交通事故被害者の遺族が喪服を着た状態で裁判を傍聴しようとしたことに対して裁判官が不快感を示し、裁判官の職権で一方的に期日を延期していた刑事裁判の公判が25日に福井地裁で開かれた。遺族は前回とほぼ同じ服装で、裁判官も同じだったが、今回は被告弁護人との協議が事前に行われており、問題視されずに済んだ。
遺族の喪服着用を巡るトラブルは今年7月9日に福井地裁で起きた。昨年5月、北陸自動車道で77歳の男性が運転する乗用車に追突し、この男性を死亡させたことで業務上過失致死罪に問われた26歳の男に対する公判。
男性の遺族など5人が喪服を着た状態で裁判を傍聴しようとしたところ、58歳の裁判官が「この問題については持ち帰って判断したい」と告げ、一時休廷とした。
その後、再び法廷に現れた裁判官は遺族に対して「それは喪服ですか?」と尋ね、この質問に遺族が頷くと、裁判官は「正常な審理ができない。今日の行われる予定の公判は延期します」と職権で一方的に期日を延期、そのまま閉廷してしまった。
後に検察側から「裁判官は喪服姿で傍聴しようとしたことに不快感を感じたようだ」と説明された遺族側は激怒。検察側に対して「遺族感情を無視している。裁判官にそうお伝えください」と抗議の意思があることを強調した。
遺族側は延期された公判も喪服で傍聴すると主張したが、検察側から説得されたこともあり、結局は遺族4人のうち1人が黒いスーツで、遺族の友人など5人が黒系の服で傍聴した。被告側の弁護人も「遺族が喪服を着ていたとしても被告人の心理に影響はない」という方向で裁判所と事前の協議をしており、25日の公判は予定通り行われた。
裁判官には訴訟指揮権があり、傍聴者の行動に不快感を感じたり、訴訟進行の妨害になると判断された場合には退廷を命じたり、裁判の延期を行うことも可能だ。裁判所自体のルールではなく、裁判官の判断が優先される。
しかし、現在は遺族側の主張をほぼ受け入れる形で傍聴を許すという風潮にあり、法廷内に遺影を持ち込むことなども認められるケースが増えている。今回の「喪服に不快感を感じて公判延期」という措置はこうした流れに逆行するといえる。