【神尾寿のアンプラグド 試乗編】自動車業界のサードインパクトになるか…プリウス プロトタイプ

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【神尾寿のアンプラグド 試乗編】自動車業界のサードインパクトになるか…プリウス プロトタイプ
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今年はまさしく「ハイブリッドカーの年」だ。

自動車市場全体では販売不振の逆風が吹いているが、ハイブリッドカーだけはその風をうまく利用しながら急成長する兆しを見せている。今年4月からは自動車取得税と自動車重量税の免除(当初3年分)が実施。さらに4月上旬にもまとまる経済成長戦略では、「低炭素革命」の名目でハイブリッドカーやEV購入者に1台数十万円の補助金を支給する計画も議論されている。EVの大規模な一般販売は来年以降になる見込みなので、今年は“今そこにあるエコカー”であるハイブリッドカーが様々な恩恵をフルに受けられそうなのだ。

そのような中で、市場で激突の火花を散らすのが、『プリウス』vs『インサイト』の「ハイブリッドカー対決」である。先攻した本田技研工業のインサイトは販売開始以降、“200万円以下で買えるハイブリッドカー”として好調なセールスを記録。しかし、その好調に待ったをかけるがごとく、話題をふりまくのがトヨタの3代目プリウスだ。まだ正式発表前ながら、2代目プリウスより安い200万円台前半で購入可能な割安感と、その走行性能や各種装備の充実、デザインの洗練などが注目されている。

筆者はこの3代目プリウスのプロトタイプに、富士スピードウェイで試乗する機会を得た。そこで今回のアンプラグド試乗編は3代目プリウスの魅力と価値について考えてみる。

◆いま手がとどく「5年後のスタンダード」

「5年後にはあたりまえになっている技術や機能、装備。そういったものを取り込むのが、プリウスというクルマです」

プリウスプロトタイプの試乗会で、3代目プリウスの“父”である大塚 明彦氏(トヨタ自動車 トヨタ第2乗用車センター 製品企画 チーフエンジニア)はそう明言した。トヨタにはもうひとつ先進性を映し出す鏡として、レクサス『LS』が存在するが、「レクサスとプリウスでは未来に対するアプローチが違う」(大塚氏)のだと話す。

「レクサスの先進性は、様々な先進技術を取り込んで未来を模索します。一方で、プリウスの先進性は、あくまで『5年後には普及しているだろう』というもの。未来を先取っているのです」(大塚氏)

すなわち、プリウスが体現しているのは5年後のデファクトスタンダード(事実上の標準)だ。2014年のタイミングで先進的なエコカーから、自動車業界のスタンダードになる。それが3代目プリウスだ。

この話を聞いたとき、筆者の脳裏をよぎったのが、2007年のMACWORLD SAN FRANCISCOでのスティーブ・ジョブスのスピーチだ。彼は完成したばかりの初代iPhoneを高らかに掲げて、「iPhoneは他の製品よりも5年は先行した革新的で魅力的な製品だ」と語った。それから5年後、日本を含む世界各国でiPhone 3Gが発売されて大ヒット。筆者はこのiPhone 3Gを発売前に試したジャーナリストのひとりであるが、その中には確かに“5年後のコンピューティング”の世界が構築されていた。その世界観が正しかったことは、iPhone 3Gと同じコンセプトをNokiaやMicrosoft、Googleなどがキャッチアップしようとしていることからも明らかだ。

プリウス・プロトタイプを試乗して筆者が感じたのは、まさにAppleのiPhone 3Gと同じ、将来スタンダードになりうる「5年後の未来」の手ざわりである。

◆プリウスはまさしく“ハイブリッド・スペシャル”

それでは具体的に、プリウス・プロトタイプを見てみよう。

既報のとおり、3代目プリウスのエンジニアリング的な目玉は、ハイブリッドシステム全体の高出力化だ。モーターの出力は60kWまで高められ、パワーコントロールユニットも大容量化。エンジンの排気量も先代の1.5リットルから1.8リットルまで引き上げられた。

また、電気系パワートレイン以外の部分も、ほとんどが新設計された“ハイブリッド・スペシャル”である点もプリウスの特長だ。高膨張比・低燃費指向のアトキンソンサイクルエンジンを筆頭に、今回初採用になる電動ウォーターポンプ。廃棄熱再循環システム、高効率・省電力化を実現したエジェクターサイクルシステム型エアコンなど、多くのデバイスが3代目プリウス向けに専用設計されている。

この高出力化による恩恵は顕著で、先代プリウスにも増してゆとりのある走行感覚が得られる。特に筆者が好感を持ったのが、低速・中速域でモーター主体で走ったとき。プリウスはインサイトと違い、モーターだけでも走れるので、とても“EVっぽい”。特にアイドリングストップからの立ち上がりでは、モーターから動き出すので振動と騒音がゼロで動き出す。このスムーズさはプリウスの大きな魅力だ。プリウスはアイドリングストップを積極的に行い、EVモードも50 - 60km/hまで実用的に利用できる。

実際に走らせてみると、この“ハイブリッド・スペシャル”である実感はかなり大きい。プリウス独特の「モーター+エンジン」の乗り味はそのままなのだが、それがより洗練された上で、従来よりもさらに旧来のガソリン車の走行感覚との差別化が図られているのだ。モーターの存在感を最小限に抑えて“ハイブリッドカーらしさのなさ"を打ち出すインサイトに対して、プリウスはモーターの存在感が強く「エコで新しいクルマであること」を主張する。

プリウスとインサイト、どちらのドライビングフィールをよしとするかは、個人の好みが大きく影響する。両者は基本コンセプトがまったく違うのだ。例えば、効率的かつ経済合理性の高い設計思想や、小型車展開も容易なハイブリッドシステムのパッケージングという点では、インサイトの方が優れている部分も多くある。

しかし、消費者サイドの視座に立てば、プリウスのハイブリッドシステムは先進性が“わかりやすい”。これは事実だ。ハリウッドのセレブリティではないけれど、エコでロハスな自分を演出し、その満足感を得たい人には、引き続きプリウスが最適解と言えそうだ。

◆インテリアと先進装備ではプリウス圧勝か

3代目プリウスが、間違いなく優れている部分もある。インテリアと数々の先進装備だ。

インテリアはとてもセンスがよく、大人の落ち着きと先進性を感じるクールさが絶妙なバランスで両立している。「まだプロトタイプなので内装はトヨタクオリティに達していない」と説明されたが、その段階でも質感は十分に高かった。変にギラギラと飾り立ててないのも好ましい。総じて知的で、クオリティの高いインテリアである。

また、個人的にとても気に入ったのが、プリウスのユーザーインタフェース。特に高く評価したいのが、ハンドルのタッチセンサー付きボタンに触れると、センターメーターに透過して浮かび上がる「タッチトレーサーディスプレイ」だ。このデザイン性はとても高くて、しかも使いやすい。しかし、ハンドル側のタッチセンサーが接触検知にしか使われてないのは少し残念だ。ここまでやるなら物理的なスイッチは完全に廃して、すべてタッチセンサーで入力系UIを構築してほしかった。その方がハンドル側のデザインがすっきりして、インテリアの印象がさらに涼やかになると思う。

先進装備も充実している。

まず、この分野で重要な先進安全装備では、プリウスの充実ぶりは特筆すべきものがある。横滑り防止を軸とする動的姿勢制御システムとして「S-VSC (ステアリング協調車両安定性制御システム)」を装備。さらに急ブレーキ時にすべてのストップランプを明滅させる「緊急ブレーキシグナル」や、オプションでミリ波レーダー方式のプリクラッシュセーフティシステム(ACC機能付き)などを用意している。選択できる先進安全装備の多さでは、高級ブランドのレクサスにも負けていない。安全というクルマの本質的な価値において、積極的に先進技術を採用する姿勢は高く評価したい。

一方、カーナビなどインフォメーション系の先進装備では、フロントガラス投影型の「ヘッドアップディスプレイ (HUD)」に注目したい。これは「HDDナビゲーションシステム&プリウススーパーライブサウンドシステム」のパッケージに含まれるもので、フロントガラス上に半透明にスピードやターン・バイ・ターンのナビガイダンス、簡易エコドライブモニター表示などを投影する。類似の装備はレクサス RXにも搭載されていたが、それと比べても、プリウスのHUDの方が見やすかった。サイバー感があるだけでなく、とても実用的なのだ。

プリウスの純正HDDナビゲーションシステムは、この他にもリアモニターと、車庫入れ支援機能の「インテリジェントパーキングアシスト(IPA)」もセットになっているという。また詳しくは試せなかったが、プリウス用のG-BOOKには、インサイト用のインターナビに似たテレマティクスによるエコ運転支援サービスのメニューも確認できた。純正カーナビのパッケージは、後付けの非純正ナビと比べると割高になるが、資金的に余裕があるなら積極的に選びたいところだ。

◆プリウスショックが世界を駆けめぐる!?

3代目プリウスは、まさに王道というべき進化を遂げたクルマだ。歴代プリウスのよさを伸ばし、弱点を克服し、プリウスの独特のユーザー体験をとても洗練されたものに昇華させた。ガソリンエンジン車と一線を画す、プリウス的ハイブリッドカーの価値観における、ひとつの完成形といってもいいだろう。今やトヨタを代表するブランドになった「プリウス」の3代目を襲名するのに恥じないクルマにしあがっている。このプリウスが200万円代前半で買えるとしたら、その影響は絶大だ。非常にコストパフォーマンスが高いことはもちろんだが、ライバルのインサイトはもちろん、他のクルマの価値観や存在意義まで揺さぶりかねないパワーを秘めている。

自動車産業は昨年から「サブプライム・ショック」と「リーマン・ショック」という2つのインパクトに襲われたが、3代目プリウスの登場は、これまでのクルマの価値観を覆し、クルマに劇的な進化を促す決定打にすらなりそうだ。いわば、自動車業界のサード・インパクトである。

“クリーンで静か、安全かつ知的である”という新たなクルマの価値観を、3代目プリウスは多くの人々と世界に広げていけるか。その登場と市場の反応を、期待をもって見守りたい。

《神尾寿》

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