VWアウディグループの環境戦略は、小排気量化と過給でトルクを落とさず、CO2を減らそうというものだ。わかりやすく言えば、絶対的な排気量を小さくして燃費を改善し、必要に応じて過給で力を補うということになる。技術力さえあれば、もはや大排気量など必要ないというわけだ。
今回試乗したアウディ『A6』は、従来の4.2リットルV8直噴の代わりに新設定された3.0リットルV6直噴スーパーチャージャーエンジンの「3.0TFSIクワトロ」だが、これで従来のV8より3割以上カタログ燃費が良くなっているのだから、今でも、過給器付きは燃費が悪いと一般には思われている日本でも、認識を改める必要がありそうだ。最近登場した『A3スポーツバック』のエントリーグレード「1.4TFSI」も同様で、そういったダウンサイジングコンセプトが奏功していながらドライブフィールに不満がないというあたりも立派。
燃費さえ考えなければ、安全性から言ってすべてのクルマが全輪駆動であるべきだが、今やA6の現行モデルは全車クワトロで燃費も良い。クルマとしてまさに正しい姿だ。もはやA6のパワートレインには何一つ不満がない。あるとすればティプトロニックを「DCT」(Sトロニック)にすることくらいか。
反面、5年前のA6デビュー時にも感じた内装の質感とか、右ハンドル化による運転席左足スペースの不足といった不満点は、残念ながら大きくは改善されてはいない。アドバンストキーシステムと呼ばれるインテリジェントキーをはじめ、デジタルな装備は満載されたものの、こういった基本的な部分はフルモデルチェンジを待つしかないということか。またサイズアップした新型『A4』の登場によって、A6を買う意義が微妙になったことも否めない。できればボディもダウンサイジングしたいという人にとって、これは悩ましい。
とはいえA6全般に言えるのは、モデルサイクル末期のお買い得商品ゆえの手抜きをせず、燃費のいい新型エンジンやハイテクを載せてくるというメーカーとしての積極性が素晴らしいということだ。この不況下でアウディが持ちこたえているワケは、そのあたりにあるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
水野誠志朗|自動車ライター
97年に新車試乗記を中心とするウェブマガジン「MOTOR DAYS」を立ち上げ、以来毎週試乗記をアップし、現在550台を超える試乗記を公開。「クルマはやがてはロボットになる」として、走りだけでなく利便性・安全・エコの面から新たなクルマのあり方を提言している。名古屋市在住。