神奈川県警は17日、今年8月末に横浜市神奈川区に住む男性に掛かってきた、いわゆる「おれおれ詐欺」の電話通話を録音したテープを公開した。警察官を装い、数分間に渡って示談を持ちかけるというもの。
警察では類似案件阻止を目的に、録音した男性の了解を得て今回の公開に踏み切った。
これは神奈川県警・神奈川署が公開した。問題の電話は今年8月26日の正午ごろ、横浜市神奈川区に住む66歳の男性に宛てて掛かってきた。
電話を掛けてきた人物は警察官を装っており、「川崎市宮前区けやき平1丁目で息子さんがクルマ同士の接触事故を起こした」と話を切り出した。
男性は「息子は免許を持っているが、クルマの運転はしない」と答えると、警官を装った男は「その辺の事情は知らないが事故は起きた」とそれを遮って話を続けた。
そして事故が第1車線から第2車線への車線変更中に起きたこと。クルマの右前部が相手車両の助手席部分を直撃し、シートベルトを着用していなかった妊娠8カ月の女性が負傷して病院に搬送されたことなどを告げた。
男性がそのまま話を聞いていると、警官を装った男は「息子さんは安全運転義務違反と危険運転致死傷罪、業務上過失致傷で立件され、交通刑務所に半年以上、2年以内の服役をすることになってしまう」と強調。
「この場で示談すれば人身事故ではなく、物損事故として処理する」と持ちかけ、示談をするように迫った。
さすがに怪しいと思った男性は「妻に相談したい」と提案したが、男は「本人が母親に話して欲しくないと言っているし、あなた自身も罪に問われることになる」と必死で食い下がった。
それでも男性が「相談してから決める」と言い続けると、男は「息子さんには交通刑務所に行ってもらいますから」といって電話を切ったという。
男性は目が不自由でメモが取れないため、普段から全部の電話を録音しているが、これによってこれまで明るみに出なかった、いわゆる「おれおれ詐欺」の手口が明らかになった。
言うまでもないが、警察官は逮捕・送検することはできるが起訴することも判決を出すこともできない。そして民事不介入の原則があるため、示談に加担することもありえない。
また、今回の電話では男が様々な専門用語を含めた会話を展開している。
罪状の部分もそのひとつだが、危険運転罪と業務上過失は排他適用が原則であり、どちらかひとつしか適用されない。そして泥酔状態か薬物使用、著しい速度超過など、運転者の故意で生じた危険行為が無ければ危険運転罪が適用されることもない。
今回の場合、誰も死亡していないにも関わらず「危険運転致死傷罪」としているのも大きな誤りといえる。
テープの公開に踏み切った同署では「あらかじめ台本が作成され、それを何度も読み込んでいるような完熟ぶりを感じさせる。現場の警察官でもここまでスラスラと説明するのは難しい」とコメント、おれおれ詐欺が規模の大きな組織的犯罪に発展している可能性も指摘している。