クルマが激変する中、クルマづくりの環境も変わってきている。新型ホンダ『オデッセイ』の開発責任者を務めた本田技術研究所四輪開発センター、LPL、主任研究員の五十嵐則夫氏にクルマづくりの現場を支える人材について聞いた。
——日本では今日、少子高齢化や消費動向の変化によって、商品としてのクルマのプライオリティが低下していると言われています。そういう状況のなかで、新車開発の現場でも意識は変わってきているのでしょうか。
五十嵐 自動車産業はグローバル産業ですから、日本市場だけで将来性は語れませんが、日本市場でクルマへの関心が薄れるのは良くないと思っています。クルマに関心を持つ人が多ければ、クルマを作ってみたいと思う人もそれだけ多くなるということですから。
自動車メーカーを外から見た印象はともかく、開発の現場では私をはじめスタッフの多くがクルマ作りは楽しいと思っていますよ。もちろん大変なことも多いですが、クルマに興味があって、自分でも作ってみたいと思う人には、私は何のためらいもなくやってみることをお勧めします。
——自動車の開発の面白さは、具体的にどのようなところにあるのでしょうか。
五十嵐 クルマは機械、電気、化学、各種材料から情報通信、シミュレーションまで、多様な技術の集大成です。それら先端技術を幅広く手がける一方で、いいクルマに仕上げるためには、人間の感覚を用いた入念なチューニングが欠かせないという面もあるんです。
もちろん設計はCAEでシミュレーションすることで行いますし、感覚の数値化なども進めていますが、それでもやっぱり最後は人間。現場ではいろいろな特性の部品を取っ替え引っ替えして、ああでもないこうでもないと一生懸命チューニングして、これだと思えるモノを出します。自動車関連技術、またクルマという商品に興味がある人にとっては、やりがいを感じることができる仕事だと思います。
——本田技術研究所では、新卒採用ばかりでなく、中途採用も積極的に行っていますね。
五十嵐 はい。ホンダは環境、安全、情報通信をはじめ、クルマ作りに必要な技術の開発を自力でやることにこだわりを持っている会社です。開発力を高めていくうえで、非常に大切なのが“外の血”なんですね。
本田技術研究所という一種のファミリーの中にいると、子は親の顔を見て育つという例えもありますが、どうしても似たようなタイプのエンジニアばかりになってしまう。そういうところに、全く違うカラーの技術や経験を持った人材が入ってくると、大いに刺激になるんですよ。
——今、自動車業界ではどういう人材が求められているのでしょうか。
五十嵐 企業によって違う部分もあるでしょうが、まず大前提としては、クルマが好きであることだと思います。また、技術開発に対する思い入れや熱意を持っていること。
単に目の前の課題をこなすのではなく、自分の技術をCO2低減やクルマの高性能化、省資源化などを実現させるうえで、どう使っていけるのかといったイメージを持てる人なら、十分やれます。ハイブリッドカーや燃料電池車など、ガソリンから電気エネルギーへの転換が進み始めていることに象徴されるように、自動車関連の技術は今、大きな転換期を迎えています。自動車工学に精通していなければクルマ作りには関われないという時代ではありません。
バックボーンとなる工学知識や見識を持っていて、新しいことに積極的にチャレンジできるエンジニアなら、大いに歓迎されるでしょう。