交通事故で下半身不随となった24歳の女性が加害者側を相手取り、介助犬の取得費用や維持費など総額2億6165万円の支払いを求めて争った民事訴訟の判決が21日、岐阜地裁で行われた。裁判官は後遺障害に関連した逸失利益の支払いは認めたものの、「事故当時、介助犬は一般的でなかった」としてこの部分の支払いを退けた。
問題の事故は1998年1月3日に起きている。当時18歳の女性が家族と親戚宅に出かけた際、乗っていたワゴン車が乗用車に側面衝突されて横転。女性は首の骨を折るなどして一時意識不明の重傷を負い、この事故が原因で下半身不随となった。
女性は1999年、日本介助犬トレーニングセンターから介助犬「アトム」の貸与を受け、以後はアトムの介助の元で生活を共にしている。介助犬とは手足が自由に動かない人の動作介助を行なうもので、車いすを引いたり、落としたものを拾ったり、ドアの開閉を補助するなど、様々な場面で活躍する訓練を受けた犬のことを指す。
女性は事故を起こした男性に対し、生涯に飼うと算定する9匹の介助犬の取得・訓練費用と、食事などの維持費380万円を含む、総額2億6165万円の損害賠償請求を岐阜地裁に起していた。加害者男性の加入する保険会社はこれまでに治療費として約4800万円の支払いを行っていることからこれを拒否。裁判所に対しては請求の棄却を求めていた。
21日の判決で岐阜地裁の林道春裁判官は、後遺障害についての慰謝料や逸失利益など約1億6577万円の部分については「請求に整合性がある」として認めた。しかし介助犬の取得費用については「介助犬の存在が原告にとって有益であることは認定するものの、事故当時は介助犬というものが一般的ではなく、この部分についての請求は認められない」とした。そして380万円の部分については原告の請求を棄却している。
介助犬については昨年10月に「身体障害者補助犬法」が施行され、育成や訓練の制度が正式に認められたほか、これまでは盲導犬などにしか認められていない公共交通機関への同伴が可能になっている。アメリカなどでは1000頭以上の介助犬が存在していると言われているが、日本にはアトムを含め、現時点では14頭しかいない。