【VW ID.4 4000km試乗】「VWらしさ爆裂」さすがの長距離性能、BEVとしての魅力は[前編]

フォルクスワーゲンID.4のフロントビュー。形状はBEVであることをほとんど意識させない。
フォルクスワーゲンID.4のフロントビュー。形状はBEVであることをほとんど意識させない。全 28 枚

フォルクスワーゲン(VW)のBEV(バッテリー式電気自動車)『ID.4』を4000kmあまりロードテストする機会を得たのでレビューをお届けする。

【画像】4000kmを走ったVW ID.4

ID.4は本拠地ヨーロッパ市場では2021年にデビューしたコンパクトクラス(日本ではミッドサイズ)のクロスオーバーモデル。同社のエンジン車では『ティグアン』に相当する車格である。車体サイズは全長4585×全幅1850×全高1640mmと、一般的なコンパクトクラスSUVに比べてルーフが若干低め。そのぶん空力特性はCd値0.28と、ティグアンの同0.31より優れた数値となっている。

駆動方式はリアモーター式のRWD(後輪駆動)。ヨーロッパでは前輪にも電気モーターを配した電動AWD(4輪駆動)もあるが、本稿執筆時点では日本には導入されていない。短距離型「Lite」と長距離型「Pro」の2グレード構成で、バッテリーパック容量は前者が55kWh(ユーザブル52kWh)、後者が82kWh(ユーザブル77kWh)。

動力用電気モーターの型式は両者共通だが、バッテリーの放電能力の違いにより最高出力は前者が125kW(170ps)、後者が150kW(204ps)と異なる。本国モデルは昨年最高出力210kW(286ps)のものに換装されており、日本モデルもそのうちバージョンアップされる可能性がある。

ID.4のサイドビュー。背景は桜島。ID.4のサイドビュー。背景は桜島。

消費税込み価格はLiteが514万2000円、Proが648万8000円。ID.4は基本的にオプション装備がないオールインワン仕様。とりわけProはグラストップや12スピーカーオーディオなどの豪華アイテムも標準で備わるためティグアンとの実勢価格差はごく小さい。エレクトリックとICE(内燃機関)を同水準の価格としたのはBEVの販売が難しい日本市場を何とか攻略しようというフォルクスワーゲンの苦肉の策と考えられる。

ロードテスト車は長距離型のPro。試乗ルートは東京~鹿児島周遊で総走行距離は4077.1km。オールオーバーの道路比率は市街地2、自動車専用道路や山岳路を含む郊外路7、有料高速1。試乗時の環境は高温。エアコン常時AUTO。

レビューの前にID.4の長所と短所を5つずつ挙げてみる。

■長所
1. 重装甲に守られているような安心感のあるライドフィール
2. 十分な航続力と専用の超高速充電網の合わせ技で高い機動力を発揮
3. 車体寸法のわりに小回りが利き、狭い田舎道も結構行ける
4. 大容量コンソールボックスを備えるなど長距離ドライブ時の使い勝手がいい
5. 前後席ともシートの機能性が高く疲労が少ない

■短所
1. BEVならではの刺激性や華に欠ける
2. 日本仕様は充電電流が最大250Aに制限されている
3. もう一息伸びてほしい平均電力量消費率
4. 路面のザラザラ感カットなどの動的質感は期待値に及ばず
5. 自重が大きいためかドライブフィールは重々しい

◆総評

ID.4のプラットフォームはBEV専用だが、ボンネットフード下は補器類で満員状態で、フランク(前部収納スペース)はない。ID.4のプラットフォームはBEV専用だが、ボンネットフード下は補器類で満員状態で、フランク(前部収納スペース)はない。

ではレビューに入っていこう。ID.4は長距離移動への適合性については大変良好で、VWの面目躍如。一方でBEVならではの高性能感や刺激性は希薄で何とも地味と、こちらの面でもVWらしさ爆裂というクルマだった。

運転のしやすさ、疲れにくさ、操縦安定性の高さ、優秀な小回り性能などハードウェアは実によく練り込まれており、長距離走行時のストレスは小さかった。とりわけ加速時の出力制御や回生協調ブレーキのチューニングに関してはBEVにありがちな独特の挙動を徹底的に潰しにかかっているとみえて、違和感を覚えることがほとんどなかった。

クルマとしてのフィールはボディシェルの隔壁を強く意識させるガッチリ型で、その点も重厚なフィールを好むドイツのユーザーをメインターゲットとするVWらしさを感じさせるものだった。車内は前後席、ラゲッジスペースのバランスが良く、4名乗車での遠出、大荷物を積んでのレジャーなど、幅広く使えそうだった。

一方、電気的な能力はそれほど高いものではない。航続力はこのクラスとしては十分なものだったが、最高出力150kW(204ps)は2140kgの車重を爆速で走らせるほどのものではなく、0-100km/h加速では7秒台には入らなかった。急速充電受け入れ性も日本のCHAdeMO規格に適合させるためか欧州版や米国版より低く、最大電流は250A、受電電力のピークは94kWにとどまった。同じクラスの大容量バッテリーモデル、日産自動車『アリアB9 e-4ORCE』がピーク129kWだったのに比べると見劣りした。

高速道路や主街道から大きく外れ、熊本~宮崎県境の肥薩線沿線の山道を行く。高速道路や主街道から大きく外れ、熊本~宮崎県境の肥薩線沿線の山道を行く。

ところが長距離ドライブをやってみると、充電受け入れ性は大きなネガにはならなかった。それは会員制充電サービス「PCA(プレミアムチャージングアライアンス)」の存在によるところが大きい。PCAはVW、アウディ、ポルシェの主要ディーラーに設置された最大電流350A(公称出力150kW)もしくは最大電流200A(同90kW)で構成されるネットワークで、それを低廉な会員価格で使えるのはVW、アウディ、ポルシェのみ。

BEVを駆っての長旅においてディーラーに大容量バッテリー車の性能に見合う高速型の充電器があり、30分で42~45kWhの投入電力量を安定して確保できるというのは実に有り難いもので、ドライブを大いに気楽なものにした。そのPCAを最も安い車両価格で使えるということは、日本におけるID.4のバリューの3割くらいを占めているように感じられた。

このように長距離移動体としては実にVWらしい堅実な仕上がりぶりを見せたID.4だが、日本市場ではその堅実ぶりが弱点にもなっているように思われた。世界のライバル、特に中国、韓国といったアジア勢の同クラスのクロスオーバーモデルと比較するとBEVならではの華、刺激性に欠ける。乗る人をびっくりさせるような加速力があるわけではないし、内外装のデザインもオーソドックスそのもので、BEVであることを強烈に主張するようなものではない。

母国ドイツではID.4はカンパニーカー(企業が従業員に福利厚生の一環として低廉なコストで貸し出すクルマ)需要に応えるという使命を負っているため、この地味さ、目立たなさこそが必要とされている。企業にとってはカンパニーカーをBEVにすると節税効果を得られるため、導入メリットも大きい。

が、BEVを買うメリットが限られる日本であえて高価なBEVを選択するユーザーは、クルマとしてのまっとうさだけでなく、BEVならではのプラスアルファを求める傾向が強い。そのプラスアルファを何らかの形で加えられれば、全長4.6m級クロスオーバーBEVとしては比較的リーズナブルな価格で良好なテイストとグラストップを含む高レベルの装備が手に入り、PCA会員への加入の権利も得られるというメリットが俄然生きてくると思う。

◆シャシー性能(操縦安定性、取り回し、乗り心地)

ID.4のリアビュー。全高は同クラスのエンジン車「ティグアン」より低く、空力特性に優れる。ID.4のリアビュー。全高は同クラスのエンジン車「ティグアン」より低く、空力特性に優れる。

要素別に深掘りしていこう。まずは走りの性能や質感、乗り心地についてだが、全般的に大変質の高いものに仕上げられており、長距離ドライブ時に忍耐力を要求されるようなことはほとんどなかった。

走り味は徹底した安定志向。今日においては車重を感じさせないような敏捷な走りに仕立てるというのが重量級モデルのチューニングの主流になっているが、ID.4のセッティングはそれと一線を画したもので、ステアリングの応答性を意図的に弱め、舗装面の荒れや水たまり、横風など外乱の影響に左右されずばく進するというテイストだった。

最も得意とするステージは高速走行。直進性のチューニングはお見事の一言で、新東名120km/h区間を最速の流れに乗って走る時も、言うなれば500mくらい先に結びつけられたゴム紐が縮むのに引き寄せられるような感じで進みたいと思う進路がキープされ、ステアリングの微小な修正をほとんど必要としないまま糸を引くようなクルーズ感が保たれた。

高速道路以外のクルーズフィールも一般道、自動車専用道路を問わず高い安定性を発揮した。2140kgという重さを柔軟性の高いサスペンションで支えていることによる効果か、少々深めのアンジュレーション(路面のうねり)が続くような箇所でもタイヤがしっかり路面に圧着されるような感じで、少々元気に走った程度ではタイヤグリップがすっぽ抜けるようなことは皆無だった。

タイヤはハンコック「ヴェンタスS1 evo3 ev」。静粛性の向上が図られているが、滑走感はそれほど高くなかった。タイヤはハンコック「ヴェンタスS1 evo3 ev」。静粛性の向上が図られているが、滑走感はそれほど高くなかった。

過大な車重はコーナリングスピードに関しては不利に働くが、ID.4 Proは前235/50R20、後255/45R20というファットなタイヤを履いており、山岳地帯のワインディング区間でも十分な速力を示した。ただし絶対的なウェイトの影響は避けられず軽快感は希薄。タイヤグリップで強引に曲がるという感じであった。

そういう常時過荷重というフィールを除けば全体的にVWのエンジン車と軌を一にするもので、ドライブ中は終始、「ああ、EVだな」ではなく「ああ、フォルクスワーゲンだな」という感覚。ID.4は後輪駆動だが、ウェット路面のコーナリングでアクセルペダルの踏み込み量を増したりしてもスタビリティコントロールが完璧な仕事をし、後輪駆動的な挙動をほとんど示さなかった。車検証の軸重を見ると重量配分が前47:後53と後ろ寄りになっているのだが、ステアリングを切り込んだ時の鼻先の軽さもなく、むしろ前輪駆動のエンジン車のようなネバネバとした感触。BEVの特性を生かすのではなく、電気で走るクルマをVWの哲学に沿ってチューニングするというアプローチなのだろう。

ドライブしていて意外だったのは、全長4585mm、全幅1850mmとそこそこ大柄であるわりに細い山道や狭い路地をあまり苦にしなかったこと。鹿児島への往路の最後、熊本人吉から宮崎の京町温泉まで九州自動車道でも国道221号線加久藤峠でもなく、2020年7月豪雨以降ずっと不通になっている肥薩線沿線の矢岳高原を通過するサブルートを選択してみた。

◆快適性、タイヤ性能

大畑駅~矢岳駅間の踏切にて。2020年以来機能は停止したままだ。大畑駅~矢岳駅間の踏切にて。2020年以来機能は停止したままだ。

30年ぶりくらいの訪問だったが、人吉に近い肥薩線大畑駅の先は「こんなに狭くて遠い道だったっけ?」と思うような秘境感たっぷりの道。1車線道路と呼ぶのもどうかという幅員の狭い区間あり、鋭角に曲がる分岐ありと、ミッドサイズクロスオーバーにはかなり辛いコンディションだった。

そんな道をわりとストレスなく通行できたのは、最小回転半径がこのクラスとしては小さい5.4mであることに加えてフロントの見切りが良く、車両感覚をつかみやすかったことが大きい。4年以上も鉄道が不通となっている矢岳にもちゃんと集落はある。矢岳小学校は2014年に閉校ずみだが、2020年には人吉出身の伝説の野球選手、故・川上哲治氏の生誕100年イベントが行われた形跡があったりと、こんな山奥でも社会活動が行われていることがうかがえた。そういうルートにも臆せず進めるというのはID.4の良い点と言えるだろう。

快適性に話を移す。全般的に乗り心地は良好。車重を押して機敏さを無理に出そうとしていないぶん車体の揺動を無理に止めようとする動きがなく、揺すられ感のない気持ち良い乗り味だった。静粛性も非常に高い。窓ガラスのスペックが高く、隣を大型トラックが走っている時も効果的にノイズを減衰させていた。また車体の隙間からの騒音侵入経路潰し、車体そのものの共振抑制に関しても十分に練り込まれた設計であるように感じられた。ID.4 Proには12チャンネルサラウンドシステムが搭載されているが、ボリュームを大して上げずとも良好なサウンドを楽しめるだけの環境が舗装面の荒れた道でも維持された。

山越えで篠突く豪雨に見舞われた後、雨上がりの森の中を宮崎に向かってディセンド。山越えで篠突く豪雨に見舞われた後、雨上がりの森の中を宮崎に向かってディセンド。

その中で難点と感じられたのは、古いコンクリート舗装やバラストが浮き出たアスファルト舗装などザラついた路面でのゴロゴロ感。これは防振処理が甘いというよりは装着タイヤ、ハンコック「Ventus S1 evo3 ev」の性格が影響しているのではないかと思われた。

このシリーズはバリバリのスポーツタイヤではないが、ブロック剛性、サイドウォール剛性の高さを重視したパフォーマンス志向。evと銘打たれていることからもわかるように静粛性の向上が図られており、前述のように実際のドライブでもその効果は十分に認められた。

2020年に2900kmテストを行ったテスラ『モデル3 ロングレンジAWD』に装着されていたev銘なしのVentus S1 evo3より明らかに1枚上手。それだけにゴロゴロ感、ザラつき感が残ってしまったのは惜しい。VWと相性のいいコンチネンタルのモデルを合わせてみたらどう変化するだろうかなどと思ったりもした。

◆インフォテイメントシステム、ADAS(先進運転支援システム)

センタークラスタ上にディスプレイオーディオが標準で付く。ナビ機能はなく、スマホのカーコミュニケーションシステムと連携させる。センタークラスタ上にディスプレイオーディオが標準で付く。ナビ機能はなく、スマホのカーコミュニケーションシステムと連携させる。

ID.4 Proのインフォティメントシステム「Ready 2 Discover MAX」はカーナビを主軸とした従来のものと大きく異なる。端的に言えばディスプレイオーディオで、ユニット自体はカーナビ機能もコネクティビティも持たない。ではどうするのかというと、ナビと通信はスマートフォンに全面的に依存するのだ。

筆者のスマホのOSはGoogleのAndroidなので、AndroidAutoを通じてGoogleMapをディスプレイに表示させる。最近のVW車はインパネ内にナビ画面を表示させることができ、その地図の拡大・縮小も直感的に行えるなど優れたユーザビリティを実現させていたが、ID.4は「この先何メートル先を右に」といったディレクションのみが表示される、欧州で主流の方式だった。

オーディオや通信もすべてスマホのものを使う。スマホに専用アプリ「App-connect」をインストールすればボイスコマンドなども利用可能になるとのことだったが、自分のクルマというわけではないので使う機会はなかった。筆者はディスプレイオーディオさえあればナビ専用機はなくてもいいという考えだが、この価格帯のクルマでナビ機能を持たないインフォテイメントシステムというのは久しぶりで、その点はいささか面食らった。

ヘッドランプは照射能力、照射範囲のアダプティブ制御ともきわめて優秀だった。ヘッドランプは照射能力、照射範囲のアダプティブ制御ともきわめて優秀だった。

ADASは同一車線内全車速運転支援をうたう「Travel Assist」。早い話が現代においてはごく平均的な機能メニューで、車線変更アシストやハンズオフ(手放し運転)などのレベル2自動運転の機能は持たない。各機能のチューニングの中で優れていたのは高速道路における前者追従クルーズコントロールで、新東名120km/h区間で高速車に後続するさいも神経質な動きをほとんど見せず実にナチュラルに追従した。レーンキープはかなり強力に介入するタイプで、ONにしたときは機械に逆らわず、自分の意思を優先させたいときはOFFにするのが吉という印象だった。

その他、安全面で“これはいい!!”と感じられたのはヘッドランプの性能。過去に長距離ロードテストを行ったVW車の中でヘッドランプの優秀性に感動したのは旧型『パサート』だが、ID.4のヘッドランプのパフォーマンスはそれに近いものがあり、夜に闇深い山間部を走る時も遠方にいる野生動物を発見しやすいことこのうえなかった。カーブで進路の奥を照らすコーナリングランプが明るいのも美点。ロングツーリングにおいて高性能なヘッドランプがいかに有り難いかということを再認識した次第だった。(後編に続く)

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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