高速道路の走行方法を巡るトラブルでケンカとなり、携帯電話のアンテナ部分(長さ2cm)で胸を突いたことが原因で相手を死亡させたとして、傷害致死罪に問われていた43歳の会社員に対し、山口地裁下関支部は携帯電話で相手の胸を突いたという行為に殺意は無かったと認定し、「正当防衛が成立する」として無罪とする判決を言い渡した。
判決によると、問題の事件は昨年10月10日の午後4時40分ごろ起きた。中国自動車道を走っていたトラックと乗用車が進路を巡るトラブルとなった。トラックが執拗に煽るなど危険な行為を続けたため、乗用車のドライバーは王司パーキングエリア内に逃げ込んだが、トラックはこれに追従。やがてドライバー同士でもみあいとなり、会社員はポケットに入れていた携帯電話で相手の胸を突いた。ところがこの直後、トラックの運転手は胸の痛みを訴えて倒れ、収容先の病院で1時間30分後に死亡した。
死因は心タンポナーデという特殊なもので、外部からの強い衝撃によって心臓と心膜の間に血液が蓄積されて心臓を圧迫。やがて停止してしまうというもの。携帯電話のアンテナを胸に突き刺したことによる衝撃が原因で起きたとされ、会社員は傷害致死容疑で逮捕されていた。
4日の判決で山口地裁下関支部の並木正男裁判長は、会社員や目撃者の話から「先に手を出したのはトラック運転手だった」と判断。さらに「パーキングエリアまで追跡してくるなど、逆上していたのはトラック運転手であることは間違いない」として、トラブルがトラック運転手側が発端であることを認定した。その上で「相手の攻撃から逃れようと、ポケットから出した携帯電話を突きつけたのは防衛上やむをえない行為。携帯電話のアンテナを使って積極的に相手を殺害しようという意思は被告に無く、ただ防御あるのみだった」と判断。会社員に無罪の判決を言い渡した。
検察側はこの事件で「携帯電話を武器のひとつとして、相手を傷つける意思はあった」として、懲役3年6カ月の求刑を行っていたが、裁判官は「携帯電話のアンテナは武器にあらず」と判断したようだ。