸失利益」統一判断を最高裁は認めず---何を恐れた?

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最高裁判所・第三小法廷は9日、交通事故で死亡した女子児童の逸失利益の算定方法について判断を求められていた2件のケースについて、「最高裁で判断するに当たらない」として棄却し、二審判決で確定させたことを明らかにした。問題なのはこの2件がいずれも違う基準で算定されていたことで、原告側が求めていた統一基準判断が見送られる結果となった。

今回、最高裁での判断を求められた案件は、いずれも11歳の女子児童が交通事故によって死亡したというもの。当然ながら被害者は未就労であり、将来的に就労して稼ぐはずだった賃金分(逸失利益)の算定方法を巡り、事故の加害者側との紛争となっていた。

第一のケースは東京高裁で判断が下されたもので、裁判官は「性別だけで年少者の将来の収入を予測するのは合理的な理由のない差別」と指摘し、「高校卒業か、少なくとも義務教育の修了までは男女同一とすべきだ」という判断を行い、男女の平均賃金で算定をしている。

もう一つのケースも東京高裁が下したもので、こちらの裁判官は「男女の賃金格差が近い将来、解消するとは認められず、異なる遺失利益の算定は避けられない事態」と指摘、男女差別や不当とはいえないとして女性労働者の平均賃金で賠償額の算定を行った。

逸失利益の算定については、「被害者が実際に就労していた場合」は、手にしていた賃金と昇給ベースを元に算定するが、今回のように未就労者が被害に遭った場合には“賃金センサス”という平均値を使って算定を行う、しかし、この平均値も実は男性、男女、女性、特定年齢、全年齢、高卒、大卒などに区別されており、高卒女性労働者特定年齢の最低ベースで算定されてしまうと、大卒男女全年齢平均と比較した場合には、軽々と数千万円の差が生じてしまう。

今回の裁判は算定方法を統一する目的で行われたが、結果は事実上の門前払い判決となった。最高裁も男女の賃金格差があるという実態から“逃げた”形だ。これらのケースは個々に上告されたもので、判断も個々に出されているが、類似案件であると判断で内部的には合議対象となっていたという経緯がある。それだけに何らかの統一判断が下されるのではないかという期待もあったが、結果は肩すかしに終わっている。

最高裁としては、ここで賃金格差が生じさせないことを認めてしまうと、他の労働問題訴訟のときに問題化するのを恐れたのかもしれないが、一定の判断を行わないかぎり、同様の問題は今後も頻発する可能性が高い。

《石田真一》

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