【AutoStanding】困りごとを並べて商品・サービス開発

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日本駐車場開発がバレーパーキングサービスを開始

バレーパーキングとは、高級ホテルやレストランで見掛けるサービスで、入り口にいる係りの人に車を預けると、その係りが所定の位置に駐車をしてくれるというサービスである。顧客は自家用車で行けば必ず発生する駐車という行為を行わず、ホテルでのチェックインやレストランで料理のテーブルに着くことができる。

今回、日本駐車場開発は東京都心部にある高級ブランド店に訪れる買い物客の車を店舗の前で預かり、近隣の駐車場へ駐車し、顧客から連絡がくれば店頭まで届けるというサービスを開始した。料金は3時間で2000 円とのことである。

日本駐車場開発の本業は貸し駐車場運営であり、バレーパーキングを行う目的は、駐車場の稼働率を上げる術を持つことで新たな駐車場オーナーを獲得することと、既存の駐車場をオーナーを囲い込むことと考えられる。

日本駐車場開発にとって駐車場オーナーは顧客である(法的な関係では仕入先となるかもしれないが、駐車場オーナーの駐車料金の一部を収入とするモデルというビジネス上の関係を見ると、フランチャイザーとフランチャイジーの関係だと考える)。つまり、バレーパーキングは新規顧客の獲得や既存顧客を囲い込むためのサービスである。以降では今回の事例で学べることを考えていきたい。

◆今回の事例から学べること

1.顧客の顧客を共有する第三者を見付ける

日本駐車場開発にとって、顧客とは前述したように駐車場オーナーである。そして顧客の顧客とは駐車場を利用する買い物客である。

顧客(=駐車場オーナー)の行動様式は、駐車場を利用するお客さんが来るまでじっとひたすた待つスタイルである。そして困りごとは、(大通りにある大型の駐車場は満車なのに)裏通りにある3台分しかない自分の駐車場はいつも空車で、しかも打つ手がないことである。

顧客の顧客(=買い物客)の行動様式は、東京都心部で例えれば銀座までわざわざ買い物をしに、(駐車場代も掛かるし電車もあるのに)車に車に乗って来る人たちである。そして困りごとは、銀座に来てみると駐車違反取り締まり強化の影響もあり、駐車場が一杯でなかなか店舗にたどり着けないで、しかも解決策がないことである。

日本駐車場開発は、最初にこの二つを認識し、自分が解決できるかどうかを考えたと思われる。

上記1.の問題を日本駐車場開発が自分で解決する方法はいくつかある。

例えば、コールセンターを設けて空いている契約駐車場を電話案内してあげる、街中に巨大なカンバンを立てて契約駐車場の存在を認知してもらう、銀座に買い物に来そうな田園調布にチラシをまいて契約駐車場の位置を知らしめる、街中に自社の従業員を立たせてバレーサービスを行なう、そもそも裏路地ではなく銀座のど真ん中に大型の契約駐車場を確保する、などが考えられる。

しかし、コールセンターはともかく空き駐車場情報を管理するシステムは投資が巨大だし、巨大なカンバンを立てることは中央区が許可しないだろう。チラシは田園調布といっても広いし、毎週やらないといけないし、銀座に来るのは田園調布の客だけではないからきりがない。週末に街中に立たせるための従業員数を確保するのも大変だし、駐車場から遠いところで車を拾ってしまうと返すのもまた大変になる。銀座の一等地に敷地を持つ地主は駐車場にしようと考えるはずもないから、ど真ん中に契約駐車場を確保することはそもそも考え難い。

そう考えると、顧客の顧客(買い物客)が行きそうなところを特定し、そこを集客・納車ポイントに定めたと思われる。つまり、そこが高級ブランド店だったのだろう。

2.困りごとを並べる

顧客の顧客を共有する第3者(高級ブランド店)は、富裕層を顧客にしているので、車での来店比率は高いと考えられる。しかし高い費用を払い一等地に店を構えているので少しでもスペースがあれば店舗として使いたい。だから、お客のことを考えれば自らがバレーサービスを提供することも考えられるが、どこに駐車場があるを知らないから手が出ないことが困りごとである。

つまり以下のように整理できる。

●顧客(駐車場オーナー)
行動様式:駐車場を保持しているが待ちの姿勢
困りごと:お客がこないが打ち手がない
●顧客の顧客(高級ブランド店の買い物客)
行動様式:買い物は車で来たい
困りごと:空いた駐車場を見つけられないが打ち手がない
●顧客の顧客を共有する第3者(高級ブランド店)
行動様式:スペースは店舗として使いたい 
困りごと:駐車場を持つ余裕はないが打ち手がない

3.自社が中心となって、各々の困りごとを解決できないかを探る

3者を繋げると、各々の困りごとを解消できることが確認できる。つまり WIN-WIN-WIN な関係が構築できるのである。そして結果として 3 者を繋ぐ線がバレーパーキングだったと考えられる。

◆検証

今回の事例から学べる商品・サービス開発で考慮することは以下である。

1.顧客と、顧客の顧客の行動様式から顧客の顧客を共有する第三者を見付ける
2.顧客と、顧客の顧客と、顧客の顧客を共有する第3者の困りごとを並べる
3.自社が中心となって、各々の困りごとを解決できないかを探る

それでは上記のプロセスは商品・サービス開発全般に汎用的に言えることであろうか。筆者の身近にある例で考えてみた。

<エディア「ラーメンの達人」>

「ラーメンの達人」はカーナビや携帯電話のコンテンツで、全国2万件のラーメン店を位置情報付きで保持しており、現在地周辺のラーメン店が検索できる。さらに掲示板、投稿、ランキング、口コミ情報等を得ることができる。

なお商品名は納入先により異なる。トヨタ向けは「ラーメンの達人」、日産向けは「厳選ラーメン情報」、携帯各社向けは「超ラーメンナビ」。

1.顧客と、顧客の顧客の行動様式と困りごとを知る

トヨタを例に取ると顧客、顧客の顧客の関係はトヨタ、トヨタ車ユーザーとなる。

トヨタは、トヨタ車ユーザーが車で美味しいラーメン屋に行きたいことは知っていて、美味しいラーメン屋に誘導できる車を作れば売れると考えている。困りごとは、どこに美味しいラーメン屋があるか知らないことである。

トヨタ車ユーザーは、車を買ったので美味しいラーメン屋に行きたいと考えている。困りごとは、車はどこに美味しいラーメン屋があるか教えてくれないから、ガイドブックを購入しカーナビに住所を入れて検索する手間が掛かることである。

そして顧客の顧客を共有する第3 者はラーメン屋だと分かる。

2.顧客と、顧客の顧客と、顧客の顧客を共有する第3者の困りごとを並べる

●顧客(トヨタ)
行動様式:美味しいラーメン屋に誘導できる車を作りたい
困りごと:どこに美味しいラーメン屋があるか知らない
●顧客の顧客(トヨタ車ユーザー)
行動様式:美味しいラーメン屋に車で行きたい
困りごと:カーナビに目当てのラーメン屋を登録するのが手間である
●顧客の顧客を共有する第3者(ラーメン屋)
行動様式:美味しいラーメンを作っている
困りごと:自らお客を集めるマーケティング力はない

3.自社が中心となって、各々の困りごとを解決できないかを探る

3者を繋げると、各々の悩みを解消できることが確認できる。そこでエディアが美味しいラーメン屋情報を集めてコンテンツとして加工しカーナビに情報提供する商品を開発した。

<住商ポケットファイナンス「残債すっきりローン」>

「残債すっきりローン」はローン期間中の車を売る時に、買取査定金額がローンの残債を下回った場合にその差額分をファイナンスする商品である。

●顧客(ガリバーなどの買取店)
行動様式:車を買取たい(ローン期間中の車は高年式の車が多い)
困りごと:買取査定金額をこれ以上上げられない
●顧客の顧客(車を売る人)
行動様式:車を売りたい(ローン期間中に車を売る人は資金ニーズがある)
困りごと:ローンの残債との差額は支払えない
●顧客の顧客を共有する第3者(金融機関)
行動様式:金融商品を売りたい
困りごと:資金ニーズを取り込みたいが、なかなか取り込めない

そこで住商ポケットファイナンスは、買取査定金額と残債の差額をファイナンスする金融商品を開発した。

上記の 1-2-3 が商品開発において一定の有効性を持つと言えるのではないだろうか。

◆まとめ

上記にあげた事例はいずれもドメインを絞り込み専門性の高さを売りにする企業である。そういう特化型の事業が求められる時代であるが、その反面、顧客の多様なニーズや課題に答えられないという弱みがある。

そうした場合に上記 1-2-3 の商品開発アプローチは、アライアンス検討に有効で自社の強みが発揮できるをポジションを明確にしてくれるのだと思われる。

技術力や専門性の高さを売りにする企業で開発した商品・サービスが想定どおりの結果を生んでいない場合には、 1-2-3  のプロセスのどこかに問題がある可能性もあるから、チェックしてみてはどうだろうか。

《》

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