【池原照雄の単眼複眼】「派遣」なくても製造業はやっていける

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【池原照雄の単眼複眼】「派遣」なくても製造業はやっていける
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期間従業員という伝統的な形態

派遣労働者の大量解雇を機に、製造現場への派遣に対する規制の是非が論議されている。産業界では「性急な見直し」は失業者の増大を招くなど、規制への反対の声が強い。だが、派遣労働が禁止されても、非正規雇用については期間従業員という伝統的な形態がある。

自動車業界では正社員への登用など、期間従業員制度を適切に運用してきた企業もある。もともと製造現場への派遣労働はなかったわけだから、禁止されても期間従業員が受け皿となり、大きな混乱は生じない。3年程度の経過措置を講じながら製造現場への派遣労働は、かつてのように規制すべきだ。

製造現場への派遣は、派遣労働の規制緩和の総仕上げとして2004年に解禁となった。金融危機をきっかけに大量の派遣切りが表面化したが、今なお約46万人が従事しているという。規制反対派は、禁止すれば大量の人が失業するという。しかし、同じ派遣先での就労は「3年」が限度と定められているため、こうした人々もやがては派遣先の変更を迫られる。

◆モノづくり現場の弱体化も

これでは不安定な就労の繰り返しである。製造現場への派遣が禁止されても、景気が回復して人手が足りなくなれば、企業は人材を確保せざるを得ないのだから、雇用も回復に向かう。その際、企業はすべて正社員としなくても期間従業員という受け皿がある。

非正規雇用の増大という問題の本質的な解決にはなり得なくても、派遣ではなく企業が直接雇用する期間従業員制度は、待遇の面でも労働者にはベターな働き方になる。大体、製造現場に日本企業の強さの源泉があるのに、そこで働く人を直接雇用せずに労務管理までアウトソーシングしてきたこと自体、おかしな話だ。

日本の社会に較差を生み出しただけでなく、長い目でみればモノづくり現場の弱体化も来たすであろう。自動車業界でも04年の規制緩和後、期間従業員よりも派遣従業員を起用する動きが、短期間で広がっていた。世界同時不況で、そうしたひずみが表面化したことを、明日への改善につなげる好機とすべきだろう。

◆5年で4700人を正社員に登用したトヨタ

いすゞ自動車のように、期間従業員についても契約期限前に解雇しようとする動き(その後、期間内の給与を減額して補償)もあったが、自動車業界は基本的には期間従業員の処遇に留意してきた。一定期間勤めた人を中途採用によって正社員に登用する取り組みもそのひとつだ。

本体では製造現場への派遣は採用せず、期間従業員に絞っているトヨタ自動車は、1970年代からそうした労務政策できた。非正規雇用とはいえ「間違いなく当社の成長を支えてくれる人々」(木下光男副社長)だからだ。

高水準の生産が続いたここ数年は期間従業員が1万人を突破する時期もあったため、正社員への登用数も増えた。04年度から08年度までの5年間で、その数は4710人に及ぶ(08年度は計画数)。

そのトヨタも今年度末までには、契約期間の満了による雇い止めで期間従業員を3000人規模まで減らす計画だ。当面は正社員への登用も激減することになるが、いつまでもこうした状況が続くわけではない。その時、産業界はトヨタの取り組みを参考に、製造現場での「脱派遣」に動いてもらいたいものだ。

《池原照雄》

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