筆者の中で、登場時と現在の印象がこれほど大きく変わったクルマも珍しい。BMWは非常に好きなブランドのひとつで、これまで3台を乗り継いだほど。
しかし、現行『5シリーズ』について、デビュー当初に抱いたのは「嫌悪感」だった。特徴的すぎるデザインにはついていけなかったし、走りについても、エンジンはよしとして、乗り心地が固く、アクティブステアリングがまったくダメ。「慣れれば大丈夫」ともいえないような、安心して普通に走れない仕上がりだったからだ。「どうしても欲しい」という人はいざしらず、誰にも薦められないクルマになったと思ったものだ。
ところが、しばらく経って乗った際に、アクティブステアリングがずいぶん洗練されていることを確認した。さらに、超個性的なデザインはいつしか、むしろ「好み」の範疇に入ってきた。
直近で5シリーズに接したのは2009年の初頭で、「325i」と同じタイミングで「530i」に乗ったのだが、「530i」のシルキーでトルクフルな直6エンジンは絶品の仕上がりで、乗り味もずっと滑らかで上質であることをあらめて思い知った。『3シリーズ』が上級移行したことで、5シリーズとの差が縮まったようにいわれているが、「差」は確実に存在する。それは、意外と小さい3シリーズと5シリーズの価格差に比しても、得られるもののほうが大きく、プライスバリューは高いと思う。
ただ、個人的には、本国にはあるアクティブステアリングの付かないモデルもラインアップしてもよかったのではと思っている。というのは、複数所有時に問題があるから。後期の5シリーズであれば、他車から乗り換えたときでも、すぐに慣れることはできるが、その逆は難しいからだ。アクティブステアリングの付かないクルマに乗り換えると、ものすごく鈍く感じてしまうのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
岡本幸一郎|モータージャーナリスト
ビデオマガジン『ベストモータリング』の制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスに転身。新車から中古車、カスタマイズ事情からモータースポーツ、軽自動車から輸入高級車まで、幅広い守備範囲を誇る。「プロのクルマ好き!」を自負し、常にユーザー目線に立った執筆を心がけている。