「父が死亡したのは交通事故が原因というより、事故で死亡したと勘違いした警察官が現場に1時間半も放置したから」として、熊本県(県警)を相手に約1250万円の賠償請求を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が23日、熊本地裁で行なわれた。県警側の代理人(弁護士)は「死亡の責任は交通事故当事者に求めるべき」として請求棄却を求める答弁を行なっている。
訴因となった事故は昨年10月11日の午前4時25分、熊本県水俣市内の国道3号線で発生した。鮮魚店を経営する78歳の男性が交差点で酒気帯び運転の乗用車にはねられるという事故が起きた。通報を受け、事故現場に水俣警察署交通課の35歳巡査部長が到着した際には、男性は頭から血を流して路上に倒れており、警官の呼びかけにも応じなかった。このため巡査部長は男性が「事故によって即死した」と判断し、男性の体にビニールシートを掛けた状態で現場検証などを始めた。
ところが午前6時になり、検死資格のある51歳警部がビニールシートを外したところ、男性が呼吸していることに気づいた。このため、すぐに救急車を呼んで病院に搬送したが、同日の午前10時すぎに脳挫傷が原因で死亡している。
事故直後から男性の遺族は「事故現場に警官が到着した段階で病院に搬送していれば助かった可能性が高い」として県警に陳謝を要求してきた。これを受け、県警では被害者を放置して事故処理を行なった巡査部長を本部長訓戒とする内部処分を行い、さらには業務上過失致死の疑いで書類送検している。だが、昨年12月に嫌疑不十分で不起訴となったことを不服とした遺族が民事訴訟で争うことを決め、熊本地裁に提訴していた。
23日に行なわれた第1回口頭弁論で、県警側の代理人は「現場で死亡と即断したミスは認めるが、その過失が原因で死亡したとは言えない。事故の責任は酒気帯び運転をして、男性をはねた運転者にある」という内容の答弁書を提出し、請求棄却を求めた。
警察官が事故の被害者を見落とすというトラブルは、2001年2月に福島県で起きたものを含め、これまでに数件が発生している。また、これとは別にクルマに事故の形跡があるにも関わらず、運転席に座っていた被害者を「寝ている」と判断して引き上げたため、死亡させてしまった可能性が高いという案件は横浜地裁で現在審議が続いている。様々な現場を見ているため、「この程度なら大丈夫」という思い込みはベテランであるほど強いようだ。